”平陸事件”の背景

    南方週末 03/07/03 馬闘全

 「過去の真実」李敬斎 著 の紹介

 現在50歳前後の人なら誰でもが「平陸事件」を知っている。61人の「階級の友」が中毒事件に襲われた。しかしその真実は当時は誰も知らなかった。本書は事件の真実とその後の経過をここに発表した。人々は誰も深い感銘をこの書から受けるだろう。

 張は反革命分子であり、毒を投げ入れ、社会主義を倒そうとした、として逮捕され、このように公にされた。
 しかしここに明らかにされたのは、彼は政府から動員された労働者で、仕事は真面目に働いていて班長に抜擢されていた。
 しかし時代は1959年の末で、例の「大躍進政策」の時であった。仕事は「大躍進」に相応しく猛烈な突っ込み精神が要求されていながら、しかし食べ物が無かった。毎日お腹がぐうぐう鳴っている日々だった。彼はついに立てなくなって、宿舎に寝ころんでいた。それが見つかり、批判大会が決行された。彼は頭を押さえつけられ、徹底的に批判された。敵階級、反革命分子、社会主義を倒そうとしている、等々である。又彼の言った言葉として「工事現場で何人かが死んでいるが、その人達はあの世でたらふく食っている」とか、「食堂の飯は不味い」「これでは病気になる」等と友達に漏らしたとされる。
 この批判大会に恨みを持った張は、副隊長の”同”氏に毒を盛ろうとした。しかしその機会が無く、ついに彼は食堂の釜の中に毒を入れ、天につばする大罪をしたのである。

 食事の毒に中った61人の中には、地主や富農の家庭の人もいた。しかしこの事件で全員が「階級の友」とされ、それに相応しい待遇に改善された。
 張以外の、これらの人について当時はあまり報道されなかったが、実は全員後遺症が残った。失明者、大脳を犯され痴呆になった人、胃ガンになって死んだ人、自殺した人、等々である。残った人達も結婚は出来なかった。
 一時はこの事件が地元で報道されたが、やがて、地元の党委員会は事件の報道を禁じた。新聞はそれに従って何も報道しなくなった。

翌1960年2月(旧暦)になって北京晩報がこの事件を報道した。その記事の書き方が「階級の友」と題するものだった。
 すると再び地元の新聞記者達も続々と報道を始めた。地元の記者達は「さすが北京の記者は偉い」等と語っていたと言う。 また青年報が「61人の階級の友を助けよう」と題して記事を書いたのが報道界に大きな影響を与えた。こうして50歳代以上の誰もがこの事件を知るようになった。
 ラジオで放送され、劇にもなった、映画にもなった。ただ政治的な理由で、この大躍進政策が左に偏った見方から正しいとされていたので、その傾向のまま全国の人に宣伝された。当時全国で餓死者累々とした事実は書かれなかった。
 当時この事件は敵階級と闘う優秀な中国人民の闘いとして称揚され、一層の社会主義建設意欲を盛り上げた。現地の山西省の党委員会副書記が自ら原稿を書き、全国にビラを貼って階級闘争の高揚を訴えたのは、当時としても異例なやり方であった。

訳者注:
 大躍進政策:「学校教科書に書かれた中国史」参照。鉄鋼増産を目指して農民に鉄釘拾いを奨励し、農業生産が停止し、4000万人を超す餓死者が出た。

 新中国建設後の30年間の階級闘争がいかなる内容だったのかを、これが明確に示しています。建国後の国民の全勢力を「敵階級殲滅」に充てることが最重要とされました。そして密告制度が奨励され、免罪事件が山と生まれました。
「自分を守るために、友達を裏切る」、これが現在の学生達が親から聞かされている当時の人間関係を象徴する言葉です。


 一体誰が淘汰されるべきか

  南方週末 03/07/03  劉洪波

  本当のことを言いたい

 一体誰が淘汰されるべきなのか、上の方なのか下の方なのか?
 聞くところによると外国には議会というものが有って、議員は必ず任期がある。再任は可能だがそれはあくまで再び選ばれると言うことだ。

