岩波映画館(岩波ホール)

04/02/05 南方週末 記者 王寅

 (概略)神田神保町は有名な古書店街である。約60店の古本屋が並んでいる。その中に「岩波ホール」も並んでいて、中国の映画も数多く取り上げられている。
 岩波書店と岩波映画館は別経営となっているが、「良い本、良い映画」が彼らに共通した経営方針である。
 1968年に270の椅子席を持った岩波映画館が誕生した。 ここでは欧米系のものだけではなく、アジア、中南米、アフリカのものなどを取り上げ、芸術と社会性を持ったものを世に送り出している。
 多くの上映作品の中で中国映画は重要な位置を占めている。1988年には「芙蓉鎮」が連続20週上映された。
 1993年「清涼寺の鐘」が大きな反響を呼び、また岩波の30周年を記念して、97年の「アヘン戦争」が上映された。
98年「宋家の3姉妹」は反響が大きく第1回は31週の上映、第2回は15週の連続上映となった。これは同映画館の最長記録となった。短編ものも上映され、「歩きながら歌いながら」香港の「ガラスの城」などが取り上げられている。
 01年の「あの山、あの人、あの犬」は「山の郵便配達員」と改題されて上映された。入場者は40万人を超える人気を得た。
 岩波映画館で上映される映画の中で中国映画は常にトップの人気を得ている。
 「宋家の3姉妹」がトップで、「山の郵便配達員」が第2の地位を占めている。


 岩波律子:映画の力

岩波律子は子供の頃フランスに留学した。専門はフランス文学である。彼女の叔母、高野悦子がフランス留学の帰国後、岩波律子に映画館の上映に協力を頼み、現在に至っている。
岩波律子の母は中国で育った。岩波律子は中国は隣国であり、日本人が理解しやすく、中国やアジアの映画には良いものが多いので、力を入れて採用しているという。
 彼女は中国映画が日本人に受け入れられる要素について、次のように語っている。
 ”10年以上前までの日本は極端なインフレで、その頃はアメリカの映画が好まれていたが、しかし現在経済が落ち込むと同時に、日本人が本来の考え方を取り戻すようになったと思え、例えば「山の郵便配達員」のようなものが大いに好まれたのではないか。
 この映画を見た人達の感想の中に「黙々と配達する郵便局員の姿に、自分たちのかっての本当の日本人の姿がある」と言う意見が多かった。”

 04年の春には「上海家族」「失われた感覚」が上映される。これは上海の一女性を描いたもので、過去ではなく現在の人々の姿である。
 これら中国映画を見た人達は中国の一端を理解し、心の交流をしている。
 また一般に、アメリカの映画はフイルムの購入に15億円必要で、宣伝に10億賭けている。しかしこのようなことは岩波映画館の椅子席が少ないことから不可能だ。
 しかし「山の郵便配達員」には宣伝と字幕作成などの準備に1年をかけた。
 岩波の場合、会員制度で友達を通して上映券を購入してもらうことに多く依頼している。これを維持するには、良い映画、芸術的、社会性を持ったものを取り上げる必要がある。
 日本映画では例えば、羽田澄子の「痴呆老人の世界」(86年)を取り上げ、評判が良くこの監督の作品はすべて取り上げている。
 小栗康平の「眠る男」、黒木和雄の「美しい夏」なども評判が良かった。

 日本映画界の中で岩波の位置について。

 大型作品は協力できないと言う制限があるが、それでも良心的に見てもらえれば、日本映画の中で一定の役割を持っていると考えている。黒木和雄の「明日」と言う映画は広島被爆の前日を描いたものだが、評判がとても大きく良かった。

