政府幹部も街にでる
02/06/08 南方週末 

 昨年の初めから江蘇省のシュウ陽県では、1/3の幹部が命令により街へ出て商売を始めた。
 ただ一般の商売人との違いは、現在も局長や村長などの名前・肩書きのままで、毎月の収入は保障されている。そこで街の人達は彼等を「官商」と呼んでいる。
 
 北京駐在記者 登科

 昨年初めから街の人達の驚いたことに、見慣れない顔が突然増えたことで、多くはホテルで働き、その実、局長とか村長とか部長とか名乗り有って商売をしていることだ。
彼等の名詞もそのまま以前のものと現在の仕事と両記されている。

 彼等が何故突然街に溢れるほど現れ、働きだしたのか。
 彼等は再び元の職場に戻ることが出来るが、全力で自分の稼ぎを得るように命令されているという。では何故彼等の高級が保障されているのか。
 規則によると、国家公務員は「商売などの利益に関係するものに手を出してはいけないこと」となっている。このことに彼等幹部は全く無関心のようだ。現在彼等の関心は売り上げと利益のみである。しかも売り上げと利益の成績が幹部の能力として評価されるという。 
 「官商」については政府の了解を得て、合法とされ、しかも政府が奨励しているという。一般には幹部が(陰で)儲けていることが噂されてきたが、今では公然とした形となって現れている。
 
 1000名以上の幹部が「下海」
 (下海とは手当付きの解雇)
 
 幹部が率先して”営業を”というこの動きは、当県が懸命に推し進めているものだ。
 世間ではこのことを、「幹部商売臨時体験」と称している。
 昨年初め、毎年3分の1の幹部が送り出されることに決まった。市場に出て何かの商売を始める。
 期間は1年で、その後は現職復帰が約束されている。
 しかしこれが大きな反響を呼んでいる。現存の法規との関係と、彼等幹部の将来性が問題とのこと。有る幹部は「我々は、これらの活動の真の目的が何処にあるのか、誰もが不安になって心配している」と言う。
 具体的には、トップが機構縮小を目論んでいるのではないかと言うことと、いつか「街へ出て」その後戻るところが無くなっているのでは、と言う心配だ。
政府部内にはこの計画を進めるための担当室を設置した。そこは定期にニュースを流して、現状の紹介と幹部の成績などが書かれている。
 「2002年当県党政府機構内幹部街頭放出計画」が規定している。
 ”毎月の収入については、その成績を査定し、任務を達成している者には全額を、満たない者には、減額をする。成績の悪い者、積極性の見られない者には、厳しく批評を行い、将来の登用を見直し、または幹部の肩書き取り消しを行う。”

 政府のトップの音頭取りにより、各種の領域に渡る1000名を超す幹部達が、営業活動を請け負う。
 さて、この活動中は「局長」という肩書きを使い、また街では「社長」と呼ばれる。
 役所に登庁する必要がないが公務員としての福利待遇を受ける権利はある。同時に街では毎日「お金」を数えることになる。
 一般幹部達が心配している様な、「街へ出ること、すなわち退職」という心配はない。が、では本当の目的は何か。

 苦しんで初めての意識変革

 政府の説明によると、党機構とその人材を加速的に鍛錬し、経済面と管理面において、市場経済に対応できることを目指し、強烈な雰囲気を作る中でそれを実現したい、とのこと。
 有る計画推進担当者の話によると、窮すれば通ず、でこの「奇策」が生まれた。この土地は全省では最下位の経済・財政・都市化の状態である。
 2001年度の個人GDPは他の諸都市の約半分。チベットのGDPをやや上回る程度。江蘇省全体の経済力が今迅速に発展しているのに比べ現状は黙っては見ていられない。

