「かまぼこ 」
    
大杉 涼

瀬戸物売りのテントでかまぼこを喰った事がある。

家の裏はちょうど建物の取り壊しのあとで、住宅密集地の中でその空間はポッカリと肺に開いた穴の様だった。

そこにまんまと瀬戸物売りが潜り込んでいたのだ。
しかし、当時は大人気であったバナナの叩き売りに押され気味で、商売の方はパッとしなかったようだ。
民衆の必需品である「ユタンポ」の売り上げだけで、喰いつなぐ毎日
そこへ土砂降りの雨の追い打ち
人生なんてこんなもんかね。
俺の人生もこんなもんだから俺に選択の余地はなかった。

雨を避ける。
ただ、それだけの、それだけのために、テントに駆け込んだ・・・。

テントの中はひんやりとしていて空気の分子構造がよく理解できた。
かまぼこの山もあった。

  「雨、すごいよな・・・。」

かまぼこの奥で瀬戸物屋が心配そうにこちらを見ている。
無理も無い。
外は深緑の雨が殺意をみなぎらせている。

  「かまぼこ、喰えよ・・・。」

むき出しの地面では手足の無い野良犬が無限ループのジレンマにもがいていたが、俺はかまぼこを喰った。

一瞬、世界中が息を飲んだ。
瀬戸物屋は満足そうに笑っていた。

テントの屋根からしたたり落ちる無数の水滴が蛍のように輝いていた。
俺はびっくりしてテントの外に飛び出した。
無数の、無数の、無数の蛍が

空から
地面へ

果てしなく吸い込まれていた。

そんなわけで俺は雨がふる度、冷蔵庫を開けてかまぼこを捜してしまうのです。

時代は、変わっても・・・・・。

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