「台湾独立」の言論を弄ぶ香港女性議員
     南方週末 03/09/04 辛黴

 ここ数日香港メディア「大公報」、「文ピ報」、「成報」等は大陸内部のメディア「新華網」「人民報」「南方網」「新浪網」等と共に、香港で起こった発言について、今喧々囂々(けんけんがくがく)と非難を浴びせている。
 香港の特別区行政区議員”劉恵卿”が「台湾独立」支援の声明を発表したのだ。
 彼女は香港議員の身分のまま台湾に行き、李登輝が参加している台湾独立団体「群策会」主催の”1国両制度下の香港の現実を批判し、台湾の前途は台湾人自身が決めること”と言う決議に賛成し、香港帰国後、テレビに出演し「”台湾は中国の一部”ではない」、と発言し、「自分には発言の自由が有る」と言ったのである。
 これに対し多くの香港人は勿論、全てのメディアが今強烈な反論を開始している。
劉恵卿は台湾で「香港には選挙の自由はない。香港人は中国のかごの鳥であり、ただ香港から逃げ出す自由のみがある」と発言している。
 又続けて「皆さん見てください。私が台湾に来ることに対し大変な圧力がありました。もし台湾が将来1国両制度を受け入れたら、台湾人も他の土地で自由に発言することが出来なくなります。1国両制度は籠の鳥であり、台湾を籠の鳥にしてはいけない。台湾の将来は台湾人自身が決定するべきだ」とまで言ってのけたのだ。

 では反対の議論を見て行こう。

 先ず「台湾独立」を主張している民進党は3年前に政権を取って以来経済政策がお粗末で、島民に大きな苦しみを与え不満が拡大している。
 従って来年の総統選挙を控え、かっての政権党「国民党」と「親民党」の両党は協定を結び、選挙勝利に向け予想では60%の優位を確保する位置に立っている。
 
次にこれまで民進党を指示してきた人達の中に、経済的不満から投票を拒否し選挙当日は大陸へ旅行するという人が増えている。
 
 劉恵卿は香港に帰ってからメディアの叱責を激しく受け、テレビの討論では「台湾独立」について全国人民代表の李鵬飛の「台湾は中国の一部分ではないか」と言う質問に対し、明快な回答を出来なくなった。
 しかもこのとき中国人全体に対し「申し訳ない」と言うよう謝罪を要求されたが、しかし彼女はこれを拒否したのだ。そればかりではなく「中国日報」の批判記事に対し、逆に彼女に謝罪を要求したのだ。

 この少し後のこと、彼女は又「台湾の前途も香港の前途もそれぞれの人民が決定するべきだ」と述べ、さらに批判を拡大している。

香港の「民主派」議員と言われる”ト謹申”が香港メディアのテレビ討論に参加し、「台湾独立」に賛成しないことを明言、彼女の発言は選挙の宣伝をかねたものではないか、さらに李登輝に対し「今後香港の矛盾を捉えて1国両制度を批判することは止めるべきだ」と述べている。
彼女と一緒に台湾へ行き、討論会に出席した香港の中文大学の王家英は南方週末記者の質問に対し「私は台湾独立を支持していない。香港に各種矛盾が発生しているからすぐに1国両制度が失敗したと言うのは間違いであり、香港は台湾より進歩的である。何故なら香港には台湾のような秘密資金はない」と述べている。

 訳注:「秘密資金」とは国民党が独裁時代に築いた資産で、現在も財界のほとんどを支配する巨大なものである。マスコミも支配している。38年という長期の戒厳令の結果もたらされた国民党の財産である。このため民進党が権力維持に苦労していることを香港の学者は知らないのだろうか。

 またこの香港の学者は一人で台湾を訪問し、帰国後「台湾独立には賛成しない。劉恵卿の考えは頑固で、台湾独立をあおることで、香港独立をも画策している」と発言している。

 台湾も「一つの中国」で有るという根本的事実を誤魔化すことは出来ない

 香港のメディアは劉議員の発言が「国家分裂をあおり、言論の自由を語ることで議員としての誓詞を忘れているのではないか」と言うことを紹介している。

 香港の九龍城区の議員、王紹弥は「立法議員は一般市民とは異なり誓詞に署名しており、そこには”国家統一と国土保護の規定”を守ることになっている。彼女の発言は国家分裂を策しており、誓詞に違反している。言論の自由の名の下に許されるものではない」と述べている。
 又さらに次のように述べている。すなわち「香港の基本法79条において、誓詞に違反した場合、議員はその資格を失うこと、および議会の3分の2の賛成が有ればその議員を譴責することが出来る」、とのことだ。
  この王文は指摘している。「”台湾独立”は中国にとって、その身体に存在する一番重要な問題で、中華民族はこれを統一に向けて生命をかけなければならない。だが劉恵卿は”台湾独立分子”と手を繋ぎ、彼女は国家観念を持っていないことを暴露しており、中華民族の根本的利益を無視している。」