 担当者が内緒で教えてくれたところによると、個人経営の「自主的」観念が生まれてくれば良いのだが、現在はその傾向は全くない。上が唱えて初めて下が動く、と言うことでは、いつまで経っても、最下位から這い上がれないだろう、とのこと。
 そこで現状打開に何とか良策はないかと手探りの内、考え出されたのが、この「街へ出て働く」と言う奇策。政府機構には人材としては優秀な者が集められている。そこで一般市場に出て庶民の生活から創造的なものを汲み取って帰ってくれば、経済発展のための新しい良策が生まれるかもしれない。
 又この奇策には次の3つの良い面があるという。1は幹部が経済活動の中で鍛錬され、経済と管理について会得する。2は街の中に出ることによって嘗める辛苦などの精神的なものが、職場復帰後今までとは仕事への作風を変化させるのではないか。3は経済活動のそのものの価値を認識して、これまでの”官本位”な考え方に気づくのではないか。

 この策が実行されて数ヶ月が経ったとき、幹部達の考え・態度に変化は全く現れなかった。関係情報誌は「トップが期待した改善は何も現れなかった。特に創造的な精神については駄目」と記している。
 街へ出された有る幹部は、その気持ちを、「何故こんな大がかりな策が必要なのかさっぱり解らない。実際街へ出れば与えられた任務の遂行に精一杯だ」と言う。

 実際問題として帰るところがあり、収入が保障されて、管理の身分に変わりなく、完全に市場に放り出されたわけではない。常に彼等は「自分は幹部であって、社長などではない」と公言する人が多い。
 そのような中で一部の人は、既存の企業に入りその会社の名刺を使い、そこで働く人が出てきた。そうすると新しくホテルを建てる必要はなく、費用の負担も軽く、特に当人の苦労が少ない。この方式を採る人が全体の34%に昇った。
 また、中には街へ出て何も冒険などする必要はないとばかりに、休暇を決め込む人もいる。有る村の書記は婦人と一緒に旅に出てしまった。又ある村長は子供を連れて旅に出、「毎日の飲み食いが楽しかった」という人もいる。
 これを聞いた幹部は烈火のごとく怒り、又思うようにいかないことを嘆いた。

 しかしこの運動が始まってあまり気づかれないがしかし面白い現象も出てきた。
 体験者の傾向は2つに別れた。副課長以上の幹部は「効率第一」を重視しており、それ以下の幹部は視野が狭くやることも小さく、効率が悪い、という傾向だ。
 位の上下で何故態度に差が現れるのか。上級幹部は管理能力があると言うことか。しかし当の一般幹部に言わせれば、「上級幹部は常に人間の繋がりを広くしたい指向が強く、メンツを重んじているからだ」と言う。
 したがってこれらの傾向は、市場経済を経験したからではなく、単に官の身分だけに関係しているのか。
 とにかく街の中に出れば、誰もが競争を意識して何かの態度表明を迫られていたのは事実のようだ。
 振り返ってみれば、当初この計画を実行するために、街へ出ている間地位や身分を不変に保障してきた。もしこの保障がなければ、彼等の態度はもっと真剣なものになっていただろう。幹部は街へ出ても職権を振りかざすことが多く、これでは市場経済というものを理解するには致命的な欠陥があったのだ。
 街の経営の中で、身分や立場を必要以上に誇張して使い、街の人々の苦労を学ぶ姿勢はあまり多くはなかったようだ。
 有る幹部は商品販売方面に籍を置いた。自分の公務員としての職権を利用して知り得た名簿を公開して商売に利用している。このような人は市場の本質を理解するのではなく、経済界で有効な名簿を活用することに主眼を置いて楽をしようとしていた。また公務員としての職権を使って、そこで知りうる名簿で商品を売りつけた。 
 例えば学校の出入り業者の名簿を利用して文房具を卸したり、ホテル関係の業者を多く知っていればそこへ「白酒」を売りつけたりした。 
 これらのやり方は「人間関係経済」とか「権力経済」と呼ばれている。したがって身分が高いと、利用できる名簿も多く、商売に使う方法はいろいろ出てくる。
 昨年街へ出た有る幹部は、何処のホテルも同じ銘柄の酒を置いているのを発見した。そこで店長に「この銘柄はそんなに上手いのかね」と尋ねてみると、店長が答えて、「とんでもない。この酒は我が村の書記が売りに来たから置いています。あの書記も今街へ出稼ぎに来ていますから」との答え。
 「書記が勧めるものを置かない店など無いでしょう」と言う。
その幹部は又政府関係の食堂を調べてみると、やはり何処も同じ酒が山と積んである。その酒で政府招待客は接待されているのだ。
 そのことについて他の幹部は恨めしそうに教えてくれた。
 「私も酒の販売に走り回りました。山を越えて足を棒にして、説得に喉を枯らして歩き回りました。ところがあの書記は電話1本で全てOKの快諾を得ています」

