黄金海岸の開発

2004/01/08  南方週末 記者 呉伝震

深土川(シンセン)市に在る万科プロジェクトの「黄金海岸開発」は本来市政府により開発が禁止されている地帯。だが現実には美しかった海岸付近の緑が無くなり、マンション建設が始まって居る。

04年1月3日、シンセン市人民大会代表委員達20余人がこの万科の現場の調査(シンセン市牛角嶺)に来た。現場では工事人達が黄色の服を着て忙しそうに走り回り、近くではトラクターが大きな音をたてている。海岸線から2,30メートル入ったところにコンクリートの建物が出来つつある。海岸ではこの工事による危険を避けて遊泳客達が遊んでいる。そしてここに通じる道路には「この付近開発を禁じる」の立て板が立っている。
 万科公司の説明によると、この地帯の開発の1期工事は今年の5月には完成し、別荘地帯となって売り出しが始まる。この企業にとって最大のプロジェクトだという。
 所帯数106戸、1戸の価格は平方米当たり1万から2万元の間。
 ここはシンセン市東部にある「黄金海岸」と呼ばれているところで、海岸線は約17マイルあり、風光明媚として有名なところ。
 だが、ここは「開発禁止地帯」としその風景が守られてきた場所でもある。
 
ここの開発は02年11月に始まり、数千年以上昔から原生林としての風光明媚な土地がすでに取り返しがつかないまでに破壊されている。
 開発が始まると、この公司は自然林に火をつけて山火事を起こし木々を消滅した。連絡を受けていない消防隊員が駆けつけ、また保安担当の公安が30人ほど駆けつけた。近くの道路の街灯が破損し、以降政府当局と公司の間に睨み合いが続いていた。
近くの休暇村を経営する経営者達はこの破壊を止めるべく政府に調査を依頼してきた経緯もある。
 また近くにはいくつかの公司が油倉庫を集中させていて、もしそれらを運ぶ車に事故が有れば大火災になる可能性も指摘されてきた。
開発と設計に当たっては、香港・北京、さらにはアメリカの会社にまで広げて依頼し、万科公司の名は現在中国では有名に成っている。
 一方シンセン市国土開発局は、02年4月に、すでにこの公司に開発許可を与えている。
だが広東省の国有土地使用権に関する規定では、売却に当たっては競売方式にて売り出すこととの規定がある。だが記者が調べたところ、市の国土局では競売方式が無かったという。
 判っていることはこの売却には何か特殊なルートがあるようだとのことである。
許可された開発面積は67571平方米。万科公司が納めた金額は1208万元。平均で1平方米当たりただの238元である。
  少し離れたところをこの公司が同じ時期に買い取っているが、20万平方米を4.3億元で買い取っている。平方米当たり2000元である。
記者が調べる内、さらに問題点が出てくる。

 秘密の協定書

  まずこの土地が万科公司に割り振られるには、中国での3個の巨大公司の間に協定があり、すでにそこで億を超える金が取引され、最終的に万科公司が独占的な許可証を得ている。
人民大会代表の面々が現地調査に来たとき、工事担当者達はこの工事による莫大な儲けについて得々と語った。
ある個人の投書でこの開発を知ったという一人の代表委員はすでに全て森林が消えているのを見て仰天したという。

2003年度の狂乱的土地開発
(概説)

 今中国の土地がまるで風で飛ぶように売買され、中央の政府も注目している。
 03年9月、国土資源部は別荘地名目での土地売買を当面禁止すると発表した。
 10月28日、全国人民大会は国土資源部部長”田風山”を任務違反として解職を決議した。
11月16日、国土資源部は全国にわたって土地調査を行うことを発表。これはかってない大型なもので、地方政府は地震が来たように震え上がっている。
 この発表が行われて以来、国土省への直訴は半分以下に減っている。
12月2日、再び国土の別荘地およびゴルフ場への転化を禁止する命令が出た。
 12月27日、全国国土資源庁は局長会議を開き、「国土資源の保全と利用に重大な問題があり、その管理上にも問題が突出している」と指摘、「有る地方では国土資源が管理されていず、有る幹部は法に違反して利に走っている」と言明、そして今後中央が直接その管理を指導する、と発表した。
12月、現在開発中の土地面積は中国全土の都市面積に匹敵すると調査結果を発表した。
 また10の省では458万畝の開発面積の68%が法的認可を得ていない、と発表した。
 このことは有る分析によると、耕地面積が99年650万畝、2000年1500万畝、2002年2500万畝の減少となっていて、これは中国の食糧自給に大きな驚異となっているという。

 

