02.04.01
クロスファイアより抜粋




なに不自由ない育ち方をして、豊かで満ち足りている自分。
しかし、その豊かさを享受しているのは自分だけじゃない。
隣のあいつも、後ろのこいつも、みんな同じだ。
だけどこんなに満足している自分は、きっと何か特別の存在であるはずで、
きっと隣のこいつや後ろのあいつとは違う存在であるはずで、
そうでなければならないはずで……。

それなのに、その「違い」が見つからない。
飽食によって純粋培養された「強力な自尊心」だけが、
まるで水栽培の球根のように無色透明な虚無の中央にぽっかりと浮かんでいるだけで、
それを包んでいるはずの「自分」には色も形も無い。存在感さえ無いのだ。

それでも、日々の暮らしには困ることは無い。遊びは、浪費は、楽しくてたまらない。
だからいつもは忘れていることができる。自分には「自尊心」しかないことを。
そして彼らの「自尊心」は豊富な栄養を吸ってどんどん根っこを伸ばし、野放図に成長し、
やがて身動きが取れなくなる。



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