救急車と高速道路


04/04/15 南方週末 李海鵬


 4月5日夜の11時26分、ハルピン市街外れの馬海富さんは彼の母が急に異常な症状が現れ119に電話した。
 訳注 : 中国では120番

「俺の母がおかしいんだ。すぐお願いします」。受け継いだ119番が症状を尋ねると、これまで糖尿を患ったことがあるだけで原因は判らないと言う。
 3分後医者と看護婦を乗せて救急車は病院を出発。目指す家までは58キロ有ったが、夜遅く車の混雑はない。運転手は警報を鳴らして出発し、更に時間の節約を考えて、近くの高速道路に乗った。
 この時、関係者達は、まさか交通事情が悪く患者が死亡することなど全く予想だにしなかった。
 12分後高速道路の入り口で料金所が待っていた。しかしそこは真っ暗で誰も居ない。運転手が警笛を鳴らし続けたが誰も出てこない。
 この料金所は飛行場への専用道路でその時間には車は通っていなかった。
 これまでにもそこの料金所は救急車に対し通行料を請求するために運転手と何度も対立していた。
 運転手は車を降りて周囲を探したが誰も人影はなく、車の通路には鎖が掛かっている。仕方なく運転手は引き返し、遠回りして違う地点から高速道路に入ることを考えた。
 ハルピン高速道路管理公社の副総理が後ほど釈明したところによると、その時間は飛行機の発着が無いので夜の10時に閉門したとのこと。
 
 救急車が出発してまだ15分ほどしか経っていないが、その頃患者は更に様態が悪化していた。
 旧道を廻って高速道路に入った救急車が次の料金所に到達したのが11時52分。ここでもまた問題が待っていた。
 つまり救急車に通行料を払わないと通過させないと言うのだ。飛行場専用高速道路管理公社の社長は「私としては救急車に病人が乗っていれば許可します。病人が居なければ有料です」と後日の説明。
 料金所側は通行料30元を要求。高速道路の管理側は、管理については「ハルピン市高速道路管理規定」に基づいて徴収していると説明。その規定では軍と公安の緊急時のみ通行可能で、そこには救急車が含まれていない。
後日記者が黒竜江省の担当部署に問い合わせたところ、所長の孫氏は「え!?救急車が含まれていない。そんな筈がない。いやぁ、おかしい」とただ首をひねるだけ。
 で、運転手は通行料支払いを拒否して、がんばった。運転手は病院からの本件出張命令書を提示した。そして省交通局と財政局発行の「救急車通行料支払い無用規則」の説明書を見せた。道路管理側の担当者は「そんなものは見たことがない」と突っぱねる。
 この時の時間は0時5分。患者家族は病人が呼吸困難になり苦しんでいるのを見て、道路に飛び出し、救急車が道に迷っているのではないかと、道路の方へ走り出していた。
 料金所での「払え、払えない」の争いは約20分続いた。こんなに長く言い争いが続くのは、これまでも何度も同じようなことが繰り返されていたのだ。
 道路公団側と黒龍江省管理局との不整合がある。それがこれまで放置されてきている。
ほぼ月に10回ほどの言い争いが繰り返されてきたという。これまでは同乗の患者家族の誰かが通行料を払って、何とかしのいできたという。
 運転手は道路公団の責任者を呼べ、と要求。やっと責任者が到来したとき、運転手の顔は真っ赤になっていた。 
 運転手が責任者を問いつめたところ、公団側も「あなた方の車がどんな理由で通行したいのか判断が出来ない。私用かもしれない」と言って、通行を許可しない。
 後ほど記者が調べると、黒竜江省の担当局は、現在の管理規定は北京と南京に尋ねて作成したもので誤りは無いという。
 管理側は、今日は先ずお金を払って、後日当局に調べてもらおうと提案した。
 さて運転手がとった方法は、少し道路を戻ったところに高速道路の入り口がある。そこへ戻って旧道に出、その道で患者家へ行くことを選んだ。
 