 そして香港の別の議員陳雲生は香港警察に連絡を取り、劉恵卿の発言をこれら罪状に必適することを調査し市民に発表するべきである、と要求したので、現在警察は調査を開始した。
 香港市民、梁仕鴻は新聞に投書し「自分は彼女に投票したが、しかし彼女の発言は議員としての資格に違反している。明らかに”台湾独立を支持している。それは香港の基本夫に触れている。台湾独立派の李登輝や陳水扁に同ずることは許されない。彼女の発言は国家の安全を脅かしている。このまま許すと民族の興亡を招く。このような偽民主議員を直ちに議会から追放することを議決して欲しい”」と言っている。
又別の市民、顧と言う人も同じように”この事件は本当に人びとを憤激させる”として、劉議員の即時資格剥奪を要求している。

 8/31香港の「成報」は劉議員の発言は祖国の言論統一を破壊する、香港市民の叱責をかっている、その責は自分で始末するべきだ、とした論評を掲載した。
 
又ある香港の市民グループはデモを組織し、香港「明報」に一面広告を載せ、劉議員を即時抹殺することを要求した。

 大陸内部でも各メディアは劉議員の発言が民族の重要で基本的な権利をないがしろにした、として警告を発した。
 我が南方週末の姉妹紙、「南方都市報」も署名論文を掲載し「中華民族と香港人民の基本的権利をないがしろにしている今回の行動を高度に警戒しよう」と述べている。

香港と廈門の法律起草委員であり、大学教授でもある許崇徳氏は我が社に対し「香港の1国両制度は成功している。これは世界が認めている。この制度で香港は資本主義を維持し生活において何の不便も感じていない。香港のメディヤは大陸を批判することも出来る。
 台湾は中国にとって不可分な土地であり、誰もがそれを守る義務を持って居る。劉恵卿議員の発言は国家統一に対し重大な悪影響を与えている。これは香港にとっても良いことは少しもない。現在香港は経済回復を目指し懸命な努力中である。その時にこのような言論を弄することは経済回復を遅らせるだけである」と発表した。
 前記王家英は我が記者に対し「劉恵卿の考え方は、国家の原則よりも個人の自由を上部に置いている。この考え方は危険である。
 社会や国家を離れて自由などがあり得ようか。個人のいかなる自由も国家の規制を受けるのが当然である。個人の自由を国家の上に置けばぞれはすなわち即国家転覆が可能となる」と鋭い意見を表明してくれた。

 地球上のいかなる地点に置いても、個人の自由を国家の上に置けば国家の安定などあり得ない。それこそ無政府主義の国家である。

さらに彼は続けて「台湾の将来が台湾人のみによって決定されるならば、それは明らかに中国人の権利を無視している。
 現在台湾とその向かい岸の将来はどちらか一方だけの意見で決定できるものではない。共同の意見形成が必要である。」と説いている。

 香港からの報道によると、香港議会は9/10の立法議会に於いてこのことを議論し、劉議員の免責決議を準備中である。
 民主建設連盟議員の蔡素玉議員は8/30次のことを発表した。すなわち彼女が監察委員会主席の朱隣召に、会議を開き劉議員の問題について討論し、誓詞違反および如何に処理するかについて具体的に決定することを要求する。

台湾独立派の勢力が香港に勢力を伸ばそうとして居ることを警戒しよう

 台湾の独立志向の新聞「自由時報」は8/18日、次のような記事を発表した。
 ”香港の立法議会議員劉恵卿は、今後とも引き続き香港が独自で行政委員長と立法委員を選出する権利を闘い取る決意であると表明し、さらに台湾人のこの闘いへの支持が非常に大切で有り期待している”と書いた。
 やはり彼女は香港での政治目的があって台湾に媚びを売ったのである。
 それは中国の中央が台湾人の反応を非常に強く意識しているから、それを利用しようとしているのである。
 これはすなわち彼女は香港の混乱を狙い、1国両制度を混乱させるため、あらゆる機会をつかもうとしているのである。そのためには外部勢力とも手を結ぼうとしている。
 我々はこれらの動きに対し充分な警戒をしなければならない。彼等は香港の経済的混乱を利用しようとしている。そこで先ず中央政府は香港経済の回復に協力するためあらゆる援助をするだろう。
 例えば既に契約されたcepa協議、および大陸内部の人が香港へ自由に旅行できる手続き、これは共に有効な対策だ。
 もし台湾独立派の盲動を許せばそれはすなわち香港にとっても安定した日が無くなることを意味する。
 我々は香港の右派のこれらの動きと台湾独立派との共同を警戒し、高度の注意を払わないといけない。