「南方の窓」という月刊誌によると河南省焦作市の、姚秀栄という女性は長年労働模範生として表彰されてきた人。10年前全国人民大会の委員に選ばれた。
 ただ最初の3年間は、代表というものが何をするべきかわからず、他の代表委員達と同じように、ただ黙って議会に出席するだけだった。言われたとおり手を挙げ、唖者の様に黙っていた。
その後本当は行政を管理すること、”民のため”に働くことであると理解するようになった。そして彼女が人民大会の数人の議員達と正義の動きを始めた。そして何人かがその影響を受けて解任されたり、あるいは恨みを抱かれるようになった。
結果としてそれまでの聾唖者から発言の数において中国一の提案者となった。そしてこれこそ本当の議員のあり方だと自認するようになった03年、彼女は議員から外された。
地元の推薦や選挙のあり方において、これまでのやり方から見ても少し異常が感じられている。優秀な代表が落とされ、聾唖者に徹する人が何故選ばれるのか。
 これらの疑問を持つことは、まるで天に向かって聞いているようなもので、全くどこからも返答が帰ってこない。ただはっきりと解っていることは、上に飛び出る者は叩かれる、と言うことだろうか。
 一体本来淘汰されるべきは誰なのか、上に出るものなのか、下に居て大人しくしている者なのか。一体誰が淘汰する権限を持っているのか。

訳者注:
この週の南方週末には、全体の記事の3分の1ほどが「収容所」関係のものです。
 6/18日、天をひっくり返すような政府の発表「収容所法律改正」があり、それを賛美するものばかりが並んでいます。
 これまでにない、素早い対応だと書かれています。82年に収容所関係の法律が出来、その後5度改正されていますが、今回は根本的なものだと評価されています。
 こんなに南方週末が政策を評価しているのは初めてのような気がします。
 しかし、枝葉末節ばかり評価している記事に思えて翻訳する気が出ません。
 今後本当に一般国民が安心できるものに変わるのか、記事を読むだけでは解りません。
 先ず国民が何故居住証を常時携帯しなければならないのか、農民が何故移動してはいけないのか、そこの国民としての基本的人権と権利を明確に法律で規定しない限り、国民は安心できないのではないでしょうか。
 中国の法律では、この基本的人権と党の存在意義が両立できないと言うことを意味しているのでしょう。
「党は遅れた人民を人類解放の理想社会へ指導する」、ことが憲法に書かれています。そのためには党は常に人民の上部に立たなければなりません。こうしてこれまでの「社会主義国家」は人権について、世界から蔑視されてきました。

 強引に逮捕拘留して、各人から10元取ることは、この地球上のどこの国から見ても笑われるのではないでしょうか。ましてや、農民の善良性を知りながら、800元も取るというのは、全く世界の良識からは理解できない悪政の典型例です。
 即座に中国政府が倒壊しても中国の農民は勿論、地球上の人全てが拍手を送るでしょう。

 もう一つ重要と思われる記事があります。 6/13日、中央政府は金融市場の加熱を防ぐため土地の売買を当面禁止するというものです。
この法律が出来ると土地不動産業の半分が倒産するとか書かれています。
 現在中国の土地の売買総額は18357億元で、銀行取引総額の17.6%を占めています。つまり銀行経営の6分の1が土地取引であり、その営業分野が消えてしまう。
北京だけでも土地取引企業は5000店有る。これらが営業出来なくなる。

 これを訳すには中国の土地の扱いについて理解していないと出来ません。
 今中国では巨大な政治腐敗が進んでいますが、それら全ての根本は国有財産の土地を党幹部が私有化する中で発生していると、今読んでいる本「中国現代化の落とし穴。噴火口上の中国」(草思社)に書かれています。つまり今後の中国の存続か倒産かの分かれ道がここに関係しています。北京市内の土地の値段がアメリカやヨーロッパよりも高いと書かれています。おそらく日本の多くの企業もこの記事を懸命に分析しているでしょう。
 そもそも何故このような法律が必要になったか。
 残念ながら私には今は訳せません。
もし必要な方は、原文を送りましょう。