人民大会議員の監督権

04/02/05 南方週末 郭松民(投書)

 北京市西城区第13回人民代表大会の会議中、一人の交番派出所の所長が31名の代表議員に対し、「警備作業監督権」を授けることを表明し、所長の携帯電話番号を議員達に教えると説明した。(1/16日京華信報)。
 この報道を聞いて私は疑問に思った。
本来はそのような権限は議員の方から所長へ依頼もしくは任命するのが筋ではないのか。所長の方から議員に与えるとは?
本来は人民大会とは全ての権力と行政の生まれるところであり、その責任を背負うところではないのか。
もし警備作業に議員の方が満足できないなら、所長を解職できるのではないのか。この記事によると議員達はその権限を所長から授かることに同意したようだ。これでは人民大会議員の権限とは一体何であろうか。
 各地方の人民大会の実態を見聞きするところ、どうも議員達の権限は全くないに等しい。議員達に監督権が無いことが、国民が人民大会に期待しない大きな原因ではないか。
何故人民大会議員の権限がないのか。その原因の一つは人民大会自身が行政・司法に対しもっと積極的に指導監督する能動的な態度を示すことが必要ではないのか。
 今中国は正月も過ぎ、全国で人民代表大会が開かれている。今年の重要な課題の一つは憲法修正である。
 これに対し本来は人民大会は積極的に監督するという態度で臨むべきであり、主体的な行動が待たれる。このままでは、人民大会の消極性に存在の価値を疑われ、国民の疑問がいつまでも解決しないだろう。

一歩先を行く広東省

04/02/19 南方週末  記者 王小飛

 93年の中央政治局員、全国人民代表大会常任委員長 、蕎石氏は「市場経済を推し進めるに当たって広東省は常にその先頭に立ってきた」と発言している。
 93年5月、広東省人民大会は「広東省公司条例」を他省に先駆けて制度化、それを精華大学の前学長王保樹氏は「中国経済発展の魁」と評価した。

  市場制度化には民主化が伴う必要がある。
 広東には有名な「牛墟事件」と言うのがある。
 牛墟は広東省掲陽市の地名だ。そこで94年のこと、ある幹部が特権を利用して住宅地を私有化していた。それを人民大会議員の陳妙珍という女史が大会で真相調査を要求した。するとすぐ彼女の家の前に、空の棺桶が運び込まれ、「黙らないとこの中に入れてしまうぞ」と言う脅迫がされた。
 このことを彼女は人民大会で発表し真相究明を求めたが、何の効果もなかった。2年が過ぎて、特権を振り回す幹部の権利の制限法案が通った。これを「牛墟事件」と言う。しかし問題は解決されていない。
 98年になって、議員の陳妙珍が再びこの事件を紹介し、民意を拾う気があるのなら、何か一般民衆が幹部に直接訴える方法が出来ないだろうかと提案し、時の書記、李長春がこれを聞き入れ、「直接電話」制度が出来た。
 この制度が出来ると全国の省が現在参考にし、研究をするようになった。
 現在広東省では「第10回人民代表大会」が開かれている。今回は書記の張徳江氏が財政支出が予算通りに使われているかを監督出来るように「1府両院」制度を提案している。
 今、広東省は全国に先駆けて民主化の先頭を歩んでいる。
  
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 訳者注:
人民代表大会の記事を2つ訳してみました。
 この記事と別の記事には、広東省の昨年度の225億元の使途不明金について秘密裏に調査する件が書かれています。

 社会主義社会では議会や選挙が全くでたらめというか、独裁の隠れ蓑のようなものですね。これでは崩壊するのも当然と言えるでしょう。
しかしここに書かれている「直接電話制」というのは実は中国の民主化にとってとても大きな役割を果たしています。
 私が中国にいたときから最近までの翻訳を纏めてみます。
 中国の政府の職員の構成は、党によって就職命令(「分配」制度と言います)で配属された人達です。彼等は学校を卒業するとき、「国家のため、人民のため」と言う決意表明をして就職します。
 半年もすると、賄賂を普通に受け取り、人民のためには全く仕事をしない、威張る人間に変質します。
 
