労働英雄のこのような
      発表は合法か


04/08/26 南方週末 
     徐永康(華東政法学院教授)

 最近新華社通信の報道によると、雲南省の交通局長「趙家富」氏の業績が先進的だと表彰された。職務に忠実で清廉潔白、他の交通局長達の金銭に汚れ女色に溺れる噂に巻き込まれることなく、実に見上げたものと記している。
 現在このような幹部を見かけることは難しい。だがこの記者はこの報道事実を更に真実かどうか確かめる必要を感じ、本当に当人は何の腐敗事件とも関係がないのか、と疑問をもった、と言う。

 そこで記者は工夫を凝らし、局長室の書類や党委員会に残る「個人記録(档案)」、さらには移動通信局の電話通信記録まで調査し、社交上の友達や取り巻きなどとの通信記録まで調べ、疑いなく「如何なる汚れもない」と表彰を持ち上げて発表している。
 
 だがこの調査は合法なのだろうか。中国国務院の電信条例では、個人の通信は秘密に保たれるべきだと記している。
 例外として国家安全上の問題が有れば、その探索に通信記録を見ることが出来るとされる。 
  では、この趙家富氏も、いやしくも一個の公民ではないのか。中国の通信規則によれば彼の電話通信は如何なる人にも漏らすことが出来ないはずではないか。中国人としてはこの調査は合法なのかと疑いたくなる。

もし新華社の記者が通信を見ることが出来るなら、恐らく他の種類の人だって誰かの通信を覗いているかも知れない。
 このようなことが事実なら、中国の法律書は全て単なる紙くずにすぎないと言うことではないか。
 中国の通信記者がこのような基本的なことを何故理解できず調査をしているのか。管理責任者は何故秘密を漏らしているのか。中国の法治意識は一体どうなっているのか。
 各地で公権による民衆圧迫の事件が多発しているが、しかしどの事件も省長が「うん」と言えば「人民裁判所」は直ぐ同意し、公安は「時間切れ」で事件をうやむやにする。
 そのような傾向に報道機関までが調子を合わせているのなら、一体中国の法治国家への到達は何時になったら可能なのか。
 法治国家への道は艱難辛苦に満ちたものであろう。一つ一つの些細な事件をも法により解決される事へ国民全体が力を合わせねばならない。新聞記者もその例外ではない。中国人民の素質を高めることに努力を払って貰いたい。





警察が誤逮捕し
  対策をメディアに相談


04/08/26 南方週末 崔永利

 有る警官が「これまでは誤逮捕しても、そいつのケツを思い切り蹴飛ばし、ごめんよ」で事は済んだ。
 またある警官は「公安は裁判などは怖くない。だがそいつが北京へ行くとなるとちょっと問題だ。更に問題なのはその野郎が新聞などに投書でもしたら、これは面倒だなあ」と言う。
 そして今回公安が報道機関に相談したことに、鄭升旭教授は「公安から内輪ごとを持ち出すというのはただ事ではない」と言っている。

事件は峡西省西安市で起こった。これは正に西洋の「オー・ヘンリー」の小説のような事件である。
 8/21日の夜、公安所長から新聞社へ電話があり、「同姓同名の誤逮捕事件を起こしてしまった」ので、善後策を相談したいという。所長の名前は徐軍山という。
 誤逮捕者の名前は「李鳴」と言う。
 前日、「偽造電話機」の売買で、取引している人の名前が「李鳴」だったので、直ぐそれと見られる人を逮捕し、逃亡を防ぐため、背中で両手に手錠を掛け拘留しようとした。が公安の車の中で、直ぐ同姓同名の誤逮捕だと解った。
 警察は直ぐにその場で謝罪し手錠を解こうとした。すると、その李鳴と名乗る男性は「このような恥をかかせて謝罪だけでは許せない」と言って、「もし、このまま手錠を外すなら壁に頭をぶっつけて俺は死ぬ」と言う。 そして次のような要求を出した。
1.名誉回復。
2.精神的損害への弁償。
3.名誉損害への賠償。
 これらのために「7万元を出せ」 と言う。その時警官達の総計所持額は300元だった。所長は頭の中で公安は現在数十万元の負債があることを想い出していた。公安副局長に連絡が取られ、さらに監察課長や警察大隊にも連絡が取られた。彼等が急遽参集し、善後策を練り、とにかく平謝りで済ませようとした。しかし相手はガンとして「謝罪金」が無ければ壁に頭をぶっつける、と主張を繰り返す。
その日の午後李鳴の家族達が面接に来た。家族の説得にも応じず、李鳴は手錠を解かせない。
 この直後李氏は手錠のまま北京へ行く、と言いだした。それは大変だと公安は市の公安局へ連絡を取った。
 そこで李氏は新しい提案をした。
1.この姿の写真を撮れ。
だがその直後、李氏はしばらく考えて「公安派出所」の看板と一緒に写真を撮れ、と言う。そこでその写真が撮られた。
だが彼はそれでも満足しない。次にまた要求を出した。手錠のまま公安と一緒の写真を撮れ、と言う。これも公安が同意し、写真を撮った。だが直ぐ李氏は次の要求に移った。「現在この手錠で腕がとても痛い。医者の鑑定をしてくれ」という。夜の7時になって法医が呼ばれ、診察をし、「水膨れがある」という診断書を書いた。
 だがこの診察時、医者が手錠を外すとき、片方ずつ手錠を残す気の配りようだった。

