麻薬嫌疑の女性が強制堕胎

04/09/16 南方週末 曹鈞武

 ただ、甘粛省の康泰医院のカルテには、「人工流産同意書」があり、手術に立ち会った医師の名前と「妊娠50日、妊娠中絶の要求有り」と書かれている。
 手術が終わった馬さんは現在29歳、表情には何の変化も起こらないが、流産手術のせいであろうか、貧血が酷く眩暈があり、直ぐに眠ってしまう。

今年の1月25日、ウルムチの農民、馬さんが都会へ出稼ぎに出かけ、当地の警察に逮捕された。彼女の所持品の中にヘロイン1606グラムが発見されたという。
 逮捕された時点で、彼女は自分が妊娠していることを知らなかった。そのまま蘭州市看守所へ入れられた。
 看守所の尿検査で麻薬は検出されなかった、が妊娠反応が出た。その場で医者が彼女に妊娠していますね、と告げた。
 看守所の規則では妊娠女性は看守所に拘置できないことになっている。

2月18日、麻薬捜査班は彼女を康泰医院へ送り流産手術を命じた。手術同意書に医院と捜査班との署名がされ、翌日の9時女性に全身麻酔を行い、彼女の意識がない状態で人工流産が行われた。
 胎児が無い状態になったことを確認して、看守所が彼女を拘留した。
 医学関係の人なら周知の事実だが妊娠50日の場合、流産には全身麻酔は必要がない。 手術同意書には公安からの要求であることが明記されている。そしてその同意書の署名欄の「本人」の所は空白のままである。
 公安隊長の名前は「李俊義」となっている。手術執行医師は「馮小玲、王市麗」の名がある。
 記者が李隊長に面会を求めたところ、隊長は「ご苦労さん、事実の報道には苦労するだろうね。君たちの努力は敬服に値するね。だが私は何も話すことはないぜ」としてそれ以降、ガンとして口を開かなかった。
 市の公安局に行くと宣伝部長が「今この件を詳細に調べているところだ。その内、発表することがあるかも」と言う。
 手術の医者馮氏は「これは上からの命令です。全ては上に聞いてください」としてそれ以上は話してくれない。
 
 訳注:担当医師は2人とも名前から見て女性。

 覆い隠される事実

 2月9日の市公安局の審査記録の中に「公安:君は妊娠しているのか。馮:私は逮捕されるまでは妊娠しているとは知りませんでした。でも拘留された所で妊娠していると告げられました」と記されている。
 この事件の弁護を依頼された「翁衛華」氏は「この議事録は公安としては珍しく、被害者に有利なものです」と記者に言ってくれた。
 
 だが市の検察院が調査に乗り出して以降、この書類はすっかり姿を消してしまった。同時に公安は馬さんが妊娠していた事実さえ隠そうとしているようだ。
 5月末になって翁弁護士は蘭州市検察院に大量の事実隠蔽が行われていることを告発。康泰医院の検査を申し入れた。
そして手術同意書が現れた。
弁護士の話では、中国の法律では18歳未満または妊娠中の女性は死刑に出来ない、となっている。この事件の場合1606グラムのヘロインが馬さんの命を正に奪いかけ、彼女の子の命を奪った。

 
弁護始まる

 馬さんが拘留を続けた3月29日、馬さんの姉の夫が弁護士を訪ね、翁弁護士が担当することを引き受けた。
 公安にある拘留中の記録によると、馬さんがヘロインを何故所持していたかの記録がある。
 
1月18日、新疆で働いていた馬さんの所にある友達から電話があった。彼女が正月の近づくのを控え、帰省の汽車切符が買えないで居たのを知るかのように、ヘロインを運んでくれたら切符をなんとかしょうと持ちかけた。
 1月24日早朝、ウルムチで待ち合わせた友が彼女に5000元を渡し、ヘロインを押しつけた。
彼女が故郷に汽車が着いてすぐ、友が現れ、ヘロインを受け取ろうとしたとき、そこへ警察が飛び出し彼女が逮捕された。

