02.07.22
羽蟻と始発待ち




海の日。休日出社の上に、残業、そして終電越え。終了が午前三時前。
タクシーで帰ろうにも持ち合わせが無い。
始発まで会社で寝ていようかと思ったが、せっかく深夜の六本木。
ちょっと街でもふらついて、時間を潰そうかと思った。

ドンキホーテが開いていたので、ゲーム売り場で外人の子に混ざってタダゲーム。
喫茶店に入ろうかと思ったら、黒人兄さんに思いっきりガンとばされ、断念。
六本木交差点で、「マサージ30フン3000エン、ヤスクテアンシンヨー」の集団に追跡され、マジダッシュ。

結局巧く時間を潰す事もできず、
四時すぎには、南北線六本木一丁目の駅前歩道橋に座り込んだ。
この駅は、オフィスビルに囲まれているので、人通りもほとんどない。落ち着く。
暑い。こんなことなら、会社で寝てればよかった。
と後悔しながらも、しかたがない、椎名誠の『銀座のカラス』をリュックから取り出して、
読み始めた。
歩道橋の明かりに誘われた羽蟻が、今度は私の本の白さを気に入ったのか、
次々と舞い降りてくる。はじめのうちは、可愛い奴だ、なんて人差し指で遊んでいたが、
ふっと頭を振ったら、髪の毛からボロボロッと羽蟻落ちること七、八匹。
これはホラーだと震え上がり、その場を退散。
駅のシャッターに背中を預けて座り、ちょっと眠る事にした。

空が白み始めると、セミがジワジワ鳴き始めた。

シャッターが開く二分前頃から、わらわら始発待ちの人間が集まってきて、ちょっとゾンビ風。

ひたいで粒になった汗を拭こうと、ハンドタオルをリュックから取り出したら、
羽蟻が二匹ひっついていた。ホラーだと思ったが、眠いので、震え上がりもしなかった。




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