福県省の悪夢
04/07/08  南方週末 夏英
 
 人間の強烈な欲望を利用して、福県省福安市の「標会」という相互扶助金融組織が異常に発達し、賭博化し、社会全体に大きな損害を与えている。
 これは一体誰が責任を負うのか。

 6/24日、福安市の住民67名が集まり、記者にこの一月で巨大な損害を発生させた経過について語ってくれた。
 この「標会」に巻き込まれた損害額は一人当たり100万元とか600万元とかの数字に昇る。この巨大な金額を誰もが銀行や高利貸し等から借金して借り出しており、今後その対策によっては一層の被害の拡大が心配される。
 今この市の周辺では特殊な病人が続出している。例えば有る主婦は借金が返せなくなり観衆の見守る中で数回斬りつけられて入院した。もう一人は同じく借金が返せず自殺、これは未遂となって病院へ送られた。もう一人は、7/3日、河へ投身自殺をした。
 6/1日、公安局は借金の問題で脅迫や身体の拘束殺傷などの手段を禁止する通告を市内に張り出した。
 中国で最も経済的に発達した福県省の、その中でも豊と言われるこの街がかってない異常な雰囲気に包まれている。

 伝統の「標会」

この市の周辺では昔から「標会」を作る伝統がある。一人が”会頭”となって毎月会員から600元を集める。会員は31人。計18600元が集まる。誰かがその半分を借りる。半分は会頭が預かる。借りた人は30げんから60元の利息を払う。利率は5%となる。これを毎月繰り返し、会員を一周する。 これは民間の金融互助組織で、担保無しに金を借りることができ、子供の教育費やその他の臨時出費に充てるという便利さが有る。
有る近隣の村では、製麺が主産業で人口1000数戸。ここでは一日約2ないし30げんから7,80元の収入がある。この村の製麺販売を専門にしている家庭の主婦が会頭になり「標会」を始めた。2年前にこの村から「農民信用金庫」が引き上げたため、金策にこの「標会」が盛んに利用されるようになった。彼女はまた仕事が他の村や市へ出歩くことが多く、そこでもこの「標会」を広め、彼女の元には大金が常時集まるようになった。彼女は学校は出ていないが、ひとなりが信用されて「標会」の数は53に昇り、集まった金額は7,800万元を超えるようになっていた。 この「標会」の平均的利息は3%で、これまで通り、顔見知り内だけの閉塞した輪の中だけで運用されていれば、賭博性などへの危険は生まれなかったかも知れない。しかし自体はこれまでと違った方向へ進んだ。

 導火線に火がつく

 今年の(旧)正月前後から、お金の出入りが必要な時期で、会頭の持つ資金が不足していることが噂に上るようになった。正月前には28の「標会」が暫時運営を休むと発言。
ちょうどこの頃中国人民銀行側では、「標会」の運営資金が巨大で銀行へ貫流せず、国家として禁止するように上訴している。
 正月が済むと再び「標会」が開かれ、その中から資金を返済できなくなる会が出てきた。
 正月後の3,4月頃、福安市周辺のホテルはどこも満員で、参加者は女性・若者が中心で彼等は「標会」の資金投与の中心メンバ−で、「1秒を争って金儲けを楽しんでいる」と言う「言いぐさ」が盛んに使われた。これらの集会で彼等はどの会が高率かを紹介しあい、1銭でも高い方へ金を回そうと相談し有っていた。一つの会合で数十万元の金が動かされたようだ。
 その頃現地を運転していた有るタクシー運転手の話では、乗客の若い娘が数十万元の現金を手にし、1日で48の「標会」目指して走り回ったという。
それは正に「標会」崩壊の前夜であった。5/16日、一人の会頭が公安に自首。この話が一夜にして福安市とその周辺の村々に伝達して行った。ドミノの将棋が倒れるように1週間で全「標会」が崩壊した。

誰が高率利息を求めたのか

 福安市は人口65万人。銀行の利率は1.98%。住宅購入費の利率は5%である。高利貸しは2分、これは年利24%となる。「標会」はこれらよりも高率となる。
 例えば、10万元を投資すると一月で得る利息は6000から8000元となり、年率にして72から96%となる。正に恐ろしい数字である。
このような高率の「標会」を利用して100万元を預けると、一月後には3000万元を借りることが出来る。
 市の「標会」の率は周辺の村よりも高率である。必然的に周辺の村の資金が市へ流れもむようになった。
この流れ込みは規模大で、100や1000を越す会が入り乱れ拡大して行ったのだ。
 しかもこうして集まった資金が市の賭博場へ流れ出した。賭博場は公的には秘密であるが、記者はある「弟弟頭」と言う組織を探した。事情通によると一日に集まる資金は50万元以上で、勝った人が7%、負けた人が6%の所場代を払う。これから計算すると賭場に残る金は一日700万元ほどになる。その日の残金を計算するのに手間取り、秤で金銭を計量することもあるという。「標会」が集めた金がこの賭博場を助成し盛んにして行ったのだ。一度「標会」の資金を返せず逃げた人が、市に現れ、50万元を賭け、3000元に減った例がある。

6/1日、政府は「標会」禁止令を発布。14名の犯罪嫌疑者名と全国手配者名を発表した。
 この市では1992年にも第一次「標会」事件が発生している。しかし当時の規模は範囲も金額も極めて小さかった。

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訳者注:
 「標会」のことは私の”台湾日記”にも書きました。台湾人も先祖は福県省人が多い。台湾で働いていた時、たまに仕事が終わって台湾人達とカラオケに行くと、若い人達が金を出し合い、びっくりするような大金になっているのを見ました。当時の日本円で毎月40万円ほどが動いていたようです。
 「標会」は中国の標準語ではないようです。辞書には載っていません。発音もきっと標準語とは違うのでしょう。(私が台湾にいた時は全く言葉が判らなかったです)
 日本にも名前が違ってもこのような互助組織が有るかも知れません。しかし伝統的な習慣がないと、金銭のやりとりは警戒するのが日本人ではないかと私は思います。
 
 台湾でも公的には禁止されていましたが、実際は誰でもしていたようです。学校の先生達も利用していました。只この例のように、賭博と結合するということは無かったです。台湾には賭博場はあるでしょう。暴力団も居ます。しかし、中国と比べ市民社会というのが安定しているのではないでしょうか。
 
 これまで翻訳紹介してきた中国の各種事件は全て国家が、党や政府が加害者でした。その点が他国と、資本主義国との際だった差でした。ここに来て初めて、民衆が加害者の事件が出ました。
 勿論実際には中国にも民衆が加害者になる事件は山と有るでしょう。しかしそれらは大体規模が小さく個人的な事件が多いようです。
 (例外として、私が中国にいた時の大量の人身売買事件は民間のものでした。”中国杭州日記”参照)
この事件のように民衆が加害者で被害者も民衆というのは、それだけ民衆に余力や力が生まれているということではないでしょうか。
 しかしその力の集め方が、賭博性を持った、ねずみ算式に増加していく、投機的な性格が故にこのようなことが可能なのでしょう。
 別の記事に民営宝くじで当選を誤魔化し、民衆が民衆に被害を与える事件も出ています。まだ健全な社会になっていないことを表しているようです。