勾麗や阿珍


06/01/05 南方週末 王文

 昨年末本紙は女廊で働く女性、勾麗の凄惨な人生を紹介した。読者から、「読むと涙が止まらなくなった」という便りを頂いた。実は6年前にも似たような事件を記者は採訪していた。

訳注: 05/10/13 の
  「娼婦の生前日記が悲しき運命を語る」 を参照



 阿珍、彼女は江西省の有る貧しい村で生まれた。幼少時に母を亡くし、3才と生まれて直ぐの二人の弟が居た。母の死後10年以上経つがお金が無くて父は後添えを迎えることが出来なかった。そして遊び場の女性を相手にしたり、酒におぼれるような日々を送っていた。稼いだ金は全て酒に注ぐような毎日で、女性との間にもめ事が絶えなかった。

 阿珍が6才になるともう一人前として食事の用意や洗濯を任された。鼻水を垂らした二人の弟も彼女が面倒を見た。阿珍は小学校だけは出た。学校の先生はそのことをとても残念がってくれた。「このような元気で将来性の有る子供が学校に行けないなんて、何という不幸なんだろう」と。

 13才になると男性のように今度は薪割りや田植え、芝刈り、稲もみなども手伝わされた。
 毎日の仕事は正に”重く苦しい”ものであった。それでも彼女は大人の女として身体は大きくなっていった。
 有る夜、村の一人の男と遊んだ。しかしその男は直ぐに相手を変えた。

 16才の正月の3日目、破れた戸口に一人の身なりの好くない目の鋭い男が立っていた。
 父が「弟たちも次第に大きくなってお金がだんだん多く必要になってきた。お前はあの男と一緒に女廊に行って働け」と命令した。
 阿珍の心は驚きと不安とそして、”やっぱり現在の環境から逃げられる”という考えが湧いてきて、その男に従った。
 父からは毎日のように殴られる生活であったのだ。

 阿珍は言う。他の人から見れば私達の商売はお金が大きく動き、仕事の中身が簡単に見えるかも知れない。しかし私は毎日のように泣きました。どの男も狼のように私を扱いました。
 男達から毎日身体を求められ、しかしそこにはどんな愛情もなかった。
 阿珍が18歳の時、女郎に初めて来たという男が見えた。その男はとても緊張していた。
阿珍はその男が好きになった。しかしその男は実際には良い点は何もなかったのだ。喧嘩早く、ほらを吹き、威張り、お金を簡単に消費した。阿珍がその男を好きになったのは、最初の初々しいと思えた第一印象の為であった。
 阿珍は職業上多くの衣服を持っていた。求められるまま、それらを売ってその男に貢いだのだ。

 阿珍には”愛情”とはどんなものか、まだ全く分かっていなかったのだ。しかしその男に捧げることが、阿珍にとっては大切な”愛情”であった。
 そして6年前、記者が阿珍に出会った頃、その男が喧嘩をし、相手を植物人間にし、投獄され15年の刑を受けることになった。
そこでその男との縁も途切れた。

 阿珍はお金を貯めては男に捧げていたので、ほとんど残っていなかったが、それからは何とかその男を救出しようと努力してもみた。
 その男がこれまで喧嘩をするとき、阿珍は地面に跪いて止めようとしたものだ。そんな彼女の願いが報われなかった。それも「運命だ」と彼女は言う。
 
 阿珍は正月が来ても家に帰らない。帰ればきっと父に殴られるだろう。そして今では弟たちも誰も家には居ない。かっての男とも今となっは唯苦痛の想い出だけが残っている。
 
 阿珍は3年も経てば、どこか遠くへ嫁に行って、そしてもう再び男に弄ばれるような事はなくなるだろう、と言う。
 その3年で貯めるお金のことを考えた。
彼女は1年で3万元程貯蓄できる。父に家を建てるために4万元与え、弟にも3万元与え結婚させ、そして残りは自分の将来の夫に提供する。
 ふしだらな男にお金を捧げることはもうしません、と誓う彼女。しかし彼女の説明する貯金の提供先は、父、弟、将来の夫で、どれも”男”だ。

 その採訪から1年して私は阿珍から便りを受けた。彼女は公安の手入れで捕まり、罰金として数千元取られた。そしてその街で働けなくなり、違う街へ移ったという。

 そして又1年して彼女から連絡が来た。
ついに彼女の念願の日が来たのだ。嫁入り先が決まったのだ。それは生まれた土地から相当離れた村であった。
 彼女は父に家を買った。弟にもお金を渡し、村の嫁を貰う手はずが整った。
 そして彼女の2番目の弟が20才になり村に好きな娘が出来た。しかし婚約に必要な数万元と言うお金が出来ず、今はそこまでは援助できないと言う。

 ここで阿珍の話は終わる。彼女の物語は正に涙なしには聞けない苦痛に満ちている。最後には故郷から遠く離れたところへ嫁に行った。
 でも、こんな言い方を許して欲しい。彼女は勾麗と比べればすっと幸福な人生ではないだろうか。
 彼女の受けた傷は命には別状がなかったのだ。新しい生活が始まり、それは過去を消してくれるのだ。
    彼女の幸せを祈る!

「后注 これは一つの真実の物語だ。私はこの物語をずっと心に閉まってきた。この物語は多くの問題に関係している。道徳、価値観、農村、封建色の強い男女関係、これらのどれも考えれば考える程、私の胸は痛む。
 今日は新暦の新年だ。思い切って読者に伝えよう。」


***********************

訳注:
 貧しい国、封建色の強い国では、心の優しい女性が自分を省みず男性に尽くす、という悲話が幾つもあります。日本にもそんな時代が最近まであったでしょう。その”尽くす”という行為が女性の本能として描かれた小説を私も幾つか読んだように思います。でも今の日本ではほぼ消えたのではないでしょうか。
 でも日本の男女関係と言っても、中国の現状よりはレベルが上かも知れませんが、まだまだ改善されるべき問題を持っています。
 最近聞いた有る女性の話です。
 「今の日本の男性は結婚するとき男性の身の回りの世話をする女性を求める。平等に助け合う関係ではない」と。
 中国の現状と日本を比べて皆さんはどう感じましたか。 

 なお中国では社会保障がないので跡継ぎとして男性が尊重され、出生も男性が求められるので、人口比も男性が異常に多い。