私的CDベスト選


僕は約8年間、クラシック音楽を聴いてきました。集めたCDも今や200枚を越え、そろそろ収納スペースに困ってくるほどです。そんなCDのなかから、各曲について僕が勝手にベスト演奏を一枚選んでみることにしました。といっても、全ての曲についてやってると、きりがない上に一枚しかCDを持っていない曲なども当然あるわけで、かなり無駄なものが出てきてしまいます。そこで、4枚以上持っていることを条件にしようと思います。別に4という数字に愛着があるわけではありませんが・・・。それでは、早速始めさせていただきましょうか。

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
僕はベートーヴェンの交響曲のなかでは、第3、4、5、7番が特に好きなのですが、この「英雄」は最近まであまり好きではありませんでした。その僕が「英雄」を好きになったきっかけであり、今でも一番好きな演奏が、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル(ビクター VICC-40250)のもの。1968年の録音なのに何故かモノラルで、音はあまり(というより全く)良くないのだけど、ほかの演奏とはまるで格が違う。とにかく、響きが冷たく、鋭い。その特徴がよく表われているのが、第2楽章。どこか(シベリアかな?)へ連れ去られてしまいそうなほど。ちなみに、この曲のCDは他に、ブロムシュテット/ドレスデン国立管、E.クライバー/ウィーン・フィル、コンヴィチュニー/ドレスデン国立管、シェルヘン/ルガノ放管、ショルティ/ウィーン・フィル、ショルティ/シカゴ響、トスカニーニ/NBC響のものを持っています。

ベートーヴェン:交響曲第4番

目立たない曲ですが、結構いい曲なんですよ。僕が持っているのは、カラヤン/ベルリン・フィル、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル x2(1972年)、シェルヘン/ルガノ放管、トスカニーニ/NBC響のCDですが、ムラヴィンスキーのCDが文句なしに一番です。レニングラードとモスクワで録音したものがありますが、レニングラードでのもの(メロディア BVCX-4001)の方が音質がいいようです。このCDを聴いてびっくりするのは、弦、特に両サイドに配置されているヴァイオリンがピッタリとそろっていること。近代配置でヴァイオリンを左側に集めたとしても、なかなかここまではいかないものです。

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

有名すぎるほど有名な曲ですね。でも、それだけにCDもたくさん出ており、とても全部聴けそうにありません。この曲は、C.クライバー/ウィーン・フィル、マゼール/クリーヴランド管、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル x3(1949、72、74年)、ライナー/シカゴ響、シェルヘン/ルガノ放管、ショルティ/ウィーン・フィル、ショルティ/シカゴ響、と9種類のCDを持っていますが、その中でもムラヴィンスキーの1972年の演奏(メロディア BVCX-4029)は別格です。これは、最近発見された、ムラヴィンスキーの唯一のステレオ録音の「運命」で、恐ろしいまでに壮絶な演奏です。最初は何気なく、とてもそっけなく始まるのですが、だんだんと熱気を帯びてきて、それにティンパニの猛打が追い撃ちをかけます。特にフィナーレでは、普段のムラヴィンスキーにはみられない、強烈な情熱の放出があり、音質も当時のソビエトの録音の最高水準。何と貴重な録音でしょう。

ベートーヴェン:交響曲第7番

コンサートでやると非常に盛り上がる曲ですが、いい演奏なら一人で聴いてても盛り上がれるのでは?この曲のCDは、カラヤン/ベルリン・フィル、C.クライバー/ウィーン・フィル、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル x2(1958、64年)、ライナー/シカゴ響、シェルヘン/ルガノ放管、ショルティ/ウィーン・フィル、ショルティ/シカゴ響のものを持っているのですが、実は「これ!」というものがないのです。強いて言えば、ムラヴィンスキーの旧盤(メロディア BVCX-4011)でしょうか。演奏は大変すばらしいのですが、1958年のモノラルなので、音質がかなり悪く、第4楽章では「ボツッ」というノイズが入ったりします。でも、引き裂かれそうなくらい鋭い第2楽章での弦の響きなどはさすがです。

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

クリスマスには欠かせない曲ですね。CDもたくさん出てます。僕が持ってるのは、アバド/ベルリン・フィル、バーンスタイン/ウィーン・フィル、ライナー/シカゴ響、シェルヘン/ルガノ放管、ショルティ/シカゴ響 x2(1972、86年)、トスカニーニ/NBC響、ワルター/コロンビア響のCDですが、僕が一番好きなのは、シェルヘンの演奏(プラッツ PLCC-685/90)です。一言で言うと、変な演奏です。オケは乱れまくってるし、指揮者はどなったり、叫んだり、うなったり・・・。そのうえ、テンポはトスカニーニもびっくりの超特急。ふつうの「第9」に飽きてしまった人は、是非聴いてみてください。笑い転げるか、怒るか、それともあきれて何も言えなくなるか・・・。僕は笑い転げました。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」