 有る匿名の、高級幹部が教えてくれたところによると、彼は家具工場に回された。「そこの責任者は私の言うことをよく聞く人で、私が一言言うと、何でも快く快諾してくれて、1年間の成績が一日で達成だ」とのこと。
 この幹部は「私はこの街にもう長年住んでいますよ。その長所を使わないで何を使うというの」と得意げだ。
 彼は生産されてくる椅子や机などを、自分が公務で知り得た人間関係を使って広く売りつけた。税務局に行き税率を下げさせた。「こんな芸当が他の人に出来るはずがないでしょう」と自慢している。
また「この街のほぼ全ての責任者は私の言うことを聞くでしょう」とのこと。

 当県はこの策を開始する前に、6つの基準を定めた。その中には、自己の職権を利用して成績を上げてはいけない。公的な会計に関することを私営企業に漏らしてはいけない。
行政上の特権を民間で使用してはいけない、等である。
 後には、街に出て不正行為をしてはいけない。工場に無理に商品を売りつけてはいけない。この2つが追加された。
 この規定は実際ほとんど守られていない。

 有る政府機構の職員が説明してくれたが、この策は根本的に欠陥政策だ、と言う。
 例えて、虎を山に放って走ってはいけない、吼えてはいけない、餌を食べてはいけない、と言っているようなもので、先ず実行不可能な策だ、と。
 彼は言う。「本当に幹部に経済を学ばせるのなら、広東とか浙江省などに送り出さなければ無理でしょう」

 「権力経済」策のマイナス面

 幹部が街に出没するようになって、次第にマイナス面が現れてきた。
李という職員が説明してくれた。
 「有る新設のホテルへ出向したのは某局副局長。その局に関する会合は全てそのホテルを使うようになった。それだけに止まらず、その局に関する工場や企業或いはとにかく少しでも局の業務に関係している人や団体は、一度はそこのホテルへ呼ばれた。またその局の職員達が当ホテルで飲食宿泊に使用した額だけでも数十万元以上に及んでいます」

 お陰で当地で営業する大きなホテルの経営者がすっかり落ち込んで言うには「昨年まで我がホテルの客数はかなり良く、商売は好調でした。ところが幹部がホテルを建設営業してからは、客足はさっぱり遠のいてしまった。我がホテルの食堂はとても人気があったのに、今ではそこも全く客が来ない。それもこれも全てあの高級幹部のお陰。それはそうでしょう。誰もメンツを尊重してこちらには来られないのです」

 昨年街へ出たある幹部数人は、共に環境保護局に居たので、共同で環境保護公司を設置した。そのメンバーの中には党書記と副局長が居た。1年間で扱った大きな仕事が4つ有った。そこで働く幹部が言うには、当社は同様他社と比べて圧倒的に仕事が来る、と言う。それもそのはず。官庁の検査は手続きも無し。逆に他の公司に頼めば、環境局は検査に「うん」と言ってくれないのだ。
例えその公司と局が「平等に扱います」と言っても、その言葉を誰が信じようか。