 私の麦田畑を奪わないで
(概略)
04/01/08 記者 劉建平

 04年の新年が静かに明けた。ここ黄河下流域の山東省斉河法王村の2800畝の農地が違法にゴルフ場にされる事件があり、60万人の農民達に嵐が吹いている。

訳注:畝。日本の畝の約7倍。6.67アール。
 1アールは100平方米。

 このような開発に伴う事件が今中国では連続している。
 02年5月、この村に県からの命令が来て土地が没収されるという。麦刈りを目前にして農民達は地獄に突き落とされた。農地を転用してゴルフ場や別荘にするという。
02年の5月のある日が暮れた頃、闇をついてトラクターがやってきた。
 農民達はトラクターの前に寝ころんで麦刈りが済むまで待ってくれと哀願した。
だが公安は農民に土地引き渡しの書類に腕力を使って署名させようとした。農民達は必死になってそれを拒否した。
 そのため公務妨害で農民の一人、王吉村は公安に逮捕され拘留された。これには300元を払って13日後釈放となった。
農民達によると、この時までに政府から何の説明も無いという。
 そして農地は麦もろとも無惨に平地にされた。農民達はその土地の下に埋まった麦の姿を眺めて悲嘆にくれた。
その後農民には1畝200元の補償が出ることになった。
 経済的な面だけの計算でも、麦だけで市価で400元以上になると言う。それ以外に薬品や肥料や彼らの労働は何の評価対象にもなっていない。
 果実を作っている農民には市価の10分の1で補償が出るという。
農民達は代表を決め中央政府に直訴団を送った。裁判にも訴えた。裁判は受理されなかった。1年が過ぎさり、選挙があった。そのとき農民達は代表団の人を村役人に選出した。
 政府から交渉の余地有りという通達が来たが、農民達には納得できる内容ではなかった。

03年末には国科集団(半官半民)が12億元を投資して別荘の建設に取りかかった。売れ行きが良さそうなので、この企業は42億元を追加投資し、次の開発を始めている。別荘だけでなく大型娯楽場や病院、大学村、中小学校なども建てる。
その他別の企業が24億元を投資して工業団地を建てる。更に別の企業が20億元で大型家具市場を建設する。そのほか2億元で大型娯楽場や80億元の住宅地の計画もある。
政府が折れて1農家当たり0.35畝の土地を支給するという。しかしWHOの規定によれば1農家当たり生活には最低0.8畝が必要と書かれている。

 記者が北京に本店が在るという「国科集団」企業を調べたところ、北京市工商局の管理課には登録が無いという。当の企業に直接連絡をしたいと考え電話番号を調べたがそれも無かった。
 今回の投資だけでも60数億元に達する。この巨大なはずの企業は実態がどこにあるのか。公告で表示しているホームページは他企業に依頼したもので、依頼された企業は維持費の支払いがないため掲載を断ったところだという。
 北京で開発工事専門の経験者に聞いてみると、北京には大手で、そのような名前の企業はないこと、しかし不動産業関係の企業では実態のないものがこれまでも幾つも登場したことがあるという。
 法廷代表者となっている蔡紅軍という人を調べると、2年前に違法な手段で土地を購入した開発企業の代表者であった。
 当時の新聞によると(2001年11月)、600畝の土地に建てた別荘は、これまでで最大規模の違法建築と書かれている。
 
   今何故、狂瀾怒涛の開発か

 今回数千畝の土地を販売するに当たって地元政府は国科集団の身元調査をしたのであろうか。
 記者が斉河県の土地管理局の副局長に電話をすると、「国務院が現在調査に来ており、これに関しては何も話せない」と言う。
次に局長の携帯電話番号を教えてもらい聞くと、当人は居ないと言う。しかし同局のほかの人に聞くと、電話番号は間違いないという。 昨年11月20日に国土資源部の検査団が来た。その前日、山東省の最高幹部達がホテルに結集して対策を練ったことが解っている。
 そして国土院の調査に対し、今回の土地大規模開発の意図は、「中央から要請されている”GDP成長”への対策として最大の成果を実現できる方法として土地開発を懸命に追求している」との本心が説明されたようだ。 GDPを上げることが地方政府の責任者としての実績評価になる、そのために各省はどこでも組織の末端まで、この数年懸命に土地開発に精を出しているとのことだ。
山東省の党書記、李風臣は各種集会に鋭意参加し「金儲けに関しては、他省の公司にも大いに儲けさせることが肝心だ」と言う考えを説明している。
 他所の企業が土地を買うとき一定の比率で土地を無償提供することも実行された。
 土地開発は多くの企業を呼び集める最大最善の方法であるという。
 こうして山東省は2002年だけでも数億元の土地売買を14回行い、その販売に当たっては多くの企業が優遇策に惹かれ馳せ参じている。
 今回の投資の参観に来ている他省の担当官達はこの省の優遇策を「本当に羨ましい政策だ」と漏らしている。
彼らの一人は「今回、国科集団に無償で与えた土地7万畝、その優遇策が60億元の投資を可能にしている」と発言している。
 彼ら官員達の羨望は「当県が実現した”GDP”増加による政府要員としての実績」のようだ。

 だがある国土資源部の一担当者は、「このような各地方政府が、只GDPを上げることばかり考えて土地開発をすることは如何なものか。このままGDPが継続して発展するだろうか。昨年は確かにGDPが増加したが、今年もし投資が減ったとしたら当然GDPが下がるのではないか」と心配している。
 
