北朝鮮賭博場


04/12/23 南方週末 劉鑑強

 
これらの賭博場へ中国から毎年大量の金が流出している。今後これらにどう対処すべきか、中国は大きな難題を突きつけられている。

 12月14日吉林省交通運輸処所長の蔡豪文が巨額の公金を持って逃走したことが発表され、人々を驚かせている。彼は27回に渡って朝鮮の賭博場に行き351万元を使ったことが解っている。

 12月17日記者は吉林省の延吉市白山ビルに行った。その辺りの旅行社には「英皇」と言う人目を引く看板が目につく。「英皇」とは朝鮮北部の羅先市の大賭博場を意味している。旅行社に近づくと中から係の女性が「賭博?それとも観光?」と聞いてくる。記者は「賭博」と答える。その女性は「現在の季節に観光は有りません。ただし賭博なら毎日朝鮮へ行くコースが有ります」と言う。
 朝鮮への旅行には、ビザもパスポートも要らない。450元を出せば「国境通過証」をくれ、賭博場へ行ける。

 12月18日早朝、中型のバスで延吉を出、揮春圏河口岸に向かう。バスには33名の客が同乗、内5人が女性だった。客の大半は延吉省の人で、審陽から3人、長春から1人。バスガイドは普段でも北京や上海から来る人もいるという。もちろん客の身分は解らない。党の幹部や公務員なら余計身分を隠すだろう。

 前掲の蔡豪文もこのように身分を隠して、朝鮮へ通ったことだろう。
 色眼鏡を掛けて、やや口の軽く見えた一人の客が「私は以前はロシアの方へ通っていました。あちらでは有名ですよ。何しろ100万元以上儲けましたから」、「でも最近は負けてばかりです」と言う。
 「でもただ遊びだけの気持ちで行っています」とも言う。もう一人の客が「本当に止められませんねえ。私は1年で30回以上行きました」
 又別の客が「幹部のことが今騒がれていますから、来年(05年)は少し旅行が難しくなるかも知れませんね」と言う。

 蔡豪文のような公務上の賭博者は今までに約100人ほど捕まっている。彼らのほとんどは廈門が主で、これまでの合計は約数千万元の公金が使われている。
 廈門よりも朝鮮の方が近距離となって利用者が増えたようだ。当局の発表によると蔡豪文は7ヶ月で27回朝鮮に通っている。これは毎週通ったことになる。又当局の発表によると年間の国境出入りの賭博者は25万人、観光客として賭博場を見学した人は5万人となっている。

 バスは氷結した図門江左岸を矢のように走る。時間は約3時間で朝鮮に入る。国境を越えるとき6000元を払うことになっている。通い慣れた人は黙ってその金を準備し、初めてここへ来た人達はぶつぶつ言いながら懐のお金を探している。
この支払いはドルでも可能で、現地の賭博場はドルが標準だという。
 蔡豪文はそのようにして国境を大量のお金を持って超えたのだろうか。彼は公金から51万元、さらに親戚や友人達から、さらに知り合いの不動産からも借りており、その合計は700万元になると見られている。

中国と朝鮮の間の資金の出入りについて、これまでは全く問題にならなかった。朝鮮からすれば、表向きは持ち込みの資金量を制限しているが、実際は入ってくる資金が多ければ多いほど望ましいことは明らかだ。
 国境を入ったときに行われる所持金検査だが、朝鮮辺境防衛隊の人達の検査はもうほとんど何も見ていない感じだ。ただし携帯電話、CD類、各種新聞・雑誌類は厳しく制限しているようだ。
 後で聞いた話だが、有る中国人が届けなしに携帯電話を持ち込み出国時それが見つかり、朝鮮当局から粉々に粉砕して返還されたという。

