戌年にちなんで
平成十八年は戌年ですので、犬(狗)にまつわる、ことわざ・故事成語・慣用句を集めてみました。
……………………
◎一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ
一匹の犬が、何かの影を見てほえると、あたりのたくさんの犬が、その声につられてほえたてる。だれかが、いいかげんなことを言い出すと、多くの人がよく確かめずにそれを言いふらすこと。「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」ともいう。
◎犬の遠吠え
弱い犬が遠くの方で人に吠えることから、臆病者が陰で空威張りをすること。
◎犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ
犬は三日飼っただけでも、三年間その恩を忘れない。まして人は恩知らずであってはいけない、という意。
◎犬骨折って鷹の餌食
犬が苦労して追い出した獲物を鷹に取られる。苦労して手に入れかけたものを他人に奪われてしまうたとえ。
◎犬も歩けば棒に当たる
犬もうろつき歩くから、棒で打たれるような目に遭うことになる。じっとしていればよいものを、出しゃばると思いがけない目に遭うという意。後には、出歩いているうちには、思いがけない幸運にぶつかることもある、という意味にも使われる。
◎犬も食わない
何でも食べる犬でさえ食べないという意から、非常に嫌がられ、だれからもまともには相手にされない様子。「夫婦喧嘩は犬も食わない」
◎尾を振る犬は叩かれず
従順な者には、だれもひどいことをしない。「尾を振る犬は打たれず」ともいう。〈類句〉杖の下に回る犬は打てぬ
◎飼い犬に手を噛まれる
普段、目をかけて世話してやった者から、裏切り的行為を受ける意。
◎垣堅くして犬入らず
家庭内が正しく治まっていれば、それを乱すようなことは外部からはいってくることはない。
◎鶏鳴狗盗
いやしくつまらない者。鶏の鳴きまねをする人と、犬のようにこそこそと人の物を盗む人。
戦国時代に斉の孟嘗君が、秦の昭王のとりことなった時、すでに王に贈ってあった狐の白裘(狐の腋の白毛皮で作ったかわごろも)を、狗のまねをする食客に盗み出させて、王の寵姫に献じて釈放され、逃げて函谷関に来たが、深夜のため関は閉ざされていて、鶏が鳴かねば門は開かれなかった。従者の中に鶏の鳴きまねの上手な者がおり、鶏の鳴きまねをすると、あたりの鶏どもが鳴き出したので、関門が開かれ、通過して脱出することが出来た故事。
◎犬猿の仲
きわめて仲が悪い間柄にあること。
◎犬馬の心
主君や親のために尽くす忠誠心をいう。
◎犬馬の歯
自分の年齢をへりくだっていう語。犬や馬のようにむだな年齢を重ねるという意味。「歯」は「齢」と同じ。
◎犬馬の労
主君または他人のために、力を尽くして奔走すること。他人に対して自分の労苦をへりくだって言う言葉。〈用法〉主人のために犬馬
の労を惜しまない。
◎狡兎死して走狗烹らる
利用価値がある間は使われるが、価値がなくなると捨てられるたとえ。すばしこい兎がつかまれば、それを追いまわしていた猟犬は不用として煮て食われてしまう。敵国が滅びると、戦功のあった謀臣は、じゃまにされて殺される。
◎蜀犬日に吠ゆ
見識の狭い人が賢人のすぐれた言行を怪しみ疑って非難するたとえ。蜀は山地で雨が多いので日を見ることが少なく、たまに太陽を見ると犬が怪しんでほえたという。
◎跖の狗尭に吠ゆ
人はそれぞれ主人のために忠義を尽くすたとえ。大盗賊の盗跖に飼われている犬は、主人でなければ聖人の尭にもほえる。
◎虎を描いて狗に類す
物事を学んで失敗するたとえ。素質のない者が優れた人の真似をすると、かえって軽薄になる、という意。
◎煩悩の犬は追えども去らず
欲望が人につきまとって離れないのを、犬が人にまといつくのにたとえた語。
◎羊頭を懸て狗肉を売る
見かけだけ立派にして、実質が伴わないたとえ。看板に偽りがあること。羊の頭を看板に出しておき、その実は狗の肉を売ること。「羊頭狗肉」「羊頭を懸けて馬肉を売る」ともいう。
……………………
いかがでしょうか。犬が聞いたら怒りそうなものばかりですが、われわれ人間には、耳の痛いものばかりであります。
耐震偽造マンションは、まさに「羊頭狗肉」でありましょうし、頻発する幼女殺人事件の犯人たちは、悲しいかな「煩悩の犬は追えども去らず」、犯罪を繰り返しているようです。せめて、「犬馬の労」を惜しまず、「垣堅くして犬入らぬ」ように心がけたいものです。(2005/12/18)