中国に始まった民主化の1頁

 昨年12月「Hなビデオを見た夫婦」と言うタイトルの翻訳をしました。個人の家でVCDを見た新婚夫婦の家に警察が無断・無許可で侵入して夫を逮捕、更に拷問を加え、精神異常にしました。新妻は14人の親戚の血判を取り協力を得て政府を相手に訴訟を起こしました。

 この話には続きがあり、日本の他の本で紹介されていました。ダイヤモンド社「リアルチャイナ」葉千栄 著 ¥1500円です。
2003年5月発刊。
 それによるとこの事件が他のマスコミでも取り上げるようになり、全国から新聞やテレビに反響が載るようになったのです。
 地元の「華商報」のホットラインの電話は連日鳴り続け電話機が熱くなったとのこと。 そしてやがてこれまで政府べったりだった法曹界が夫婦を弁護する立場に変わり、ついに中国始まって以来最初の政府の敗訴事件となり、約3万元が支払われました。
 賀警察署長は降格停職、家に乗り込んだ警察官は懲戒解雇。
 何と言うことでしょう。中国の歴史に残る大事件です。もしこんな事が文革の時代に可能ならば、何千万人が死ななくて済んだことでしょう。
 但し安心は禁物です。「南方週末」の姉妹紙「南方都市報」は、「もしこの事件がこれほど世間の関心を集めていなければ、結果はどうなっていただろう。夫婦の権利は守られていただろうか」と書いています。つまり法律と制度と慣習と、国家権力はまだ”公民権””人権”を認めていないのです。
なおこの「南方都市報」の記事のタイトルは「HなVCD事件を教科書に載せよう」として書かれました。これは今後の中国人にとってとても大切な永久に記憶するべき民主主義を進める事件として記録に残そうという意図です。

 この本の著者「葉」氏は、1957年上海生まれ、上海戯劇学院大学卒業後85年来日、早稲田大学博士課程修了。
 この方は、昨年北朝鮮から日本へ戻ってきた5人の帰国者について次のように言っています。
 「彼等は日本へ帰国して数ヶ月は北朝鮮のことを”共和国”と呼んでいました。でも、その言い方に私は大いに違和感を持って聞いていました。共和国とは”専制”と反対の言葉です。北を共和国と呼べるでしょうか。そして最近ではあの5人の方達は共和国とは言っていませんね」

 もう少しこの本を紹介しましょう。
 2001/9/11日、アメリカのテロ事件が起こりました。しかし中国ではテレビ局(7つあります)は全て国営で、報道にはいつも事前に党の許可を取ります。事件は何時も時期遅れ。そこで国民は香港のものを見るようになり、この事件以降各テレビ局には広告依頼が無くなりました。(中国では国営局も広告を流します)
 そこで3ヶ月後の11月になって中国のccctv(中国国営テレビ局)とアメリカのCNNとが相互報道の契約をしました。以降中国でも世界の報道を見ることが出来るようになり、アメリカがバグダッドを爆撃したときは世界に先駆けて報道したそうです。そしてテレビ局の広告収入も増えたそうです。
 が、著者は強調しています。
「中国が体制として報道の自由を認めたわけではない」、と。金も組織も全て党が運営・管理していると。
 でもとにかく、中国の社会主義にも、ついに民主化の1頁が記されたことは間違いがないでしょう。それが”HなVCD”とは歴史の皮肉ですね。
 
 もう一つこの本からの紹介。
 今年の春3ケ月に亘って「走向共和」(共和制社会に向かおう)というテレビドラマが放送され、中国全国民が熱狂的に釘付けになったそうです。清朝末の袁世凱、李鴻章、西太后が登場し、西洋列強の登場で危機に瀕した中国を「共和国」にする方向で西洋と渡り合った様に描きました。
 しかし現在まで中国ではこれら3人は西洋に中国を売り渡した悪人として紹介され理解されてきました。恐らくこのテレビがなければ、100万年後でも3人は売国奴で通したであろうと書かれています。
 しかしこのテレビ劇の中で3人は、西洋と比べ圧倒的に遅れた中国社会を背に、列強と渡り合い、「共和国」の方向目指して、奮闘したようです。清朝崩壊後中華民国成立。

 何故このテレビ劇がこれほどまでに人気を呼んだかと言えば、中国はこの百年の歴史の流れの中では「共和国」を目指していたことが明確に示されたからです。「共和国」とは専制や独裁の反対言葉です。つまり中国人はこれまでの歴史の大きな流れの中での位置づけを見直しつつあると言うことです。4000年と言われる中国の歴史を、封建制度から「共和国」に向かって進める、それが本当の流れだと言うことを、この歴史劇が国民に教えているし、国民はそれを理解しつつあるのです。
 ”しかも驚くことにこの劇を書いたのは、中国共産党湖南省宣伝部副宣伝部長鄭佳明だったことです”と著者は書いています。