 朝鮮国境を入ること約50キロメートル、バスの客達は次第に興奮してきたかのようにざわめきや笑い声が大きくなってきた。
 記者の横に座っていた客が彼のパスポートを見せてくれた。そこにはロシアの入国章がびっしりと記されている。その数約14個ほど。彼の話では朝鮮に入ってから北へ30キロほど行くと長玲子岸を越えてロシアに入り、ロシアのクラスチノフ市が有る。そこに中国人が開設している賭博場がある、と言う。
 だがそこはこの「英皇」よりは少し小さい、とのこと。「英皇」には5星のホテルがあり、賭博場に3000ドル預けておけば食費・宿泊も自由に出来る。一般客としての宿泊は480元だ。
 朝鮮国境の周囲を見ると一面が雪に覆われていて、農民が行き来するのが見える。やがて眼前に広々とした日本海、朝鮮は東海と呼んでいるが、が見え、その海岸に大きなホテルが建っている。客達はそれを見て「着いた、着いた」と騒がしい。そこが蔡豪文が大金をはたいたところだ。

 「英皇」から500メートルほど離れたところに別の大きな建物が見える。その屋上に「当」と言う文字が書かれている。もし賭博者が負けた場合、さらに金銭を掛けたいなら、そこへ行って貴重品を金に換えることが出来る。貴重品の中には”自家用車”でも可能という。
 ホテルにはいると紅色一色の大理石で囲まれていて、熱帯植物も置かれている。まるで周囲が凍るような冬景色であることを忘れさせるようだ。ホテルの中に遊びに来ている客のほとんどは中国人だ。ホテルの朝鮮人従業員達もきれいな中国語を話す。
時間はすでに1時半を示している。記者は空腹で我慢が出来ず食堂へ行ったが、そこには誰も居ない。食事をかき込んで賭博場へ戻った。なんと、バスで来た人達は既にここで必死に賭け事だ。彼らは食事なしで頑張っている。

 賭博台には各種有って、1人1台で勝負するものや、大勢で掛けるものもある。掛け金は10,50,100,200,300 ドルから選ぶ。
 一人の40歳くらいの中国人、彼は中国東北出身の訛りが出ているが、その掛け金が大きく、あっという間に4万元を儲けた。賭が始まると、その台を取り囲んだ客達はまさに気が狂ったようになり、奇声や歓声が飛び交う。交わされる紙幣や金が乱暴にやりとりされている。まるで紙くずのようだ。が、隅っこで押し黙って居るのは負けた人だろう、声が出せず、別の機械へ移っていく。
 従業員の女性達が客達に実に丁寧な態度で飲み物を配っている。煙草を吸う客にはライターを差し出している。その従業員達の狙いは賭博者の懐のお金だ。

 有る従業員が教えてくれたところによると、この「英皇」ホテルは香港の資本経営だそうだ。数年前に朝鮮に相談を持ちかけ、許可が出ると数億香港ドルを使ってホテルを建て、ただの1年で資金を回収できたという。 またこの「英皇」の売り上げから、朝鮮政府へ大量の税金が支払われている。だがその正確な数字は教えて貰えなかった。
 このホテルの従業員は約500名、管理者は香港から来ている人が多い。中国や朝鮮の専門技術者もいる。中国人の月収は2000元ほど。朝鮮人の月収は80ドル。だがこの朝鮮従業員へのドル支払いは、朝鮮政府が、米ドルは当面の最大の敵国のものであるからという申し込みで80EUに変えられた。これで計算すると約800元か。
 ただし実際に従業員に入るのはその内24元で残りの総ては国家に納入される。
 記者が「君たちの収入は中国人の100分の1だ。これは不公平ではないか」と尋ねてみた。
すると朝鮮の授業員の答えは「私たちはここでの労働によって、国家に多大な貢献をしています。それが私たちの誇りです」と返答してきた。
 その国家への貢献に大きく寄与しているのが中国人の客達だ。
 一人の長春出身の中国人女性は、36時間一睡もせず1食も取らず、賭け事を続け、ついに5万元を擦ってしまった。
 聞くところによると、1日半の賭で400万元を擦った中国人も居たという。

90年代、日本から大量に自動車が輸入され、その販売業者が成金となった。その人達は中国東北の人が多いという。彼らがこの「英皇」に莫大な貢献をしてきているのだ。
 有る中国人が計算してくれたところによると、年間5万人の中国人がここへ通っている。一人最低5000元を置いていって居るので、その合計は2.5億元となる。これは最低の見積もりだ。

