安全套(コンドーム)の独占販売

 03-01-16 南方週末  記者  サイ明レイ 
”計画生産委員会薬事部が安全套の販売を独占し暴利を得ている”、記者の方へこの様な投書が来た。投書者は「活色生香」という安全套の取次店の経営者である。投書者は国の要求する全ての販売許可書を持っている。しかし巨大市場上海には入れない。
 「上海のほとんどの小売店が私達の商品を扱えないと断ってきます。しかも薬事部部長は”私達の許可書がなければ上海では商売は出来ないはずだ”と威張っています」と言う。
 記者が「WTO加盟後もそんなことが出来るだろうか」と聞くと投書者は「では実際に調べて下さい」と頼んできた。
 数日後、記者は安全套のメーカーの肩書きを持った経営者の装いをして小売店を回ってみた。

 やはり投書者の言は事実だった

 有る上海の薬店の店長王国権は記者に対し手を横に振って「この商品は薬事部が指揮をしています。他のメーカー品は扱えません」と直ぐ断ってきた。
 同業者は何処も似たり寄ったりの言葉で「私達の所も同じですよ」と言う返事だった。
有るスーパーの店長は「仕方ないですね。これは薬事部の命令で、反抗することは出来ません」と答えた。
 記者は、幾つかの販売店に電話で「これから新しく商品を扱ってくれないか」と尋ねてみた。以下はその記録である。
記者「私達は安全套のメーカー品を上海で売ろうとしています。そちらでも置いて貰えないでしょうか」
 喜士多商店の販売員「薬事部の許可がないと私どもでは扱えません」
21世紀商店「これらの商品は必ず薬事部の許可が入ります。どうかそちらと交渉して下さい」。
農工商店「上の方からの指示がありまして、他の商品はどうも。もしばれたら大変なことです」

 以下同じような返事が続いた。 
この様にして記者は1週間電話で調べてみた。そして解ったことは華聯、聯華、復星、屈臣、雷允、これらの小さなスーパー以外全ての商店で、安全套の販売は計画生産委員会の指令で他のメーカー品は扱っていなかった。まさに事実上の独占販売である。上海に売り込もうとする安全套のメーカーは上述の小さな幾つかのスーパーのみで細々としか小売店を見つけることが出来ないのだ。

 何故独占販売となったのか

 聞く所によると、96年から上海の計画生産委員会薬事部は市場独占を始めている。
 計画生産育成というのは中国の基本政策として始められ、政府は毎年3,4億元を安全套の購入と販売活動に支出している。この活動は全国各地の薬事部の管轄下で行われている。
 それ以降、薬事部のねらい通り安全套の販売を通して莫大な利益を上げている。
 96年上海計画生産委員会は「96年第1号文」を発し、この指令の中で「薬事部の指定以外のメーカー品は取引をすることを得ず」と記し、「又その取引金額も薬事部が決める」としている。
 この政策によって薬事部の取扱商品のみがスーパーや各種商店の商品台に展示されることを許されている。記者の調べた所、薬事部が把握している小売店は3496店舗に及ぶ。その内658店が西洋薬店、269店が中国薬店で、またスーパーは2336店、その他ホテルや百貨店が233店有る。実に巨大な小売店の独裁的組織化である。
 96年、同時に薬事部は上海連合計画生産委員会の直属の有限会社を設立し、その代表は薬事部部長のシャオ・ヨウチュエンである。全ての薬品はここを経由して仕入れ販売が行われている。
 このようにして、薬事部は安全套販売の市場を握り、巨大な上海市場全体を思い通りに支配しているわけである。
 あるメーカーの販売代理店員は自嘲気味に「全上海の男性の命運は薬事部に握られている」と語っている。

 一面は官、一面は民の官営公司

 薬事部の下で活動する有限会社は調べてみるとこれ以外にも奇怪な活動が他にも出てきた。   
 この有限会社は品物を卸している巨大な数に上る小売店とは直接にはどんな接触も行っていないのだ。そこの責任者は「私達は何処の店がどの程度の売り上げを達成しているか全く関与しない。又実際、各小売店に商品が残っているかどうかさえ考えたことはない」と語っているのである。
 ある商店主は「こんな横暴な商売のやり方は聞いたことがない」と首をかしげている。
 「品物が売り切れたとき、直ぐに市から70キロ離れた薬事部倉庫へ補充の品が届く。しかしこの管理が適当で何時補充したかの記録がない。しかし請求だけはうるさい。」
 
