06.11.12
モラル&マナー



電車の中での話。
車内はそこそこ混んでいる。私は座っている。
ある駅で、おじいさんが乗ってきて、私の前に立った。
ぬっと顔を近づけ、眉間にしわを寄せながらこう話しかけてきた。
「オイ」。
「はい?」と私は答える。何が言いたいのか判らなかった。
さらにじいさんは「オイ!」と重ねてくる。私は「はい?」と聞き返すしかない。
その時、隣の男性が立ち上がった。
「おじいさん、席どうぞ」
それを聞いて、やっと合点がいった。なるほど、じいさんは私に席を譲れと言っていたのか。
そんなことも気がつかなかった自分を、ちょっと恥じた。
しかしじいさん、その男性の好意を断った。
「いや、あなたの席はいらない。私はこの人に、席を譲って欲しいのだ」
なんと! 私一点狙いなのか!!
恥じた心はどこへやら、急速にイラッときた私は、周りにも聞こえる声でこう言ってやった。
「あなたみないな人には、わたしの身障者手帳を見せないといけないわけですか? そもそも、そんなに座りたいのなら優先席に行きなさい。そしてよく覚えておきなさい、あなたは若者に教育しているつもりでいい気分なのだろうが、若者にだって、一見して判らない様々な事情があるのですよ」
そういうと、じいさんはしばらく黙った後、隣の車両へと移動していった。
私は私で、身障者というウソを吐いたことに罪悪感を感じつつ、
目的の駅まで周りから奇異の目で見られ続けなければならなかった。


数日後、別の電車で。
優先席に座る、二人の女子高生。
ギャタギャタ騒ぎながら、携帯メールを打っている。
じいさんが、その女子高生の隣に座った。
じいさん、しばらく女子高生をにらみつけた後に、大声で注意した。
「おまえら、優先席で携帯電話使っちゃダメだ!」
すると女子高生、なんとこんな返しを。
「てめえ、ペースメーカーつけてんのかよ!」
じいさんあんぐり。私を含めた周りの人、みんなあんぐり。
「なんだよ、ペースメーカーつけてねえんなら、携帯大丈夫じゃんかよ」
そして、女子高生たちは平然と携帯いじりを続けた。
私は、女子高生の屁理屈に、妙に感心していた。
優先席での携帯マナーは、ペースメーカー誤作動という理由がつけられているわけで。
ペースメーカー付けていなければ、携帯控える理由は無くなる、とも言えるわけで。

いや、こんなことで納得していちゃいかんわけだが。女子高生は明らかに「悪」なわけだし。
けど、マナーとかモラルって、押しつけられると腹立つものだし、
「ペースメーカー誤作動」みたいな妙な理由がついたマナーは、なんか受け入れがたいものでもある。


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