現在中国政府の頭が痛いのは、中国国境に接してこのような賭博場が増加して行ってることだ。ロシアとの国境に「世界貿易中国」と言う企業が100億元で賭博場を建設している。また蒙古との境界にも別の賭博場が出来つつある。雲南省公安部の発表によると中国南部の国境線には82の賭博場がある。
 中国の「環境時報」によると、中国周辺には、日本・タイ・ミャンマー・マレーシア・フィリッピン・シンガポール・インドネシア・等と中国周辺を取り巻く賭博網が出来ている。
 ワシントンポストによると、2001年に廈門で消費された賭博額は20億元に上るという。上記の賭博場は客の想定は総て中国人となっていて、たとえば朝鮮の「英皇」には朝鮮人は入れない。他の国家も同様である。

 「英皇」へ記者がカメラを持ち込んだため、保安係が取り上げてしまった。以前中国の延辺州党委員会がデジカメで、中国の党員が遊びに来ていないか記録に残そうとしたことがあった。だが彼は賭博場にいる間しっかりと保安係にマークされ続け、ホテル外で来客を撮影することさえ出来なかった。
 このように周到なやり方で来客の信用を得ているようで、そのお陰か、お客達は大胆不敵にどんどん大金を叩いていく。

 深夜になって客達は一層真剣みが増していく。あの色眼鏡のおじさん、今では完全に無口に変わっている。顔色は陰鬱そのものだ。中国の一人の女性は唇をかみ、点棒を握り握り汗を拭いている。最初に4万元を稼いだ40歳くらいの中国人も今は点棒がすっかり減っているようだ。
 あの蔡豪文なども例外でなく、初め宜しくて後半は泣きの涙というのが誰も通る道のようだ。
 蔡豪文の上司が教えてくれたが、蔡は今年(04年)所長に昇級した。初めは単なる遊びでここへ来たらしい。そして最初に大当たりした。それで興味が爆発して、毎週通い続けることになって、負けが続き、取り返そうとしてさらに投資し、もう足を引けなくなった。これが蔡氏の経過だ。

 11月22日、蔡氏の上司などが公金使い込みに気がつき、彼に電話してそれを確認した。その夜彼は失踪した。そして司法へ連絡が行き、全国手配となった。11月22日、中央で政治委員会が開かれ、党員が国外へ賭博に行ったときは、即時党籍剥奪と決定した。
 
 12月22日、記者が延辺州の党規律委員会へ伺った。そこでは現在国外旅行中の中国人名簿が用意されている。その数は5万名に登る。その中から党員を調べ出す作業が始まったところだ。だが「こんなに多くの名簿から取り出すのは至難の業だ。まず当面は上級の幹部から始めるつもりだ」とのこと。
 朝鮮国境を越えた人については、その半分が延辺地区以外の人で、その人達のことはつかめない。中国全体についても同様に、国境に接している地元分しか名前はつかめないようだ。さらに困難なことには、国境管理をしているのが党幹部である。ではその幹部が外へ出たことが記録に残るだろうか。

又問題は国境を越えた幹部だけのものではない。毎年数億元のお金が外国へ流れていっているのだ。これは中国に取って巨大な損害ではないだろうか。
 有る党幹部が言う。「現在中国を取り巻く賭博場は増えるばかり。そして外国へ流出するお金も増える一方だ」


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 訳者注:
 確か2年前、「TIME」に中国人がラスベガスへ賭博しに行っている記事がありました。日本人と中国人との見分けは、夜寝るのが日本人、夜寝ないで掛け続けるのが中国人と書いてありました。

 私の一番感心したことは、香港の資本が朝鮮政府に金儲け話を持ち込んだ、”恐れを知らぬ”そのタイミングと情勢の読みの適切さです。
中国周辺には賭博場が取り囲んでいる。これまでは南方のタイ・ミャンマ・マレーシア・フィリッピン・シンガポール・インドネシアなどが主であったが、今では北方のロシア・朝鮮・韓国・蒙古などの中国北方にも現れている。