ときをみるひと

1987年ー1989年
乾漆
52×23×26cm

日芸を卒業したあと、研究生で2年残った。
昼間は主に石彫。夜は首などの塑造をつくっていた。研究2年の初め、塑造でつくった首を乾漆にした。友人が、芸大の保存修復に行っていて、そこにいって教えてもらった。別段特別に乾漆にこだわっていたわけではなく、塑造で作った作品を石膏でない実材にしてみたかったのだ。
乾漆におこした直後は、別段どうこうなかったのだが、手直ししたり研いたりしているとなんかとても自分にとっていい材質感に感じられるようになってきた。石を彫っていて、いいのだけれどなんか自分のいいたいことより強くなりすぎる。乾漆はなんかちょうどいい強さに思えた。付けたり取ったり出来る、とことん自分の思った形に出来る塑造というものも、もっとやりたかった。
大学を出たら、乾漆を続けてやろうと思い始めた。


ときをみるひと




2022年 藤沢市展に出品しました。その時の写真とfacebookに書いた文章です。


藤沢市展は藤沢市民ギャラリーで発表していなければ出品してもよいようなので、過去の作品をそろそろメンテナンスしておきたい思いもありまいした。

作品を造った頃の話です。
原型は塑造で、数人で友人が頼んだ女性の首を大学の研究生の頃作りました。大学3年生の頃から塑造と石彫をやっていました。研究生になってからは石彫がメインになり、機会があれば首などの塑造も作りました。
だからその時点では乾漆にするために作ったわけではありません。そしてこの塑造はモデルを置いて作った最後の作品です。その後は彫刻のための素描などで人を描かせてもらうことはありますが、モデルを見ながら制作することはありません。
石彫をするようになって、モデルを使わなくても作れるようになりました。そのほうが作りやすいのかも。
大学の3,4年のモデル実習でもモデルさんが来る前に結構時間をかけて作りモデルさんがいる時はおかしなところを壊すみたいなサイクルになっていました。モデルさんって揺れるものだからそれを作るって難しいでしょ。

それで乾漆を始めるきっかけですが、東京芸大の保存修復科で学部の学生を対象に乾漆講座みたいなものをやっていて、他校の頼めば参加できました。石膏の外型に貼っていく方法なので丁度首を作った型があったのもきっかけになったのかな。
それで試しにやってみようかなという軽いのりで。ただ学生を対象に乾漆講座はもうなくなっていて、その時保存修復科にいた友人の松下昌子さんが許可をもらって保存修復科の教室で個人的に教えてくれることになりました。だから松下さんは師匠です。残念ながら亡くなりましたが。

それでは前置きが長くなりましたが、石膏像に貼り込んでいく乾漆技法を簡単に説明したいと思います。

@ 石膏外型は乾かしておきます。ポリ取りなどと一緒です。石膏取りだと湿っていたほうが良いです。

A 離型剤はアルギン酸ナトリウムを使います。他でも良いと思いますが。前日から水につけておき当日温めてだまができないようにして使います。刷毛で全体に塗っていきます。これで薄い皮膜が出来ます。皮膜は時間が経つと浮いていくので、当日か翌日に錆漆の塗り込みをはじめます。

B 離型剤を塗った後、御徒町にある「漆の渡辺商店」に行って瀬〆漆400g、檜へら、麻布、赤砥の粉などを買いました。漆は勿論中国製。今の半額くらいだったと思います。

C 翌日、錆漆(錆漆)を作り、油彩の筆で型に厚めに塗っていきます。錆漆は水練りした赤砥の粉と瀬〆漆を混ぜて作ります。それを4層くらい重ねます。1日2回くらい出来るけれど、午後は日芸で石を彫るので4日くらい。大きな作品だともう少し重ねます。

D 次に麻布を錆漆で重ねていきます。3層くらい重ねます。

E そして首の石膏型には窓があるので、窓と本体を糊漆、小麦粉と瀬〆漆を混ぜたものを接着面に盛り二つの型を接着します。そしてゴムチューブなどで巻いて固定し数日おきます。

Fそして型を割って、表面に残った離型剤を洗い落し一応出来上がり。

その後また錆漆を付けたり削ったり磨いたりして仕上げていきます。
調度研究生を終えるお正月休みアパートで作業をしていて、これなら石彫とかと違い何処でもいつの時間でも出来て良いなと思いました。
また石彫をやっていて、だんだん上手になるにつけ、その存在感の強さに違和感みたいなみのを感じていたのですよね。石の彫刻は好きなのですが、自分が作るとなると実物の人よりとても強い感じがする。「君が死んでも私はずっと生きていくよ。」と言われている感じ。黒御影石を彫っていたので特に強かったのかもしれません。石彫続けたほうが売れたかもしrませんが。

その後沖縄に行って、日芸には日本画科が無かったのですが、日本画に使う岩絵の具の瓶に入ったピカピカの顔料を見て使いたくなり、顔料と膠で彩色を始めました。
首から下は磨いていない、型から出たそのままです。唇は生漆を塗っています。始めたばかりでいろいろ試してみたかったのですね。

改めて見るとその後の様式化されたものに比べてモデルを使ったリアリティのよなものや、彫刻の学生らしい形の強さを求める姿勢が見られて新鮮です。

来年もまた、とっても古い作品見せたいと思います。自分も見たいし。







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