他方、政府高官にとって、土地開発は政治上の実績を上げること以外に、別の大きな誘惑があるのだ。
 今この地方で囁かれている言葉がある。「1、2、3」と言う言葉。
 企業が100万元投資したら、その100分の1がリベートとして高官の懐に入る。1000万元の投資なら1000分の2、億を超えると1万分の3のバックがある。これは全く現実的な政府高官と党にとって巨大な実利である。
 ある農民は、政府高官の家に「家庭用映画館設備」が運び込まれるのを見たという。
北京へ直訴した農民、現在は村役人に選出された農民のことを聞くと、農民達は「彼らは今は口を開かなくなってしまった」とのことだ。

 さて、すでに建設が終わった1期の別荘棟とゴルフ場は現在まだ誰も入居していないし、人影もない。
 この辺りに住む人の説明によると、「別荘地帯は現在周囲が全て畑で、景色など話にならない。ゴルフは現在の中国人にとって高嶺の花ではないか」と言っている。
 ここから最も近い都会は斉南市で、そこまで30キロある。
 将来ここは斉南市に合併される可能性があり、そうすれば土地は高騰するので、「今購入すれば大きく儲かる」というのはある開発企業の担当者である。

 国土資源部のある責任者は、「現在どこの地方政府も先ず土地を農民から取り上げ、それを如何に転がすかを考えている。これが一般的な傾向だ。それは土地は必ず上昇するものだからだ。」と言う。
 山東省の国土資源部の責任者は、「土地は現在地方政府が所有している。国はその監督権だけだ。従って農民達や販売方法など、問題が起こって初めて国土省の出番となる。これでは問題の根本解決は出来ない」とこぼしている。

北京師範大学の不動産学院の黄興文教授は、このような問題が起こるのは中国の「土地法」に問題があるからだという。
中国の「土地法」では国有地のみ販売が可能で、農村の土地は販売が禁じられている。これが逆に、地方政府は常に極めて低価格で農民から土地を取り上げることが出来る、と言う。その後高価格で開発企業に売り渡している。今どこの地方政府もやりたい放題で、土地売買での儲けと、自身の政治実績を上げる執念は中国全体で燃えさかっている。
 さて国土資源部の調査はそろそろ結論が出る頃を迎えている。(旧)正月明けか?

 訳者注:
 前回訳した、「中国で焼身自殺2件」の理由がここにあります。
 かってこれほど政治家に苦しめられた農民が他国にあったでしょうか。
 毛沢東在世中は、1959年、人民公社制度にして、早急に「共産主義」に近づくとして、農民を土地に縛り付けました。同時に行われた「大躍進制度」の悪影響もあって4000万人を超す農民が飢え死にしました。
 当時ソ連が自己の経験から農民の大量死の可能性を教え、この「人民公社制度」に反対しました。しかし毛沢東は当時、「マルクス主義」を信じていて農業の「計画経済化」を決行しました。現在でもまだ農民を土地に縛り付ける制度は撤廃されていません。(都会に出た農民を収容所に送る制度は昨年国際的批判のため廃止しました)
 現在中国で土地の売買とは、所有権が50年という制限があります。
 農民は「人民公社」の廃止とその後の開放以降(1978年)、「請負制度」によって、毎年地方政府から土地を請け負います。このため同じ土地で何十年働こうとも、土地は農民のもには成りません。60歳を超えても「請負」に参加し、働かない限り生きていけないのです。
 ただ、開放直後は、中国が独立(1949年)して以降の30年間、農業生産が党の直接指導による方式で、あまりにも原始的だったので、確かに大きな生産の向上が生まれました。統計にも出ています。
 だが、1980年代半ばから再び成長についていけない状態となり、現在のように都会とは格段の差が維持されています。

 中国政府が農村への教育設備投資をしなかったことと、社会保険制度も農民には与えなかったことで、地球上最貧と言われる状態になりました。
 世界のどの国も成長期には各種問題を発生しています。日本も田中角栄の「国土改造」計画で土地が高騰しました。農民が追い出されました。しかし中国以外の国はその結果国民の過半数以上を中産階級に持ち上げました。市場が形成されました。
 しかし中国では現在の高度成長を通じて農民が豊かになっていくでしょうか。
 1980年代後半からの10年間は毎年2桁のGDP成長でした。その後も7%の高成長を続けています。他の国なら農民達も豊かに為っている頃です。
 南の太平洋側以外は、一見して非人間的生活環境です。同じ太平洋側でも、大連以北の北側を見た人は、都会と農民との格差に愕然とするでしょう。
つまり国民の中の70%を超える農民階層には経済的底上げが生まれていません。

  それにしても農民を扱う政府や党の態度はあまりにも酷すぎますね。中国の上層部、支配者には「人権」という感覚が全く欠落しています。これは建国以降激しく行われた「階級」闘争の結果でしょう。国民の中から敵階級を探し出し殲滅する、と言う政治目標が日々実践されました。それを真剣に闘った人達は、自分自身の人権をも否定していることに気がつかなかったのでしょうか。

 さてその農民を中国人自身はどのように感じているのでしょうか。
 それを次回紹介しましょう。