僕はあまりピアノ曲を聴かないので、4枚CDを持っているピアノ曲はこれだけです。バックハウス、ギレリス、リヒテル、ゼルキンのCDを持っていますが、その中ではリヒテル盤(メロディア BVCX-4052)が特に好きです。理由は色々あるのですが、一番の理由は、「速いから」だったりします。

ブルックナー:交響曲第5番

この曲は、つい最近好きになったので、CDもヨッフム/コンセルトヘボウ、クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管、ショルティ/シカゴ響、スウィートナー/ベルリン国管、ヴァント/ベルリン・フィルの5枚だけしか持っていません。ヨッフム盤(独フィリップス 426 107-2)が柔軟かつダイナミックな名演です。ただ、ホルンが右側にあるのが、ちょっと残念。

ブルックナー:交響曲第7番

ブルックナーの出世作です。フィナーレが少し弱く、ぼくはあまり好きではありませんが、それでも第1、3楽章は良く聴きます。CDはカラヤン/ベルリン・フィル、マタチッチ/チェコ・フィル、ムラヴィンスキー/ソビエト国響、ショルティ/ウィーン・フィル、ショルティ/シカゴ響のものを持っていますが、最近購入したムラヴィンスキー盤(ロシアン・ディスク RD CD 10 911)が極限的な名演です。ムラヴィンスキーがレニングラード・フィル以外のオケを振った、珍しい演奏なのですが、その弦の音色はまるで無理やり引きずり出したかのようです。普段のソビエト国響なら絶対こんな音がするわけがないんです。第1楽章で聴こえてくるのは、音になった恐怖そのものと言えるでしょう。

ブルックナー:交響曲第8番

ブルックナーが完成させた、最後の交響曲です。僕が持っているのは、ヨッフム・ベルリン・フィル、ヨッフム/ドレスデン国立管、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル、シューリヒト/ウィーン・フィル、ショルティ/ウィーン・フィル、ショルティ/シカゴ響のCDですが、ベストと言えるものがなく、敢えて選ぶならヨッフム/ドレスデン盤(EMI TOCE-3175)でしょうか。ダイナミックな名演奏なのですが、録音がいまいち。彼がコンセルトヘボウを振ったものもあって、そちらは演奏も録音もいいという噂ですが、4、6、7番との組合わせで、ちょっと買いずらく、まだ聴いてませんが是非聴いてみたいです。

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

僕は、マーラーの交響曲の中でこの曲が一番好きですが、それは曲が好きと言うより、ショルティ/シカゴ響の演奏(英デッカ 425 040-2)が好きだからでしょう。とにかく、最初から最後まで圧倒的な迫力とスピードでこの長大な曲を一気に演奏しており、聴いている方にまで興奮が伝わってきます。この演奏のCDは国内盤(ロンドン POCL-5124)でも出ているのですが、輸入盤はリマスターされていて、さらに音質が向上しています。この曲のCDはほかに、バルビローリ/ニュー・フィルハーモニア管、バーンスタイン/ニューヨーク・フィル、バーンスタイン/ウィーン・フィル、セル/クリーヴランド管のものを持っています。

マーラー:交響曲第9番

マーラーが死への恐怖と戦いながら書いた曲です。前は第3楽章が好きで、ここばかり聴いていたのですが、最近はむしろ第1楽章のもの悲し気な雰囲気に惹かれます。CDは、バルシャイ/モスクワ放響、バーンスタイン/ニューヨーク・フィル、バーンスタイン/コンセルトヘボウ、カラヤン/ベルリン・フィル、ショルティ/ロンドン響、ショルティ/シカゴ響のものを持っていますが、ぼくはこの曲もショルティ/シカゴ響の演奏(英デッカ 410 012-2)が一番いいと思います。バーンスタインの演奏などももちろん良いのですが、指揮者が夢中になり過ぎてオケが崩壊しそうになっていたりして、ちょっといただけません。コンサートで一度だけ聴くのならともかく、CDで何度も聴く場合、そのようなミスはだんだん耳障りになってきます。その点、どんなことをしても全く崩れることのないシカゴ響のアンサンブルは、安心して聴くことができます。マーラーの交響曲のように複雑な曲は、アンサンブルが乱れるとさらに分かりにくくなってしまうのではないでしょうか。もちろん、演奏そのものもとても素晴らしいです。

メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」

前はこの曲の第4楽章が好きだったのですが、最近は「スコットランド」の方が好きかも知れません。ビシュコフ/ロンドン・フィル、クレンペラー/フィルハーモニア管、マゼール/ベルリン・フィル、ショルティ/シカゴ響、ショルティ/ウィーン・フィル、セル/クリーヴランド管、トスカニーニ/NBC響のCDを持っていますが、マゼール盤(独グラモフォン 413 150-2)が今のマゼールからは想像できない、物凄い演奏です。何と言っても第1楽章がすごい。あのトスカニーニと同タイムなんです。これは、1960年の録音で、まだカラヤンがいじくる前のベルリン・フィルがどれだけすごいオケだったのかが良く分かるとともに、若い頃のマゼールが天才と呼ばれた理由も分かる演奏です。

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

とても美しい曲ですが、僕はそれだけでは満足できません。そんな僕が好きなのは、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの演奏(レニングラードでのライヴ メロディア BVCX-4002)です。弦の冷たく鋭い響きには、この曲から他の演奏では得ることのできない、殆んど恐怖とも言えるような感情が感じられます。CDは他に、マゼール/クリーヴランド管、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル(モスクワでのライヴ)、ショルティ/ウィーン・フィルのものを持っています。ムラヴィンスキーがモスクワで振ったものは、金管がやや強すぎ、音質も劣るので、やはりレニングラードでのものの方が良いでしょう。

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

去年、さんざんハマリまくった曲です。CDも、アシュケナージ/ロイヤル・フィル、バーンスタイン/ニューヨーク・フィル、ハイティンク/コンセルトヘボウ、ヤンソンス/ウィーン・フィル、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルx2(1954、84年)、オーマンディ/フィラデルフィア管、プレヴィン/ロンドン響、ロジンスキー/ロイヤル・フィル、スクロヴァチェフスキー/ミネアポリス響、ショルティ/ウィーン・フィルと11種類も持っています。この中でベストを選ぶとなると、実はどの演奏にも完全に満足しているわけではないのですが、バーンスタイン盤(ソニー・クラシカル SRCR 9532)になるでしょうか。ちなみに、一時期第4楽章のもっとも速い演奏を探していたのですが、僕が持っている中ではロジンスキーの8分06秒が最速です。7分代はないのでしょうか?

ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」

この曲自体はそれほど好きではないのですが、満足のいくCDが見つからず、いまだにベストCDを探しています。曲は好きになれなくても、演奏は好きになれるCDがきっとあるはずというのが僕の信念なので・・・。この曲は、バルシャイ/ユンゲ・ドイチェ・フィル、バーンスタイン/ニューヨーク・フィル、ヤンソンス/レニングラード・フィル、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルのCDを持っているのですが、この中ではヤンソンスのCD(蘭EMI 0777 7 49494 2 2)が一番好きです。演奏だけならムラヴィンスキー盤の方が好きなのですが、1953年のモノラルで、あまりに音が悪く、聴きずらいです。ヤンソンス盤は非常に明快で、ムラヴィンスキーの弟子ということもあってか、ムラヴィンスキーの演奏に共通するものがあります。オケが古典配置なのもいいです。

ショスタコーヴィチ:交響曲第10番

この曲は、気が滅入っているときに第2楽章と第4楽章を聴いて元気になるのに使ったりしてます。CDは、カラヤン/ベルリン・フィル、コンドラシン/モスクワ・フィル、コンヴィチュニー/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルのものを持っていますが、何と言ってもムラヴィンスキー盤(ビクター VICC-40256)が一番でしょう。この緊張感と迫力は他の演奏ではちょっと得られません。オケが古典配置なので、両側のヴァイオリンに包囲されて、その間から管楽器の集中砲火を受けているような感じになります。

チャイコフスキー:交響曲第5番

最近、一番ハマっている曲ではないでしょうか。美しくももの悲しい曲です。ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルx2(1972、73年)、オーマンディ/フィラデルフィア管、ショルティ/シカゴ響のCDを持っていますが、最近発売された、ムラヴィンスキーの「幻のモスクワライヴ」(メロディア BVCX-4030)が至上の名演と言えるでしょう。レニングラードでのライヴよりも激しく、音質も良好です。

以上17曲について書いてみましたが、世の中にはまだまだたくさんのCDがあり、人によっては他の演奏がいいと思ったりすることでしょう、僕ももっと色々な曲を、色々な演奏で聴き、その都度自分がどの演奏のどこを、どんな理由で好きなのか、自分に問いかけていくことで、クラシック音楽の知識を増やし、視野を広げていきたいと思っています。

佐伯 享昭
東京大学
理科I類 2年

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