タケノコ

 先日、今掘ってきたばかりだというタケノコを、檀家の方が届けて下さいました。あいにく糠がなかったので、お米で代用し、唐辛子を加え、大鍋で茹でて、さっそく、刺身、吸い物でいただきました。そのおいしさは、まさに旬の味、この時季一番の幸せを満喫させていただきました。

 私が、学生の頃二年間、京都府乙訓郡長岡町(現在は長岡京市)というところに住んでいました。この地域は、畑としての竹林がたくさんあるところです。それは、景観としても実にすばらしく、そんな山道を歩いていますと、かぐや姫がひょっこり出てくるのではないかと思わせてくれるほどです。実際、映画のロケにもよく使われているようで、私も、時代劇のロケに遭遇したことがあります。

 こちらの農家の方々は、藁を敷き詰めて、ふかふかの土を作り、柔らかいタケノコを育てるために、それはそれは、手をしっかりかけて竹林を守っておられます。

 私は、学校から、そんな竹林の山道を歩いて三十分ほどのところのお寺に下宿をさせていただいていました。それで、この時季になりますと、お庫裏さんが、掘りたてのタケノコを炊いて、よく出してくださいました。

 この地域のタケノコは、とにかくでかい、大きいのです。そして、柔らかいのです。地元の方から、よく聞かされました。「穂先が好きだなんていうのは田舎もんだ。根元に近い方こそ旨いんだ」と。

 ただ、当時、まだ私は若かったので、そんなにおいしいとは思えなかったのであります。しかも、この地域の方は、一時に採れるタケノコを、保存用にと、家庭で瓶詰にされるのです。それが、食卓に年中出てきますので、慣れっこになってしまったせいもあると思います。

 それが、あれから四十年、この頃では、そのタケノコが、妙に懐かしく思い出されるのであります。そこへもって、この度、掘りたてタケノコを頂戴したものですから、格別おいしくいただいたというわけです。

 長岡京市に、キリシマツツジで有名な長岡天満宮があります。ひとつひとつの花は小ぶりのツツジですが、その色が実に鮮やかで、満開時はまさに圧巻であります。今年の場合、四月下旬が見頃のようです。

 話が逸れてしまいましたが、この長岡天満宮のたもとに、「錦水亭」というタケノコ料理で有名な料亭があります。ランチですと三五〇〇円からありますが、会席料理ですと一二〇〇〇円からといいますので、なかなかのものです。何度か、タケノコ会席が食べたいと思って、その近くまで行くには行くのですが、どうしても、「タケノコごときに……」という思いが頭をかすめ、これまで、ついぞ入ったことがないのであります。多分、今年も無理でしょうが、錦水亭のタケノコ料理を食べずに死ぬと悔いが残りそうなので、いつかは行きたいと思っています。

 ところで、竹の成長はとても早く、タケノコとしておいしく食べられる時期は短いため、漢字の「筍」は、十日間を意味する「旬」に由来するものだそうです。また、タケノコは、とても身近で特徴ある野菜ですので、慣用句が結構多くあります。

【雨後のタケノコ】

 タケノコは雨後にいっせいに生えることから、似たような物事が次々と現われ出る様子。

【タケノコ生活】

 タケノコの皮を一枚ずつはぐように、身の回りの衣類・家財などを少しずつ売って食いつないでいく生活。

【タケノコ医者】

 まだ、やぶ医者にも至らぬ意から、技術が幼稚で拙劣な医者をあざけっていう語。

【縁の下のタケノコ】

 立身出世のできぬ人のたとえ。

【タケノコ剥ぎ】

 性風俗店で用いられる用語で、ボッタクリ商法のひとつ。タケノコの皮をはがす行為に由来し、初期料金を安く見せかけ、サービスごとに別料金を課し、段階的に金銭を巻き上げる手口。

 ……以上、タケノコが聞いたら気を悪くするようなものばかりです。せめて、じっくり手間隙かけて、おいしくいただいてあげないといけませんね。

(2007/4/18)