お隣さん
  南方週末 01/11/15

 広州  路登紅

 有る友達が商売を初めて、我々を食事に誘ってくれた。食事後皆で何となく夜の街を散策に出かけ、あるキャバレーに入った。部屋に案内されて行くと、7・8人の少姐が現れた。どの娘も艶めかしく化粧している。我々に選べと言う。仲間の誰も喜々として品評を初めた。
 私も娘達の顔を追っていくと、なんと4番目の娘に覚えがあった。彼女は昔住んでいたところのお隣さんではないか。彼女の方も私をそれと理解したようだ。目の色が変わっている。少し不安な装いで向こうを向いて顔を隠している感じだ。
一体どうしてこんな所にいるのだろうか。彼女は家も立派で、彼女の夫と私は、かって同じ所で働いていた。彼等が結婚するとき、その祝いの席に呼ばれたものだ。
結婚後は工場付属の住宅に移っていった。そこも私の家のすぐ裏側にあった。
 それ以降はあまり出逢わなくなったが、それでもたまに会うと、親しく話したものだ。
やがて私は職場を変わって南に移った。あっという間に数年が経った。以前の家にはほとんど帰ったことがない。こんな所で偶然にも出逢うとは。
 で、私の仲間達は彼女を選ばなかったので彼女とその他3人の少姐は席を外した。私はあまり乗り気になれなかった。暫く皆で遊んで、支払いを済ませて、店を出た。
 店の外に出たとき、そこに彼女が待っていた。彼女は私を手招きして呼び止めた。彼女の案内で近くの小さな食堂に入った。勿論彼女が店に断って出てきたことが判っていたので、長居は出来ない。彼女の出番が待っている。
 彼女の言い訳が始まった。
かっての工場では経営が次第に下向きになり、夫の工場もどこかへ移転してしまった。それからの生活は大変だった。
 仕事を求めて南下した。しかし広州と言へど簡単には仕事が見つからなかった。自分を省みるに、まだ年は若い、姿もそう悪くもない、と考えた。で、遂にキャバレーに勤めることになった。唯その先の話は、私には以外だった。
彼女は毎月家に300から500元ほど送金している。唯、彼女の夫にはどんな仕事をしているかは話していないと言う。夫には玩具の工場で働いていると話してあるとのことだ。そこでほんの少し送金していて、あまり金額が増えると、きっと夫の疑いが始まるだろうとの心配からである。彼女の夫は、こんな所に出入りしたことのない男性。もし本当のことが知れたら、夫が何をしでかすか判らない。
 彼女の気持ちでは、少し金がたまったら帰省して小さなお店を始めたい、と言う。そうして良き妻に戻って子供の世話もして。その貯まったお金については、宝くじを買って当たったと説明するつもりである。そして今度は夫が出稼ぎに出かけることが出来るだろうと。
 ここまで聞いて私は彼女が何故このような説明を初めたかが解った。
 彼女は私が故郷に帰って言いふらすのではないかと心配しているのだ。
私は既に以前の工場とは何の関係もない。しかし故郷には両親と家族が待っている。私は勿論彼女の心配が解った。彼女に心配しないよう話して二人は別れた。

 時間はあっという間に過ぎて、しばらくの後、私は故郷へ帰った。そして又偶然に彼女の夫に出逢った。彼は私が南へ出稼ぎに行っていることを知っていた。そして懐かしそうにしてくれた。彼は向こうの広州で妻が働いていることを説明して、こりゃ奇遇だ、と言って強引に私を酒場へ連れて行った。
 酒を飲むのももどかしく、彼は妻のことを語りだした。
 彼は妻が金を送ってこないのを恨んでいるようだった。
「どうも必死になって働いているらしいが、その割に送ってくる金は少しでね。それに、、、。」
 彼は目を細めて、
「あんな玩具の工場などで苦労して働いても、本当に知れているものだ。女としてなら、何処かで夜の商売でもしてくれた方が。
 お金というのは多いほど結構なもので。世間でなんと言おうが、衣食に掛かるお金は、無慈悲に出ていくものだ。
 実際あの南方にまで行けば、どんな仕事をしてもここらで判るわけは無し」
 「でも私から妻にこんな事を言うのも何だし、彼女はその辺に気が付かないのかな。えい、気が利かない奴め」彼はここまで言ってため息をついた。
 「ええい」私もただ彼の話を聞いてため息を付くばかりだった