 上海各区では薬事部の検査が厳しい。検査員は一面で薬事部の職員であり、同時に有限公司の職員でもある。そして各商店の品物を見て「私達は薬事部の検査員です。貴方の所の品物は我が薬事部の指定品ではないですね。直ぐに捨てて下さい。」と指示が出る。 有限公司と薬事部との関係も不思議な所がある。
 薬事部は有限公司から注文伝票を貰ってその品物が各商店に届く。この時薬事部が利益の25%を取り、有限公司が18%を取る。この様な巨額の独占利潤が取れることも不思議だが、その利益総体は何処へ流れていくのだろうか。
 この質問に「これは我々内部の問題であって、あなた方外部の人に明かす必要はありません」と、いとも簡単に質問を一蹴された。

 これら独占事業全体の目的は何か

 薬事部の責任者達の営業感覚は「奇怪公司」と言う感じだ。
”安安”と言う安全套メーカーの責任者陳伝龍の話によると、彼は98年薬事部に食い込んだ。その時のことを「私は本当に馬鹿だった。私は彼らも香港の商人と同じで仕納入金額が安ければ安いほど喜ぶと考えていた。ところが値段は高低どちらでも良く、ただ節目節目に賄賂を渡せばそれで良かったのです。それが解らずに私どもの商品は拒否されました」と言う。
 又ある上海では大手の商店主が教えてくれたが、「奥尼」と言う名の商品が現在中国では最も売れている。しかしそのブランドは上海には入れない。その理由は奥尼は定価が安い。1箱1元だ。上海ではこれより安い品物はない。それでは薬事部の気にくわない。
 また上海で1,2を争う大型販売店の話では、現在の政府の管理方法下では、市場での品質・価格の実力では無く、表現しにくい感情的なものが優先されている、と表現している。
 かっては上海の芦湾区で最も名が売れていた「傑士邦」を卸していた責任者はある時突然薬事部から、「君の商品を上海で卸してはいけない。もし命令に背いたら2年間閉店させる」と言われ、また「薬事部は約50種類のメーカー品を並べてその内これだけは売ってよろしい」と指示をして居ることだ。 
 同じように上海静安区では「杜蕾斯」の名前が見られない。
こうして「活色生香」「安安」等のメーカーは自己の店でしか展示できない。それでも薬事部から常に各種圧力を受けている。「安安」は北区の展示場から強制退去の命令を受けている。

家電販売と安全套の販売の違い

 こうして上海の薬事部は安全套の販売で暴利を得るようになった。
 「安安」のブランドを扱っているのは香港の商人である。この責任者はこの様な販売方法に対して、「ただ口をぽかんと開けて見ているだけ」と形容している。
このメーカーが初めに計画生産委員会と話し合ったとき「安安」の売価を16元と表現した。しかし計画生産委員会は「40元にしろ」と言う。その理由は「安い値段では何回も賄賂を出すことは出来ませんよ」とのことだった。
 上海ではどの商品でも同じような状態で「私達は薬事部に届けに行ったとき、いつも値段を決めるのは向こう側で、こちらが何も口にすることは出来ません」と言っている。
調査の結果薬事部の許可を得て販売されている安全套は、価格はどれも全て元の倍となっている。
 例えば、10元の安全套は小売値は20元となっている。この場合小売店が利益の20%を取り、市と区の薬事部が各25%の利益を上刎ねしている。当然この25%の部分は客が支払って居る。
 日本の商品の「富力士」(フリス)の場合日本では1ダース18元である。それが上海に来ると29元と跳ね上がる。本来なら国家による免税対象品として日本より低価格で売られるべきものである。
 「活色生香」の場合、82年から国内販売を始めている。「現在では安全套はまるで化粧品を売っているように低コスト高利潤の商品です。1台のテレビでもその利益は20元を超えないと聞いています。ところが安全套1ダースで20元の利益が出るのです。」
 有る輸入業者の話では、「輸入品の場合1ダース5元以下です。国産品は3元です。しかしここ上海では輸入品が20元から53元と跳ね上がっています。こんな暴利の商売は聞いたことがない」と言う。
 この典型的な例の一つが「安安」と「傑士邦」である。「安安」は自己の店でのみ販売許可が出ている商品。その売値は16元。傑士邦は30元である。
上海と広東とを比べると広東より10ないし15%高くなっている。