 運転手が料金所からバックして旧道に出ようとしたところ、そこにも料金所が出来ていた。そしてそこの料金所管理員が「あなた方は道路を逆行してきた。これは管理規定によって通行料の10倍をもらうことになっています」と請求する。それは前記の料金所から責任者が頭に来て、マイクロバスに乗って追いかけここへ連絡して教えたのだ。
 ここでも相当時間激烈な言い争いが続いた。遂に運転手は車に乗りこみ、窓を閉め黙り込んでしまった。そこで周りが説得して病院と連絡を取った。病院側はとにかく先ずお金を払って患者の家へ急ぐように頼んだ。
ところが、運転手と医者と看護婦の3人の合計の所持金が35元しかなかった。
 記者が後ほど救急病院に尋ねた。「高速道路の通行費が片道30元なのに、何故3人の合計が35元しか持参していなかったのか」と。すると病院側は「高速道路は無料の筈だから」と応えるのだった。
 救急車の後ろにはマイクロバスが行く手を遮って進行を邪魔し、金を払わないと一寸も動かさない態度に出た。こうしてここで約1時間が経った。
この時患者の命は臨終となっていた。

 患者家族は病院と連絡を取り、救急車が料金所で拘束されているのを知り、近所の人に頼んで、車を出し医者を迎えに走った。
 料金所では運転手が政府への「緊急電話」を使い、どうするべきか相談した。そして政府は「この場は30元で通行させろ」と指示を出した。こうして遂に救急車が患者家へ到着したとき1時半で、出発後2時間が経っていた。事態は「後の祭り」で遅すぎた。

 この事件は後日「法制日報」紙が先ず報道した。そこでも高速道路管理公社と省の道路管理局は対立を繰り返した。
 やがて各種メディアが報道を繰り返す中、高速道路管理局は運転手に30元を返却した。
 道路管理公社は死者の家族に対し謝罪をすることになった。現場責任者も降格。現場担当者も交替となった。
病院側と道路管理公社も激しい対立を切り返したが、遂に次のような了解に達した。
「この場合30元よりも大事なものが失われた」
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訳者注: この記事を訳して、私は笑うべきか、それとも社会主義に住んでいる人達のことを考えて悲しむべきか、本当に迷いました。国家権力が徹底していると、本当に誰もが官僚主義になります。
 私も大連にいたときタクシーに乗って、片側工事中の道を走ったことがありました。やがてその工事は道路全体で行われていて前へ進めません。しかし工事している人達は、注意書きも出さず平気で工事を続けています。タクシーはかなりバックして別の道を探しました。
 当時は中国の官僚主義とは知らず、只無責任と驚くのみでした。
 でも、私の中国滞在記を読まれれば、猛烈で怖いほどの官僚主義が何度も出て来るのに出会うでしょう。

 救急車に乗っている患者家族が通行料を払う国なんて世界のどこにあるのでしょうか。ギネスにも載ってないかも。それでは救急患者とは言えないのではないでしょうか。
 黒竜江省の責任者がこの様に騒がれて初めて規則文を見直すというのも、「社会主義」らしいお笑いですね。官僚の無責任な顔が見える気がします。
 それに月に10度位の確率でこの様な対立が起こっているなら、何故そのときに完全な対策を決めないのでしょうか。これもやはり徹底した官僚主義だからです。
 毎回衝突しながら、職場に相談しないで放置するからでしょう。
誰もが国家から依頼されて仕事をしていて、その改善を要求するなんてことはあまりにも厚かましいと考えるからでしょう。自分の今のことしか考えないのが彼等のやり方です。
尚少し中国のために言っておきますが、この様に徹底した官僚主義は、この黒竜江省のように東北地方ほど強いようです。
 南方はもう少し開けていて、社会主義から脱皮しつつあります。
 そしてもし、中国にマスコミが10年前のように制限されていたらどうなるのでしょうか。永久に改善されないでしょう。
とにかく、この事件は21世紀に記録する価値のある事件でしょう。!!?