 7月13日、蘭州市中級人民法院で第1回目の審理が行われた。 翁弁護士は彼女の罪の軽減を訴えた。彼女は利用されたもので、充分に後悔していること、初犯であること等を話した。また翁弁護士は強制流産は、50日という体内の一つの命を死刑にしており、これは刑法違反である、と訴えた。
 人工流産という事実が発言されて法廷はざわめき、審理が中止され、後日開廷となった。 その直後から控訴人の馬さんの姉の夫が意思表明をしなくなった。最後には「自分は馬さんの親戚でもない」と言いだした。こうして弁護活動が困難になった。
 調べてみるとその控訴人は当市の公務員で上から何かの圧力を受けているようだ。

 不思議な友

 記者は馬さんの故郷を見に行った。

 市から汽車で出て、山の中を1時間ほど延々と登っていった。着いたところは山の中の薄暗くて陰鬱な感じがした。
 村では誰も当該事件を知る人はなかった。しかも「馬衛花」という名前さえ知らないと言う。村では誰も愛称で呼びあっている。
 そして何処の家の娘が出稼ぎに行っているかも知らないと言う。
 馬さんは今回が麻薬の逮捕は初めてである。不思議なのは馬さんに指図した友である。 この「友」について公安は一切情報を明らかにしていない。法廷ではその名前は「酒利合」とされ、公安は彼の電話を盗聴し本事件を知ったとされる。
 公安は只その酒氏の電話での会話を聞いて事件を知り、そして馬さんについては如何なる情報もつかんでいなくて、彼女が汽車から降りた瞬間逮捕している。そこに疑問が湧く。馬さんをどうして見分けたのか。
 公安は酒氏を逮捕していない。その後も追跡していない。
 有る関係者が名を伏せて記者に語るところによると、酒氏はかって「黄金」を扱っていた。その後麻薬に手を出した。だが彼自身は今まで逮捕されたことはなく、その関係者は多く逮捕されている。
 馬さんが何故麻薬運びに関係してしまったのか、馬さんは何故強制流産をさせられたのか、酒氏とは何者なのか、疑問は湧くばかりである。
 
 胎児に罪はない

 翁弁護士は、馬さんの同意無く強制流産させたことは、胎児の生存権侵犯であり、母親の養育権利を侵している、従って公安は職権乱用の疑いがある、と言う。
 蘭州市公安の一人は、「麻薬販売の奴らはこの”妊娠中の女性は拘置できない”と言う法を利用して妊娠中の女性を利用することが多い」、と話してくれた。

 だが、刑法の専門家、北京大学の法学院教授、陳瑞華氏は、「そのようなことが考えられても、だが強制堕胎は法律違反である」と述べた。
 またこの教授は、
1.法の執行者は人道主義の原則を守る必要 があること。
2.如何なる犯罪者と言えど、その胎児は無罪である。
 従って、容疑者がこれを悪用しても、胎児を殺すことは出来ない、と述べた。

またこの教授は、麻薬所持で死刑を宣告された場合、これを再審議に持ち込むには最高人民法院にしか訴えることは出来ない。このことが現在地方法院が簡単に死刑を宣告し執行するという、人権が極めて低い状態が習慣となっている。
 今回の事件でも「人権無視」が極めて明らかになっている。

 「現在全国人民大会で多くの代表が”麻薬関係の死刑執行見直しについて”提議している、これはとても良いことだ。
 個々人の独立と公正な審議、その疑義が出たときは再審議を訴えることが出来る制度を創ることで、”死刑を少なくし、慎重に死刑執行”という国家になることが出来るのではないか」、と教授は語った。

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訳者注:
 地球上でこのような野蛮な法体系と習慣が行われていることに非常なショックを受けました。完全麻酔で堕胎させるなどと言うのは、まるで魚を料理しているような非人道主義そのものです。私は翻訳していて気持ちが悪くなってきました。
 公務員が上から圧力を受ける事件も多く出てきます。本当に中国はいつ普通の国になるのでしょうか。

 建国以降「階級闘争」に全国民が勢力を賭け、人権を完全に無視した長い長い時代がありました。それが建国後50年して、やっと、外国との交流が深まり、人権の重みが見直されるようになってきました。教授の言葉「人道主義で法を裁く」と言う言葉を聞いて涙する中国人が数多く居るのではないでしょうか。
勿論このような人道主義は「階級的観点」からは完全に否定されていました。
 
3月29日、甘粛省蘭州
市城関収監所で、麻薬
所持の嫌疑で捕まった
「馬衛花」さんが全身麻
酔で意識不明の状態で
強制堕胎が行われた。
手術を受けた女性さえ
自分が妊娠しているこ
とを知らなかったのだ。