流  言

03/5/15 南方週末  張立

 村人達のsarsへの恐怖心が大規模の流言を生み出している。

 4日で14の省に伝染

 5/5日、湖北省の大冶市で56才の秦さんが家にいると付近の人達があわてふためいて飛んできて「爆竹を早く鳴らさないと大変だよ」と叫んで回っている。
 その話によると、sars を避けるためには「6本の線香を立て、6枚の色紙を飾り、爆竹を鳴らす」と良いという。
 外へ出てみると既に何処の家も祭壇をまつり蝋燭を立て、線香を焚いている。 

 少し離れた所では、生まれたての赤子が言葉を3言話し、そして急死してしまった、と騒いでいる。その言い残した言葉とは「今晩12時前に爆竹を鳴らし、線香を3本立てる。そうすればどんな災害も防げる。12時を過ぎてからでは遅すぎる。」と語ったという。

この噂が伝わり、街中どこでも爆竹の音が辺り一面鳴り響いている。
 有る村では2000軒の家に400戸の家が電話を持っている。
 そこでも直ぐに噂が伝わり、何処の家もこれを信じ、また子供が地方の学校へ行っていたりしていて、この話が他地区へどんどん広がっていった。この流言が広まるには携帯電話が使われていることと南方の地方へ出稼ぎに行っている人が多いことが大きな役割を果たしているようだ。
 流言が広がると、その内容も変化している。有る村では「今朝生まれた赤子がsarsの話をすると直ぐ死んでしまった」となり、その村では誰もが香を焚き爆竹を鳴らした。また村に神棚を作って祭った所もある。
またある地方ではこの3年間口がきけなかった1人の男が突然話し出し、そして急死した。これはきっとsarsのことを心配したからだ、として村人達は爆竹を鳴らした。
 別の村では、夜の10時半頃、何処の家でも線香を焚き、地面に米を撒き、sarsの伝染を防ぐことを祈った。
有る市民は言っている。「不思議なことに誰が言い出したか解らないのに、誰もが、政府幹部さえ、皆外へ飛び出し爆竹を鳴らしている」と語っている。
有る市の商店では爆竹が売りきれとなり、さらに店舗の前には行列が出来ているので、慌てて車で問屋へ買いに出かけた。

 有る市の真夜中1時頃、街全体が爆竹の音に包まれ、もう気が狂った様に見えた、と言う。
咸寧市、崇陽県、赤壁市、通山県、通城県嘉魚県、等では街全体が爆竹に完全に覆われた。

さらに

 双溪橋街では午後の7時頃「生まれたての赤子が言葉を話した」と言う噂が広まり、聞き知った地方政府は各村に電話を入れ、この種の流言を流さないよう、申し入れた。
するとその流言の出所らしい地名が浮かび上がった。流言の発信人を逮捕するため公安が10数名車でその家に駆けつけた。真っ暗な夜道を何とかその目的の家を探し出すと、それは既に夜の10時を過ぎていたが、3名の人がその出所であることが解った。しかし彼らは共に文字も知らない人達で、本当の発生源はどこか解らないと言う。
 中国の治安管理令ではこのような流言を撒いた者は15日間逮捕拘留することが出来る。その村で何人かが逮捕されたが、しかし誰も無知な人ばかりで、悪意があるとは思えない。 
 これらの流言は湖南省、江西省、浙江省などに伝わっている。また記者がそれらの地方へ飛行機で採訪に出かけると、機上の人もその噂を既に知っていた。


 (以下概略)
235年前、清朝時代の清の乾隆帝33年、「叫魂」と言う流言が全国を吹き荒れた。術師が誰かの毛髪か或いは衣服に呪いを掛けるとその人が病気になったり、或いは死亡するという、或いはその人の精魂が消え失せてしまう、そう言う流言であった。
 その流言は江南地方から発し、北に昇り西に広がり、半年の間に広大な中国全土を覆った。
 
 「叫魂」は社会に何か不安定な気分が広がったとき、もう誰も止めることが出来ないような状態になって伝染していった。

そして今、あれから235年が経った中国で、「赤子が言葉を話す」とか、爆竹を鳴らすとsarsを防げるとか言う流言が伝染し、中国の14の省に跨っている。しかもそれはたったの数日の間の出来事である。

 5月3日に湖南省、及び湖北省から出発したと見られ、「誕生した赤子が言葉を話す」「これまで言葉を話せなかった人が突然話しだした」と言うことから始まり、これを聞いた人達が祭殿を設け香を焚き爆竹を鳴らしている。
5月6日には最高潮に達し、「雷の神様が龍に落雷し、その地では必ず大地震が発生する」と言うのがあり、赤子の誕生地を特定できるものもある。他県から電話をもらい、人に教えたという人も現れている。
陜西省、福建省、雲南省などでは5/6の夜に流言が最高潮を迎え、5/7日には四川省に伝わり、そこでは緑の豆か、おかゆを食べればsarsを防げると言われている。
 広西省では「2年間お腹の中にいた赤子が生まれたとたん言葉を話し、直後死亡した」と少し中身が変わっている。
5/8日の浙江省では爆竹の売り切れの店が続出し、赤子が「双子」に変わったりしている。
 5/9日になると急速に流言が少なくなっている。
 結局4日の間に14の省に流言が伝わったことになる。
 235年前には12の省に伝わるのに半年掛かっていたのが、時代の差か、携帯電話が使われたのか、極めて速い速度で伝染した。


 訳者注:
 日本の新聞ではこの疫病の広範な広がりについて、中国農民の極度の貧困が、SARSの拡大を防げない大きな原因の一つであることを指摘しています。
 農村から都会へ出稼ぎに行っている人たちは畳1畳に一人くらいの割で共同で部屋を借りています。これが急速な伝染・拡大を起こす。
 この密集した生活環境と、常に都市へ仕事を求めて大移動しているため、伝染を防ぎにくい。
 それとこの記事で示しているのは、農民のほとんどが建国後何の教育も受けてこなかったことでしょうか。
 235年前と同じとは言わないまでも、あまり進歩していない農村環境があると思います。大陸から一歩中へ入れば、農民達の姿はとても人間のものとは思えないという旅行者の話は何回も聞きました。
 山崎豊子が15年前に書いた小説「大地の子」で出てくる農村の、あの悲惨な妹の姿を皆さんは現実と思えますか?あれで政府が有ると言えるでしょうか。
 私は約10年前、東京で中国映画を見ました。
 それは建国前の日本が軍隊を中国の奥深く進めていた時のことです。中国共産党は日本軍から逃げながら農村の人達に向かって、やがて日本を追い出し中国が独立したとき、中国政府が出来、すべての人たちに教育の機会を与えると宣伝して回りました。
 私はその映画を見て深い感銘を受けました。そのことが全くの嘘であることを知ったのは、それから数年後です。
 それにしても、建国後40年経ちながら、まだ嘘の映画を東京で上演していたのです。
 学校の教科書も嘘だらけだった。建国後中国人の生活は日々に向上して誰もが党に感謝していると書いてあった。!!?
 実はこの同じ南方週末の記事に、女性が幹部によって売春婦扱いされ気が狂う記事があります。でももうそんな記事を訳す興味がなくなってきました。きりが無いですね。