仏典に登場する鳥

 今年の干支は酉(ニワトリ)ですので、仏教に関連のある鳥のお話をさせていただくことにいたします。

 浄土経典『阿弥陀経』に、極楽について、次のような記述があります。

 「かの世界には、常に色とりどりの珍しい鳥がいる。白鵠(白鳥)・孔雀・鸚鵡・舎利(九官鳥)・迦陵頻伽・共命鳥といった諸々の鳥が、昼三回、夜三回優雅な声で鳴く。そして、その鳴き声は、仏の教えとなって聞こえてくる。その国の人びとは、その鳴き声を聞くと、仏・法・僧の三宝を念ずる気持ちが、自然にわいてくるのである。」

 記述中の白鵠(白鳥)・孔雀・鸚鵡・舎利(九官鳥)につきましては、とりあえずイメージできるということで、ここでは省略させていただきます。

 まず、迦陵頻伽は、サンスクリット語の音写語で、略して迦陵頻とも、美しく妙なる鳴き声を持つ鳥ということから、妙音鳥とも好音声鳥とも訳されます。なんでも、卵の殻の中にいるうちから鳴きだすとか。雪山(ヒマラヤ)や極楽浄土に住むとされる想像上の鳥であります。

 この鳥のいちばんの特徴は、人頭鳥身という姿です。浄土変相図や天井画などの建築装飾、華鬘などの工芸文様中に、よく描かれたりします。(図1)

図1図2図3

 また、雅楽の曲名に『迦陵頻』というのがありますが、その名が示すとおり、この鳥の舞曲であります。伝説によれば、インドの祇園精舎供養の日に、迦陵頻伽が降り立ち鳴き舞った姿を模した舞といわれ、背中に鳥の羽根の作り物をつけ、鳴き声を模すために銅拍子と呼ばれる小さなシンバルを打鳴らしながら可憐に舞うものです。(図2)

 次に、共命鳥は、命命鳥、生生鳥などとも呼ばれ、これらはサンスクリット語を直訳した名前で、耆婆耆婆や耆婆耆婆迦と、音写語で表現されることもあります。元来は、インド北部にすむ雉子の一種で、その鳴き声によって名づけられたものとのことです。そして、その特徴は、体は一つでありながら頭と心を二つ持ち、とても声が美しいということです。ただ、この鳥には、こんな悲しい過去があります。

 あるとき、一羽の共命鳥の一頭が、とりわけ美しい声をしておりました。ところが、もう片方の一頭は、どうしたことか悪声であったので、美声の頭に、常々嫉妬していました。

 それで、悪声の方が、このもう一つの頭さえいなければ、自分はコンプレックスを持たずにすむと考え、彼の餌の中に、そっと毒をしのばせました。そうとも知らず、相棒のもう一つの頭は、その餌を食べ死んでしまいました。しかし、もともと体は一つ、当然、食わせた方の一頭も死んでしまいました。

 この事件があって、共命鳥は反省し、相手を生かすことが、自分を生かすことであると悟ったといいます。それ以後、共命鳥は互いに助け合って、極楽世界で美しい声で鳴いているということです。

 他に、鳥類の王、竜を食う大怪鳥、迦楼羅という鳥がいます。金色の翼を持つので金翅鳥とも呼ばれます。仏法を守護する八部衆の一つとされ、奈良の興福寺に、有名な迦楼羅像があります。(図3)

 ちなみに、ヒンズー神話に出てくる、ヴィシュヌ神の乗り物であるガルーダは、この鳥と同じで、ガルーダ・インドネシア航空の社名にも使われています。

 最後に、インドの雪山(ヒマラヤ)には、寒苦鳥なる鳥が住んでいるとか。夜は、穴の中で寒さに苦しみ、明日は暖かい巣を作ろうと鳴き通すが、朝日を浴びると寒苦を忘れ、今日明日の命も保証しがたい無常な世の中に、巣作りなどしても意味がないと鳴き通して毎日を送っているのだそうです。もっとも、この鳥に似た輩は、ヒマラヤに行かずとも、どこにもいそうであります。

 さて、新年にあたり、仏典に登場する珍鳥たちの声は、耳を澄ませ、心を研ぎ澄ませば、聞こえてくるかもしれません。

(2004/12/18)