ダウナーノベルス@

牛丼ダウナー


夕日が沈むの心よ。
時給980円の仕事を六時間ほど我慢した後の、帰宅の心よ。
当然本日も駅前の牛丼。
嫌なんだよね、牛丼。
毎日の夕飯が牛丼だもんね。
いや、味に飽きたとかそういうことじゃなくって、
店員に顔覚えられてるの心よ。
店員ひとまわり回転したって話よ。つまりオレが一番の古株って事。
威張って自慢してもいいくらいだとは思うんだけど、そういう気分にはなりにくいね。
ストレートに「情けない」風味。
28歳アルバイトマン、スーツ一着も持ってない上に、夢も希望も持ってません的・情けない風味。
すべて事実だから、狂おしい風味。

「ん、並」
席に着くなり定番注文。
って、オレが言う前に並作り始めてる失礼なる女のコ店員、名札は「赤坂」。
「赤坂」が作った並を、「三笠」なる女のコ店員がオレの目の前へ差し出す。
「ん、並」と発声してからわずか三秒。
そりゃ周りで食ってる客どもも一瞬目を見張るってもんだ。
許しがたい「決め付け・オブ・並マン」だけど、赤坂も三笠も可愛いから許す。断じて許しちゃう。

実際、うまいわけよ。
肉と御飯をグシャグシャッとかき混ぜて、その後コレ、紅しょうがを山盛るわけよ。
そして、ほおばる。
ホラうまい。
いや、目が飛び出るほどウマイとはさすがに思わなくなったけど、
もう飽き飽きして見たくもないよトニー、とまでは感じないってこと。
要は、腹が満たされればいいって心。

ブルッた!
尻がブルッた、つまり携帯。
取り出して、会話開始。
オレ「ん」
(同席の客ども六人、一斉にこちらを注目。オレ、シカト)
先方「オス(女の声)」
オレ「(ダレだコイツ)おう、元気? なにせオレ牛丼食し中」
先方「美味しいの、ソレ(口癖)」
オレ「(口癖で判明)おお、麗しの麗子嬢、牛丼並盛りがうまいわけがない」
(同席の客ども及び店員、一斉にこちらを注目。オレ、ニヤリ)
麗子「ダメジャン」
オレ「ああ、そうとも言う」
麗子「じゃあ、いいや」
オレ「え、いいの?」
麗子「だって、牛丼野郎は金がないでしょ? 私ら今から六本木行くわけ。貧乏・オブ・あんたは残念、エロイ事もオアズケ」
オレ「そうなる?」
麗子「そうなる」
オレ「じゃあしょうがないの心」
麗子「じゃあねの心」
オレ「その心」

電話切るオレ、すなわちダウナー。
並盛り食いきって「うまかった」なるオレの心もまたダウナー。
「ダウナーなオレの値段はいくら?」
「280円です」
店員三笠の事務口調もまた……。
しつこいオレ、すなわちオッサン化の心。
あえて繰り返そうダウナー。

 おしまい


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