 上部には認められていない「1号文」

 上記のように薬事部の指示で巨大な暴利を得ている販売方法の指示文「1号文」は国家計画生産委員会の批准を得ていない。
 国家計画委の主任が記者に明かして言うには、96年に発せられた「1号文」はまだ最終の確認が出ていない、と言う。
 00年4/1日審議された「医療器械管理条例」の中で、高利益の出る安全套など第2医療器具は薬事部の管理とする、と決められた。衛生条件などが揃い許可証を得れば自由に販売が出来る。
 1/14日、上海薬事部の部長は記者に対して「96年上海市計画生産委員会の1号文は既に廃棄された。私達と国家と対立はしていない。私達は違法行為をしたことはない」と言う。
 しかしその話の少し前に、「良友スーパー」の商品部責任者紀金玲氏は次のような場を経験している。
 上海芦湾区薬事部長がこの責任者に対し「君たちは我々を無視して直接メーカーと取引することは禁じられている。新しい指示が出ない限りこの1号文はまだ有効である」と命令されたと言う。

 記者はこの原稿の締め切りが迫り、市の薬事部のホームページを見た。そこには「6つの指示」と言うのがあり、「薬事部は全市の商店に対し商品の安全と質を厳正に管理するため、メーカーが直接小売店に卸すことを厳禁する。安全套についてはその価格を市全域に渡り統一する。発布人 薬事部部長」となっている。
 上海市薬事管理政策所長は、「私達と薬事部とは考え方が違っている。計画委員会は市内での統一的管理を強調し、私達は商業性を重んじその許可証所持を義務づける事を目指している。医療器械の安全使用を守るため、必ずしも薬事部の管理に従う必要はなく、上海と全国とが矛盾していることはない。」と言う。
 ある薬品管理部の役員が指名を伏せることを条件に記者に話してくれた所によると「彼らは本当にどんなでたらめなことでも平気です」と言う。

 公権力の乱用 03/01/16 南方週末
 
 観点 遡栄(華東政法行政法学教授)

 これはしばしば見られる行政側のやり方である。典型的な行政による独占販売である。管理監督と経営とを混ぜこぜにし、声高に市場経済を叫びながらその実、正悪の判定と正道を推し進める役目を放棄し、反対に市場経済を破壊している。
計画生産委員会と薬事部とその関係の有限公司などの運営者が役割を混用し公権力を乱用し、市場を攪乱し、対立者が出ると徹底的に排撃する。このやり方は既に何度も厳禁の通達が出ている。
 以前電力公司が強制的に電力設備を購入させていた。電話公司がやはり電話機を強制的に購入させていた。これらは皆全て同じ現象である。現在消費者は正常な価格で安全套を購入することは出来ない。これは消費者の正当な権利の侵害である。
 薬事部は事業単位で、しかし利益を生み出すことを禁じられている。従ってこの記事のような行為は政府の目的に反している。
  
訳者注:
2000年春、私が大連にいたとき、大連には日本企業の団地のような所があり、そこで働く人達の意見を聞く機会がありました。
 誰もの話に共通しているのは「中国では法律通りに事業を進めていくことは出来ない。必ず党の顔を立て接待しそこで確認を取らなければ安心できない」と言っていました。
 ある時突然税金を10倍にするという党からの通達が出ることもある、と言うことでした。勿論10倍という数字は法律には表現されていません。党の発案です。(1980年代に入って民法や教育法や商法の基礎などの法律が作成されて行きます。それまでは全て党の直接、個人的管理。)
 その直後WHOに加入が認められたわけですが、恐らく外国企業は何処も法律通りではなく、党のご機嫌取りが絶対必要条件としていると思います。
 法律ではなく、このような党による支配が中国人にとって、50年間に渡って経済成長を押しとどめてきた根本原因であることは中国人自身がよく知っている体制問題です。経済だけでなく、人権を認めると言うことも、このために実現せず、21世紀を迎えてしまいました。
 WHO加盟には勿論プラスマイナスがありますが、しかし中国の発展にとってプラスの面は、中国が直接広い世界の人達と自由に取引できることだという考えは、この翻訳でも何回も出てきました。もし常に党に相談しているとしたら、現在の発展は無かったでしょう。今後もないでしょう。
 しかし現実には現在最も発展速度が速いと言われている上海でこの様な政府の、上からの支配が行われているのです。
 この支配が中国人にとって(ここでは消費者という表現になっていますが)大きな障害であり、損害を与えていることが説明されています。
 この記事では北京政府はこの様なやり方に原則反対しているように記されています。では96年よりもう6年も経っているのに何故改善されず放置されているのでしょうか。一つには中国には政府に反対意見を言う機構がないことが一つ。議会がないことが二つ。もう一つはこれが「独裁党」というものの性格ではないでしょうか。
 南方週末にこの記事を書かせていること自体、党の絶対権力を象徴しているように思います。