 こうして街の中ではいろいろな面で問題が出始めた。幹部が権利を振り回して営業を始めたため、既存の市場で活動する企業などが、平等な競争関係で仕事が出来なくなっていった。これは言い換えると彼等幹部が街へ出て市場経済を勉強すると、街の健全な市場経済が破壊されていくのだ。これを民間の人達は、「民の利益を奪いに来ている」と陰口を言っている。

 又新しく一般庶民の注意を集め始めたのは、彼等幹部が次のような問題意識を持ち始めたことだ。つまり、政府が市場に強制介入して新しい高等技術や当地での空白産業、新規投資企業育成などに手を出せば、危険も財政負担も少なく、人間関係は自由に出来、確実に利益を上げることが出来る、と目論んでいることだ。
実際有利な企業を見つけて、そこへ身を入れだした幹部もいるらしい。
 こうして1年以上経った現在、この「権力経済」「人間関係経済」なるものがもたらしたものは、ハッキリ言って「官本位」の観念の強固な支配ではないか。

 居残りの幹部も第二の職業を

 今年初めの2月、昨年街へ出た幹部は満期となって元の職場に戻り、新しい幹部1125名が選ばれた。同時に当県では少し工夫を凝らした方策を考えた。
 規則によると、職場に残っている人も、国家として禁止している職業以外で、何かの兼業を選び、選んだ職業に対し報酬を支払うという。
 選択した職業を届けた後、半日はそちらで働く、しかも本職は1時間早く切り上げても良い。
 この政策によると、「経営」に関して働く限り、その部署は何処でも良く、期限は無限となった。  
 当県党委員会の組織部長は、次のように指摘した。「簡単に言えば、国家規律に違反しない範囲で、どんなことをしても良く、全ての人が第2の職業を選んでやってみる」所に意義があるという。
 有る研究者はこれに対して疑問を呈し、「街へ出ている間、その幹部は本職をしないし、ましてそのやり方は”権力経済”などと言われている。その上公務をしている人までが兼職に精を出したら、公私の区別は一帯どうして付くのだろうか」とあきれている。
 又ある人は「これでは公務員のアルバイトの合法化と何処が違うのか」と嘆いている。 政府で働く人も、これまで幹部がこっそりと外で儲けることがあった。しかしこれからは堂々と昼間から儲けを追求することになる、という。
 この政策の味方をする人もいる。「市や県が懸命に儲けを考えているのは、誰もがもっと利益というものを真剣に考えることが目的ではないか。現在の雰囲気が続けば、やがて公務員という殻を抜け出て形が変わり、違う姿で将来を考えるようになるのでは」との意見だ。
 記者がこの県と市とで多くの方から意見を聞いたが、誰もが「街へ出ること」と「本職と兼業」のやり方に疑問を呈している。
昨年「街へ出た」有る幹部が記者に対して、「地球上、職場に出なくてアルバイトをして良いなどと言う国が何処に有りますか」と言う。
又ある人はハッキリと「腐敗」だと明言した。

 当局が発行する機関誌には「これらは時代に順応したもので、幹部を再教育することを庶民は積極的に支持している」と書いている。

 5/24、記者は当県委員会の事務所を訪れた。組織部の人達は記者に対し、「このことに関しては自分の考えがあっても口にすることは出来ません」との返事をくれた。「この件は現在まだ討議中」だそうだ。

 ここで注目すべきは、この政策は拡大しているとういうことだ。昨年末、人民大会常任委員会副主任が「街へ出る」組に選任された。これによって、選任範囲が広がり、さらに上級組織にまで及ぶ傾向にある。
 この副主任は、過去20年の担当は食料局で副長、局長にまで昇った。街での担当は「製粉工場」となった。
 少し以前のことだが、他の県でこの政策を実行したことがあった。そのとき記者は「大胆な創造性を」という標語を何度も何度も聞いたものだ。
 有る政府官員は、もしこの政策で当県が発展しなければ、もう他からは何時までも遅れた県に止まるでしょう、と期待している風ではあった。