『シンガーラへの教え』(3)

 この経典の特色は、一般の人々(在家)の生活規範を説いているというところです。種々の人間関係において守るべき徳目が、具体的に述べられ、実生活の指針を示すものとして、道徳心の欠如が懸念される現代、ぜひとも、多くの人に読んでいただきたい経典であります。

 釈尊は、先ずもって、〔1〕殺生と〔2〕盗みと〔3〕虚言といわれるものと〔4〕他人の妻に近づくこととを戒めておられます。そして、〔1〕貪欲と〔2〕怒りと〔3〕恐怖と〔4〕愚迷とによって法を犯す者は、名声が減退する。さらに、〔1〕酒類など怠惰の原因に熱中すること〔2〕時ならぬのに街路を遊歩することに熱中する〔3〕〔祭礼舞踊など〕見せものの集会に熱中する〔4〕賭博という遊惰の原因に熱中する〔5〕悪友になじむ〔6〕怠惰にふける、これらは財を散ずる門戸であると戒められています。

 財産については、四分の一はみずから享受し、四分の二の財をもって〔農耕・商業などの〕仕事を営み、また〔残りの〕四分の一は蓄積し、窮乏の備えとするよう勧められておられます。

 以下は、先々回の「父母は東方である」、先回の「師は南方である」「夫妻は西方である」の続きであります。

◎北方 友人・朋輩関係

 実に、良家の子は次の五つのしかたで、北方に相当する友人・朋輩に奉仕する。すなわち、〔1〕施与と、〔2〕親しみあるやさしいことば(愛語)と、〔3〕人のためにつくすこと(利行)と、〔4〕協同することと、〔5〕欺かないこととによってである。これらの五つのしかたによって、良家の子は、北方に相当するに友人・朋輩に対して奉仕する。

 また友人・朋輩はこれらの五つのしかたによって、良家の子を愛する。すなわち、〔1〕かれが無気力なときに、まもってくれる。〔2〕無気力なときに、その財産をまもってくれる。〔3〕恐れおののいているときに、庇護者になってくれる。〔4〕逆境に陥ってもかれを捨てない。〔5〕かれののちの子孫をも尊重する。

 実に、これらの五つのしかたによって、良家の子は、北方に相当する友人・朋輩に奉仕する。また友人・朋輩はこれらの五つのしかたによって良家の子を愛する。このようにして、かれの北方は護られ、安全であり、心配がない。

    ……………………

 ただ、釈尊は、友人について、「〔1〕何でも取ってゆく友〔2〕ことばだけの友〔3〕甘言を語る友〔4〕遊蕩の仲間、これら四つは敵であると賢者は知って、かれらを遠く避けるがよい。あたかも恐ろしい道を避けるように」と述べられています。

◎下方 主人と使用人の関係

 実に、主人は次の五つのしかたで、下方に相当する奴僕・傭人に奉仕しなければならぬ。すなわち、〔1〕その能力に応じて仕事をあてがう、〔2〕食物と給料とを給与する、〔3〕病時に看病する。〔4〕すばらしい珍味の料理をわかち与える、〔5〕適当なときに休息させることによってである。

 実に、これらの五つのしかたによって主人は、下方に相当する奴僕・傭人に対して奉仕するのである。

 また奴僕・傭人は次の五つのしかたで主人を愛さねばならぬ。すなわち、かれらは〔1〕〔主人よりも〕朝早く起き、〔2〕のちに寝に就き、〔3〕与えられたもののみを受け、〔4〕その仕事をよく為し、〔5〕〔主人の〕名誉と称賛とを吹聴する。実にこれら五つのしかたによって、立派な主人は、下方に相当する奴僕・傭人に奉仕する。また奴僕・傭人はこれら五つのしかたによって立派な主人を愛するのである。このようにしてかれの下方は護られ、安全で、心配がない。

    ……………………

 今日の社会では、上司と部下の関係と考えてもよいかと思います。立場上、上下の関係はお互いが認めた上で、人間同士という心の触れ合いを忘れてはならないということでしょう。主人・上司から、病時に看病してもらい、珍味の料理をいただいたら、もう、たまらないでしょう。

◎上方 世俗人と修行者の関係

 実に、良家の子は次の五つのことがらによって、上方に相当する修行者とバラモンとに奉仕すべきである。〔1〕親切な身体の行為、〔2〕親切な口の行為(ことば)、〔3〕親切な心の行為(思い)、〔4〕門戸を閉ざさぬこと、〔5〕財物を給与することによってである。

 実にこれら五つのしかたによって、良家の子は、上方に相当する修行者とバラモンとに奉仕するのである。また、修行者とバラモンとは次の六つのしかたによって良家の子をば愛するのである。

 すなわち、〔1〕悪から遠ざからしめ、〔2〕善に入らしめ、〔3〕善い心をもって愛し、〔4〕いまだ聞かないことを聞かしめ、〔5〕すでに聞いたことがらを純正ならしめ、〔6〕天への道を説き示す。実にこれら五つのしかたによって、上方に相当する修行者とバラモンとは良家の子によって奉仕され、また修行者とバラモンとはこれらの六つのしかたによって良家の子を愛するのである。このようにしてかれの上方は護られ、安全であり、心配がない。

    ……………………

 最後に、釈尊は、「施与、親愛のことばを語ること、この世で人のためにつくすこと、あれこれの事柄について適当に協同すること、この四つが世の中における愛護であり、賢者は実践せねばならない」と結ばれています。
  
(2007/10/18)