跪いて謝って見せた
    副市長のその後
    
05/01/13 南方週末  戴敦峰

□もし李玉春が副市長「李信」に会わ
なかったら、彼女は今でも静かに安心
して生活を続けていただろう。
□だが今、李信副市長が逮捕されて、
彼女は一瞬にして全国から注目される
ことになった。
□もし李信副市長が災いをもたらさなか
ったら、李玉春家族は、このような不幸
に落ち込むことはなかったろう。母は
ショックで死亡、弟は逮捕後死刑判決、
姉は解雇、玉春さんは被告の身。

 昨年、04年6月23日、公安は李春玉
さんを「弟の李登峰を匿った罪」で逮捕し
拘束。さらに7月30日、「隠す」罪で追加
逮捕。 弁護士によると、この二つの言葉
は法律上何の区別もなく同じもの。だが
公安は2重逮捕の意義ありとしている。

 04年10月21日、弟の李登峰は短刀を持って副市長を恐喝し、土下座させ、それをインターネットに公開した。李登峰は直後上海に飛行機で逃げた。このとき李玉春は弟に1万元を渡し、逃走を助け隠匿に協力したことになっている。

 この裁判が05年1月6日午前に行われることになった。だが法廷は突然前日の1月5日午後に繰り上げた。弁護士や李玉春さんも抗議したが、近隣の報道関係者数人が慌てて法廷に駆けつけたときには、裁判が終わっていて、誰も傍聴することが出来なかった。
 
 弁護士の調べたところは以下のようだ。
 玉春さんは弟と仲が良く、弟の登峰が故郷で何か仕事を始めたいと行ったので、数万元を渡したことがある。弟が脅迫することになるとは知らなかったと言う。
 彼女が2ヶ月の拘留中、同室の女性犯罪者に、犯罪の告白を勧め成功したことは、彼女の手柄とは見なされないらしい。
 法廷は1月22日までに判決を出すという。

 現在この事件は中国全体に大きく報道されている。
 「中国経済時報」は、この事件は一般の事件と根本的に異なる。政府と法廷の信用が問われている、と書いている。
 02年初め、李玉春は偶然上海で小さな店を開いていたとき、副市長とは知らず李信と出会った。李信の説得で彼女は「李岩」の偽名で「岩昆会社」を設立。この会社への会計帳簿に銀行から振り込まれた大量の金額が記帳されていることを知って彼女は驚く。このことは李信から堅く口止めされた。、
 事件に巻き込まれることを恐れて彼女は李信から逃亡。だが李信は彼女を追いかけ殴打し、彼女の家族を調べ上げ、命令を聞かないと家族の不幸到来を暗示して脅迫した。

03年6月、李玉春さんが告発しそうなので、副市長は彼女に跪いて謝罪をして見せ、それを彼女は写真に撮った。さらに03年7月、副市長は玉春さんの弟李登峰さんの前でも告発をしないように土下座をして見せた。その時も写真が残された。同時に誠意を見せるため副市長は保証書なるものを書いて渡している。その保証書には金銭に関する悪いことはしないこと、彼女に危害を加えないことが書かれている。
 その後も彼女は北京などに逃げて隠れていた。だが彼女の故郷の方に副市長は調査の手を回し、家族への脅迫が始まった。彼女から親へ来た電話の発信所を電話局を使って調査し、彼女の居所を掴んだ。

 03年10月18日に彼女の姉の家に8人の男が土足で進入し、玉春さんを探し、居ないことが解ると脅迫の大きな張り紙を入り口に貼り付け、窓ガラスを全て割った。
 その時の脅迫で、玉春さんが隠して置いた副市長の土下座の写真と保証書が取り上げられた。渡さないと家族全部の命を貰うと脅迫されたという。

 03年10月21日、弟が副市長の手下数人に呼び出され、残りの写真と保証書を出すように要求された。その夜、弟の家の前に車で8人ほどの男がやって来、殴り合いになり、弟が謝って一人を殴り殺した事件が発生した。
 弟、李登峰殺人事件について、04年5月14日法廷が開かれた。弁護を引き受けた中国政法大学教授の洪道徳氏が副市長土下座の写真と保証書を提示し、一座は傲然とした。 もう一人の弁護士が、当日弟の家に来たのは副市長お抱えの殺しの専門家であること、を証言した。法廷は「李登峰死刑、猶予2年。遺族への弁償8万元」を裁定した。
 弟は判決不服として上級へ訴えたが、山東省高級法院はまだそれを受け付けていない。

これらの事件が玉春さん家族を不幸のどん底へ突き落としている。彼女が副市長に出会う前はそれぞれ静かに生活を営んでいた。
 2年前から母は脅迫の中で病気がちとなり、ついに弟の死刑判決が出て以来涙が止まらなくなった。弟の妻も子供達が近所から脅迫される日々が続き職場を退職。
 04年11月、母は玉春さんが釈放されないことを知って心臓発作で死亡。この家族の不幸は玉春さんには知らされず、彼女は母の死亡を知らなかった。今年の1月5日の判決を迎えて彼女は弁護士に「母と姉に電話を入れて、私の法廷に立ち会うように」と言付けたという。
 法廷で玉春さんに会った姉は「妹は副市長が打倒されたことを知ったので、安心のためか気持ちがしっかりしているように見ました」という。
 04年7月副市長が逮捕された。だがこの裁判は全て非公開で行われている。山東省のその筋に詳しい人によると、もうすぐ判決が出るだろうという。

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訳者注:
 ああ、無情。

 何故中国には司法の独立・尊厳がないのか。
 何故副市長は電話通信記録を調査できるのか。弟が殺人事件を起こしたのは「殺し」の専門家が来たからで、その事情があっても死刑になるのか、何故上告が認められないのか。
 李玉春さんは何故拘束される必要があるのか。副市長は何故非公開裁判なのか。
 考えれば考えるほど疑問が湧いてきます。これでは国民は安心して生きて行けません。

 党の言い分は、全ての権力を集中して、公安も司法も議会もマスコミも、そうして理想の社会に行ける、ということでした。権力の分散、法治はブルジョワ的でマルクスの勉強が足りないと建国時は説明しています。

 毛沢東死後、法治が必要なことが叫ばれ始め、胡耀邦が憲法作成を開始。各種法律が80年代になって作り始められます。
 20世紀最後になって法治国家になることを「人民大会」で決議します。しかし権力を独裁する党が自分自身を裁くことを許すはずがありません。
 ただこの事件で、弟がインターネットに公開出来たことが、中国でも情報の公開が避けられないことを示していて、中国人が言うように「北朝鮮よりは解放されている」ことの証明でしょうか。            
 
跪いて謝って見せた副市長
泣き伏す家族