岩波映画の賛助会員は女性や主婦が多く、午前と午後は女性と高年齢者が多く、夕刻以降はホイワイトカラーとなる。
 岩波律子の父が「良い映画を世間に送ることが映画館の目的で、金銭的な収入は第2だ」と言い残した。現在もそれを営業の基本としている。
 カナダの「氷雪上の生活」を上映したとき、観客から「もし岩波が無ければこのような映画が見られなかった」と言う感想をいただいたときは、本当に当方が感激した。
 営業成績では苦しい時が続くと偶然のように反響の大きい映画が現れて救われるなど、これはどこの映画館も同じではないか。
 東京には、以前は芸術性を追求した映画館がほとんど無かったが、現在は幾つか出来ている。これら小型の芸術性を追求した映画館は記録ものが多い。
 このような話を岩波律子氏は記者にしていくれた。

訳者注:岩波ホール のアドレス
http://www.iwanami-hall.com/

東欧の社会主義崩壊を描いた「リンゴの木」もすばらしい映画でした。
 党幹部が国家崩壊の前日まで「社会主義の優位性」を自慢して演説していました。
中国の「芙蓉鎮」は、日本人にとっては恐ろしいほどの国家の牢獄と後進性と旧体制を見せつけられた感じがしますが、中国人にとって、それほどの後進性と映らないそうです。ごく普通の出来事だ、と言う感想を聞きました。
 この小説(日本語版)を持っています。希望者にはお貸しします。

下記は読者の感想文です。
 
いつも翻訳ありがとうございます。
巨大な隣国の現状の一部を知る貴重な情報です。

 ところで、下記の「感想文」はどなたが書かれたものでしょうか?
もちろん、どなたかを教えていただかなくて結構です。私が興味を持ったのは、この方が、「マルクス主義」に対する訳者の認識に批判的な見解を提示しているところでした。
 しかもその批判的見解が、旧来の教条主義的なマルクス主義擁護ではなく、訳者の「マルクス主義」批判に共感しつつ、しかしなお、「本来のマルクス主義」はそうではなかったのでは? という視点です。( 私はこの視点が重要と考えます。「本来のマルクス主義」とは何かということを留保した上で。)

 訳者は現在の中国の中国共産党一党独裁も中国社会の腐敗も中国農民の悲惨な現状も、すべては「マルクス主義」にその原因があると描いています。
 でも、それで本当にいいのでしょうか?
私も現在の中国共産党のありようが、マルクス主義と無縁だとは思っていません。でも、マルクスの死後、マルクスの思想・理論に影響をうけて国家権力を奪取したソ連、東欧、中国、N朝鮮、キューバ、ベトナム、など、かつて現実に存在し、かつ現存している「社会主義体制」がマルクス主義を現実化したものとは思えないのです。

 長くなるので、途中を省略して結論的に申し上げると、マルクス主義はソ連国家を建設した後、レーニンが直後に死亡、スターリンが後継したことによって、マルクス主義は「マルクス・レーニン主義」という名の「スターリン主義」に変異したと考えています。

 マルクスの人類史を総括した理論が、今日では、その時代的制約故に限界を有し、誤りを含んでいるとはいえ、その理論的遺産を100%切り捨てていいとは思いません。
 
 自然科学に目を転じてみましょう。
ニュートンの運動3法則が微粒子の世界や宇宙科学の世界で説明できない現実が発生しました。
 この疑問を解明したのが、アインシュタインの相対性理論でした。
 でも、ニュートンの3法則は否定されたのでしょうか? 否です。
ニュートンの運動3法則は一定の条件の下に依然として成立する法則として認められているのです。

 自然科学の世界では、ある理論が現実世界に生起する現象を旧来の理論では説明できないとき、それを十分に説明できる理論が発見された場合、旧来の理論を100%否定するか、あるいはその骨格を継承し、その欠陥を正して包摂するのがならいなのです。

 この訳者の場合、「マルクス主義」を100%否定する根拠は何なのでしょう。
私の見る限り、国家による国有化「計画経済」と「一党独裁」だけのように思います。
 
 訳者はニュートンを切り捨てていませんか?