渭南市の表彰式
 03/10/30  記者劉建平 南方週末

 陜西省渭南市の羅紋河と渭南河の合流地点で氾濫、堤防が決壊し、橋を流し、90万畝の田を水につけた。この流域には200万人が住んでいる。訳注:1畝は約700平方米

 500名の武装警官と2000名の兵隊が出動。丸10日の徹夜の奮闘の結果、堤防修復にこぎ付けた。彼等はその場で疲労から倒れる人が続出。或いは座り込んで眠りに陥る人もあった。9月10日朝から、少しづつの引き上げが始まったが、あちこちに疲労で倒れる姿が残っている状態であった。しかしこの後も何度かの堤防決壊が起こっている。
 こうして市を上げての大奮闘がまだ完全に安全とは言えない状態で、党と政府幹部達の正に極端と言える一大形式主義の「防堤成功祝賀」祭典が始まった。
 式典は9時半開始の予定であった。1000名以上の武警と兵隊が集められ車は10数台が並んで待機する中、幹部達は準備の在り方が不十分だといってやり直しを命じ、紅旗の数や砂袋を見える位置に置いたり、指導者の立つ位置など細かいことにこだわり、始まったのは11時21分となった。
 そして「堤防決壊との闘いに成功」という横断幕が巡らされ、指導者達の講話が始まった。感謝状や祝電が披露され、報賞者が選ばれた。

 当日の地元新聞の午前の部に発行された紙面に「この時期に長すぎる幹部の講話」という文字が出たため、一大騒動が始まった。
 それに気づいた幹部は直ぐに新聞の再発行を命じた。同日の新聞に2種類の紙面が出たのは当市始まって以来の珍事である。初版が回収されたが、手に持っている人達は記念に保存すると言っている。
 当の講話をした党書記は新聞記者を見つけて「蹴り殺してやる」、と恫喝。北京の新華社の記者3名が採訪して書いたもので、幹部から抗議の電話を貰ったとき「泣くに泣けず笑うに笑えず」困った、と言う。
 この新華社発の記事が国内の140の新聞社に送付され、各社は対応に議論百出。
 しかしこれまでもこのような形式主義的歓迎祝賀会は中国ではごく普通であった。
 
実は前日の9月9日、堤防決壊の現場に来た市の党書記と市長の2名が濁水に落ちると言う事故があった。その他にも救命具無しの新聞カメラマンが波に呑まれるという事故もあった。このことを知った記者が、表彰式にそのことを発表すればもっと式典が盛り上がったのではないかと話して、周囲を湧かせた。
 
9/15日中央テレビが「堤防決壊の当日に表彰式は適当か」という番組を報道して一層問題は大きくなり、指導者の責任問題ではないかという意見も出始めた。
  
9/17日、市では700人の課長以上を集めて大会を開き、新華社の報道は誤解だらけであることを発表。中央テレビも無責任であるとした。このことが地元新聞に掲載された。
 新華社の記者の書いた記事原稿には「現場の避難テントの中には夜具が無く、それは倉庫に眠っている。幹部達は経験もなく、全くずぶずぶの官僚主義だ」と言う文面もあったことが、後ほど判った。 
 この頃前後して又第3度目の洪水が再発している。そして市の周囲も議論の嵐が吹きまくった。

9/16日、市は40のメディア関係者を集めて会議を持った。そこには香港からの記者も招待された。
 そして幹部は「あの記事を書いた記者は当市に謝罪を申し込んでいる」と発表した。
 これを聞いた記者3名は烈火のごとく怒っている。
 9/17日、市は700名の幹部会を開き、書記が当市専属の記者を置く計画を発表した。
そして香港の新聞「大公報」は市の発表通り「中央テレビの発表は誤り」の記事を載せた。
 
10/28日、記者は現地を訪れた。目の届くところ全てが泥浪に呑み込まれた跡があり、破壊の極みである。そこは葡萄やトウモロコシの生産地。それらは全滅である。

訳者注:
1. 市長が気に入らなければ、新聞記事を書き直して再発行というのが、中国では当然とされています。報道メディアを管理するというのが、独裁の前提です。こうして資本主義的価値観の浸透を防ぐ、とのことですが、実際は官僚主義を育て、不正や腐敗を増殖し、資本主義国から見れば目を覆いたくなるほどの後進国性を露呈しています。

2. 中国のような大陸では、各河川の氾濫は地元の雨量だけでは推測出来ず、遙か上流数千キロの増水も知る必要があります。それは一度だけでは収まらず、流域の複数地点の洪水が連続してやって来ます。
 ヨーロッパでは上流の他国からの水量や水質変化も懸念します。
 途中に広大なため池(日本の県くらいの大きさの)を造ったりしますが、それを中央政府に連絡無く、工場や宅地など土地転用したりして、この10年ほどは隔年毎に大災害を招いています。その規模は巨大で被災者7000万人というのがあります。
 ただこの10年で少し中国も進歩しています。それは93年時点では、洪水が起こると各職場で「この混乱を利用した米日の破壊スパイ活動を阻止しよう」という決起集会を開いていました。これがあまりにも時代遅れという事で中止されました。 

3. 少し話がそれますが、今日(11/25)の新聞で北京・上海間の高速鉄道建設について日本の経団連が訪中して鉄道形式採用を要望したことが出ています。これまではフランスかドイツのリニアカーを採用する予定と言われていました。この計画が採用されれば、今後その50倍の仕事が来るというので、各国は懸命に中国政府に働きかけています。
 ところが「文藝春秋」の今月号には、台湾の陳総統が「中国は人治国であり法治国でないため、利益を得ることは難しいだろう」と言うことを対談で話しています。
 今日の新聞に、トヨタ自動車が中国に対し類似商標使用禁止(エンブレム)を求めた裁判に負けたことが載っています。
 中国では裁判官自身に決定権が無く党の指導に従いますから、今後WHOの場で揉める事件も増えていくのではないでしょうか。そのことで中国の民主化が始まると期待する人も居ますが。