 そして水道管が破裂して、道路に水が溢れて住民が訴えても政府はなかなか動きません。(社会主義では工事も材料も雑ですぐ水道管が破裂します。私の所に出入りしていた中国人は日本の水道管財料を持って帰国すれば良く売れて商売になると言っていました。材料の粗悪さは国家が命令する計画経済に原因が有ります。)

 ところが90年代後半からテレビと電話が普及し、この直接電話でテレビや新聞が報道するようになりました。すると仕方なく政府職員が出かけることになりました。
 この現地報道を取り上げて一躍有名になったレポーターが「水」と言うアナウンサーでした。この方の体験記を持っています。
 動物園の動物虐待を投書から知って、現地を秘密裏に採訪しテレビ報道したのが載っていました。
 この水という人は中央テレビですから、「直接電話制」は広州だけではなく、今は中国全体に広まっているのでしょう。
 私が杭州に居たとき、若い女性達を集団で酷使しているのを報道記事が取り上げていました。また女性の集団人身売買事件も取り上げていました。
 中国のように報道が規制されている国家では、この制度は実に巨大な力を持って社会を民主化の方向に動かして居ると言えます。

 私が杭州にいたとき、(2000年)、テレビ映画で「広東省」政府が”すぐやる課”を設置して、市民から直接苦情電話を受け付ける模様を映画化して放送しました。きっとそれがこの記事に書かれている「直接電話」が制度として実現された姿でしょう。
 その映画では、ある幹部が市街地を私有にして、市民を困らせ、それをすぐやる課が対策に乗り出すところをやっていました。
 何しろ映画ではその悪徳幹部は私設の武装集団を雇って警察団と銃撃戦をやり合うという顛末になっていました。私はその映画が、まるでアメリカの西部劇時代のようで、少しやりすぎだと思い、「南方週末」を紹介してくれた学校の先生に質問しました。するとその先生は、「広東」なら有り得るとの答えで、私は二度びっくりしました。
 しかし映画で私設の武装集団を雇っている幹部というのは、実はそれと同等の権力を行使し市民を困らせていると理解するのが妥当ではないかと、この記事を読んで想像しています。

 何故公務委員が人民のために働かず、市民に対し猛烈に威張るのしょうか。ある特定の幹部だけが威張っているのではなく、国家公務員全体が威張り出すのです。(もちろん善良な人達もいますが)
 私が大連にいたとき、学生達は誰も皆素直で愛国心があり、マルクスを勉強していて、政治にも興味を持ち、視野が広いと一面では感心しました。しかし彼らが市政府に就職して半年もすると、賄賂を当然とする政府職員になってしまうのです。
 これまでの社会主義は国家権力を集中して、上から国民を指導するという考えでした。上から指導する集団は権力を背に猛烈に威張ると言うのが、人間の本質だと私は思います。 これまでの社会主義制度では民主主義は実現しないと中国を見ていて痛感していますが皆様は如何でしょうか。

 今年中国の人民大会は国民の基本的人権を認める案を討議しました。
 しかしこれを有効にする諸制度は何も触れていません。
 例えば、女性達を売春組織に売り渡している幹部を告発したため牢獄にいる人をどうして救うことが出来るのでしょうか。
 幹部に賄賂を渡さず企業を倒産させられた人達が告訴する制度が出来るでしょうか。
 夜中に新婚夫婦の部屋に押し入り、夫を精神異常にさせた公安を告発する権利が何時出来るのでしょうか。
 もしこれらの権利を守るための制度がまじめに検討されるとしたら、そのとき党幹部と国民とが対等に社会に住んでいることが明確になります。国家公務員も一般市民も対等になります。
 これが既存社会主義の終焉だと私は思います。