この話を聞いた西安工業大学人文科の鄭升旭教授は「いやあ、このようにとことん自分の主張を通そうとするのは中国の普通教育のお陰かなあ」と感心している。
 
 次に最後の和解が行われた。公安は李鳴に1000元の医療費を払う。その他の条件を紙に書いて両者が捺印し、協約書が成文となった。ついに李氏の手錠が外された。この解決を所長は関係する多くの上部組織に連絡を入れた。
 警察が李氏に「警察車で家まで送りましょう」、と提案しかけ、所長はいや待てと考え直した。もし帰宅途中、李氏の考えが動いたら大変だ、と言うことでタクシーを呼びそれに彼を乗せた。
そしてなお弁償金の7万元が残るだけとなった。しかしそこで公安幹部達は頭を寄せ合った。何かの考えの変動で李氏が北京へ行ったら大変だ、と思いはそこへ行った。
 この解決を知っているのは報道機関に違いない、と意見が一致し、地元新聞社へ相談の電話を入れた。

 李氏が病院に入院したと言う知らせが公安に来た。公安は弁償金を下げる為には誠意を見せておく必要があるとか、いや病院でまた李氏にいちゃもんを着けられたら困るとか、一揉めがあったが、とにかく見舞いに警官が行くことになった。しかしそこでも用心が必要だと言うことで、公安の車を使わずタクシーで出かけた。
 
 新聞社の提案で、調停者として選ばれた鄭升旭教授が李氏に会った。李氏は「7万元の要求は、ちょっとあのとき頭に来ていたので高すぎた」と漏らした。そのことが公安に電話連絡が入れられ、双方が何度も交渉し、ついに妥協がなった。その金額は双方とも公表しないと言う。
 双方が再び協約書を書き印を押して教授もサインして示談は成立した。
公安にはほっとしたフンインキが流れた。周囲の人達の顔はゆるんでいる。
 李氏は「この手の痛いのが直ったら、食事でも如何」と提案する。所長も「まあ良いでしょう」と頷いている。

(文中の李鳴は偽名である)

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訳者注:この記事を貴方は笑いながら読めますか。
 というのは社会主義中国で公安と渡り合うというのは、この50数年間考えも及ばないことでした。国民は全てその中に敵階級が居て、人間として一つ高い次元の党とその機関(公安)が人民をすくい上げる、と言う思想でした。人民は常に1つ次元の低い存在でした。もちろんこれは建前で、現実は2つも3つも次元が低く国民は扱われています。人格など無視される事件が今でも続出しています。権力に殺された例は、私の翻訳だけでも数多くあります。しかしこのような事件が、このような人が現れた!
 私は本当にこの記事がねつ造ではないかと、疑いたくなります。
 他の記事と比べて「あり得ない」、と断じる人も、中国人の中には多いのではないでしょうか。
 でもこの記事は事実でしょう。やはり世界との交流がこのような人を生み出していくのでしょう。そして前掲の記事のように些細な事件でも一つづつ人権が守られていくように、全ての人が、国民が、力を合わせることが必要で、その具体例が出現したという、これは中国史に残る大事件でしょう。
この写真は本ページ下段のものです