(原題)大都市で普通の景観
03/12/31 南方週末  秦準摂

03年12月5日、蘇州市工業地帯に住む孫宝祥とその妻朱玉珍の2人は今でも忘れられない一夜を経験した。
 夜の11持頃、床に入ろうとしていた夫婦の家が突然数人の大男に侵入された。
「声を出すと殺す」と脅しながら夫婦の口にテープを貼り、手を後ろ手に縛り上げ、寝間着のままの夫婦を外へ担ぎ出した。
 その直後、巨大な音と共に彼ら夫婦が25年住んでいた家屋がブルドーザーで押しつぶされた。
 これが「江南時報」と言う新聞が伝えた、まさに野蛮な政府の強制立ち退き作業の記事である。
 これに似た記事が2003年の中国には数多く報道された。このときの「江南時報」新聞の題名は「蘇州の暴力的立退き作業、市民が深夜に野蛮にも縛り上げられて追い出し」と書かれている。
 今中国全土に行われている各級政府の強制立退きのやり方であり、都市開発と土地買占めを目的としている。
 一般市民にとっては鬼か悪魔が身に迫っている気持ちである。
 新華社の記者も全国を調査し「強制立退きが民の心を踏みにじっている」と報道している。
 この調査では 2003年の9月と10月に行われた。上海、北京、江蘇、浙江、山東などの省市で、「公共」のための強制立退き工事が大々的に野蛮に行われている。

 例えば上海市の74歳の何礼明さん夫婦の場合、数十年住み慣れた家屋を「公共の目的」で政府から立退きを命じられた。ところがその家は取り壊されず、改修されて、一つの酒場に変わった。地域の看板は「新天地商業地区」となっている。
「新天地」というのは、土地開発公司の宣伝文句で、「ホワイトカラー目当ての高級商業街」の名前である。1坪1ドルである。これで計算すると何さんの家は100万元以上する。しかし何さんが政府からもらった金は10万元である。説明では「後かずけ」代を取られているとのことだ。住み慣れた家を時々訪れ、見知らぬ人達がかっての自分の家で酒を飲んでいるのを窓から見ると、涙が止まらない、と言う。
 また、浙江市では強制立退き地帯は、始め政府は緑化地帯にするので保証金はほとんど出ないと説明していた。そこで住民達が立退きに同意せず、市政府と交渉を重ねる内、本当の土地計画は、商業地帯にすることが解った。そこで今でも当地はもめている。

 「公的」と言う名目で立退きを迫られた場合、「私」の側はどうしても弱者となる。
 2003年7月、「青年報」によると、北京市での古い建物の強制的改造は、公共と市民との共同の利益だと説明されているが、当人達は大きな傷を受けた気持ちになっているとのことだ。

 訳注:北京はオリンピックを迎えて旧市街を立て替えている。これまでは市の中心の各家庭には便所が無く、地域に共用のものが有るだけだった。近くを通ると強烈な臭いがする。
 しかしここで取り上げているのはその事例以外にも、公共目的で強制立退きが頻繁に行われているようだ。

 現在中国の法律では各家庭の家は法的に保護されている。開発公司と平等に扱われている。しかし実際は開発公司が一声をあげれば、すぐに法律が負ける。
 
現在北京では立退きの場合、1平方米当たり5950元の補償がある。これには交渉の余地はない。そしてある人が立退いた近くに家を買ったとき1平方米当たり8200元取られた。この人は言う。「家屋の売買で何故買う方が値段を決めるのか」と。
 
引っ越しの補償が少ないのは、開発公司の特権があるからである。ある人の北京市の住宅は、夏は涼しく、冬は暖かい。そこを11万元で接収された。これと同じ値段で北京郊外に適当な家が建てられるだろうか。そんなことはあり得ないだろう。このあたりに住む人はほとんどが離職者で定収入がない。預金もない。ではどうして生きて行けと言うのか。

またある人は言う。いつもこの立退きの後ろには開発公司が居る。土地の売買で契約に名を残すのはほとんどがこれら公司である。政府が表に出るときも、何故この公司に補償を出しているのか。
そして政府といえども強制的に土地を取り上げる根拠はどこにあるのか。
 いろいろ庶民の不公平な扱いに不満があるが、訴訟する方法も権限もない。
 現在法律では、先ず土地を取り上げ、その後に開発計画を立てる、となっている。そこには住民の同意の有無は書かれていない。従って普通には裁判所は取り上げない。たとえ取り上げることがあっても、裁判が終わるまでに必ず家は撤去されている。この撤去を補償する法律はない。裁判所には何の権限もない。
 
 こうして今中国では全国で土地を取り上げられた人達の不満が渦巻いている。そして中には極端な手段に訴える人が出る。
 2003年8月22日、南京市では一人の市民が土地を取り上げられて、市政府の建物の中で油をかぶって焼身自殺した。
 9月15日、天安門前広場で同じように焼身自殺事件があった。これは安徽省農民の朱正亮さんで、1時間の燃えさかる様が報道されて、中国全体が驚きに包まれた。
 その4日後、9月19日、国務院は「強制立退きは社会を揺るがさないように」と言う緊急通知を各級政府に送付した。

その後、中央は又山東、上海、南京、杭州等、四方へ連絡の人間を送った。それは強制立退きの問題を穏便に納める方法についての参考例を示すものだった。
 10月29日、北京市公安局は記者を集めて、これまでの悪質な反抗態度の事件について犯人は既に逮捕されたとの報告事例が紹介され、更にもう一人の犯人についても逮捕の手続きを取ったとの報告であった。
 また行政側も20の市に於いて、強制立ち退きに関する補償金が法的に明確化されることの制度上の改善を行っていることが通達された。
 12月3日、建設部は「都市内家屋の強制立退きに関してその評価の基準」なる通達を発布し、住民側の利益を損なわないようにすることを要求した。2004年1月1日執行される。
 更に重要なことは03年12月21日中央は全国人民大会に対し「公民の私有財産を侵すべからず」との議案を提出した。私有財産権を公共が損害を与える時は、それが補償されること、という条文が入っている。
これは中国にとって根本的な国家的重要法案となる。
 
訳者注:
 ついに焼身自殺が中国で2件起こりました。公共の目的で何故”今”強制立退きが中国全土で政府と開発公司が一体となって進められているのか。さらに具体的な事例が来週号に載ります。(この記事は1月1日号です)
 日本と関係があります。世界と関係しています。こうご期待。