 訳者注:
 本当に信じられないような時代遅れの意見、正に独裁者のための御用意見です。
 個人の意志を無視しても国家を守る、この考えが建国後の全ての悲惨な歴史を創ってきました。
 中国の後進性、大衆の権利の抑圧、文化の停滞、腐敗構造の政府、これらの全てがこの考えによって醸成されています。
 このような思想が国家から発せられるとき、そこには暴力が伴い恐怖が生まれることが容易に想像されます。
 実際これまで紹介してきた全ての民衆抑圧の事件には、党と政府の暴力が行使されてきました。暗殺行為も何件か有りました。 
 しかしこのような考えが人類の歴史から排除されつつあるのも事実です。それが20世紀最後の「社会主義崩壊」だったのではないでしょうか。
 勿論中国も例外ではなく、崩壊しかけました。それを自覚して「市場経済化」という逃げ口上で、本質を隠そうとしました。
 香港のことは日本の新聞では良く解りません。こんな近距離なのに。日本の報道関係者が多く滞在しているはずなのに。
 しかしこの記事によって、現状維持は大きな国家的暴力機構が使われていることが伺い見られます。
 そもそも「南方週末」は中国の事実を報道すると言うことで、中国のこれまでの歴史には存在しなかった報道の意義が彼等に付与され、大衆が大きな期待を寄せてきました。
 現在ちょっとした対政府との事件が発生すると、すぐに誰かがここへ連絡するほどの信頼を獲得しています。
 私の聞くところ、1989年の天安門事件の学生が戦車によって解散させられて以降、中国の実態を何か違う形で大衆に知らせたいという学生達が、報道機関に就職して、その中からこういう新聞が生まれて来たと聞きました。
 しかしこの記事は何でしょうか。?!反動擁護の姿勢丸出しではないでしょうか。
 でもこの記事に怒っても仕方ないことも解ります。それはこの新聞社も党が運営しているのです。中国では、マスコミを権力者が支配することで権力を維持できることが明快に憲法に書かれています。インターネットのEメールを毎日20万人の公安が看視していることが日本の新聞に発表されています。(2年前)

 北朝鮮も全く同じ構造の社会です。国家を守る為に、個人が犠牲になる。一体どんな国家なのでしょうか。氷のような国家でしょう。

 ここで私の誤解も書いておきます。9/21夜NHKが拉致家族について報道しました。それによると彼等5人に、日本帰国後1月経過を迎えて、5人の日本永住を提案したのは日本政府でした。
 それに対し蘇我ひとみさんは「仕方ないですね」と応える姿がありました。
 先月私は永住を決めたのはきっと本人だと書きました。しかしその方針を出したのは日本政府でした。そうすると日本政府は個人の選択の権利を無視したことになるのでしょうか。
 それでも私自身は、その方針を提案した政府担当者に拍手を送りたい。もし自由な選択を提起していたら、無責任だと感じるでしょう。

 その直後、彼等は地元自治体に仮就職などをしますが、(毎年の1年契約だそうです)職場に入って解ったのは、同年齢の人達は既に部長などの要職に付いていることでした。しかし帰国者達は日本語を話せますが、しかし肝心の日本での労働の実態がないため、明らかに同年齢の人達には追いつけません。しかもすぐ定年が近づいています。やはり20年から30年の空白は彼等の人生にとって決定的に大きかったのです。
 そしてその一人は日記を見せて「自分はこれから平凡で平和な生活を望むだけ」と本心を紹介しました。
 その心には、どうもがいても、皆に追いつけない寂しさが有ったと思います。しかし「平和があるから」、と言う思い。その一番大切なものが、今の日本には有ると私は思いました。皆さんは如何でしょうか。
  
 あ、いけない、問題は台湾の将来です。
何故台湾が目の前の大きな大陸からの脅威によって将来を変えなければならないのでしょうか。日本ももし後進国で居たら、恐らく同じような目に遭っているでしょう。
 国連には自分の政府決定の権利が明記されているのではないでしょうか。
 しかし李登輝も大胆に行動しますね。何故国民党総統の椅子を離れたらこのように大胆に成れるのか、その辺が知りたいですね。
 そして日本政府は今後どのような態度を取るべきか。
 かっては日本にとって、中国の内政問題でした。それは事実です。(これにも台湾人は反対しています)
 その事実が進んで、しかし民族自決も重要な要件であり、それが主要な鍵に、時間の経過と共に変化しつつあると私は考えますが、皆さんは如何ですか。