ノラの土産

 栃木県小山市で起きた、幼い兄弟の誘拐・殺害事件、愛知県豊明市では、母子四人殺害・放火事件と、悲惨・残忍、そして、不可解な事件が、どうしてこんなにも多いのでしょう。毎日のように、殺人事件の報道記事が、新聞紙面のどこかに載っているという状況は、やはり、異常であります。

 凶悪な犯罪は、いつの時代にでも確かに発生はしますが、ここ十年ほどの間に、ずいぶん多くなっているような気がします。

 そこで、警視庁発表の刑法犯認知件数を調べてみましたら、凶悪犯(殺人・強盗・放火・強姦)の場合、平成六年と平成十四年との比較では、総数で一.七倍と、確かに急増しています。人口十万人当たりの刑法犯犯罪率でみると、やはり凶悪犯の場合、平成六年は、五.八件であったのが、平成十四年では、九.九件になっています。ということは、私の住んでいる熱田区の人口は六万人強ですので、年間六件の凶悪犯罪が起こっているということになります。

 ただ、平成十三年、日本の殺人認知件数が千四百三十六件、犯罪率一.一件であったのに対して、米国の場合、殺人認知件数、一万五千九百八十件、犯罪率、五.六件でありました。その十年前は、殺人認知件数、二万四千七百三件、犯罪率、九.八であったといいますから驚きです。この数字と比較すると、変に安心してしまいかねませんが、日本では、一日平均、四件の殺人事件が起こっており、それを考えると、胸が痛くなります。

 フランス、ドイツ、イギリスにしても、同年の殺人犯罪率は、日本の約三倍ですから、これからさらに増えてゆく可能性は、十分に考えられます。

 そして、もう一つ特徴的なことは、来日外国人による犯罪が増えているということです。凶悪犯の平成六年の検挙件数のうち、来日外国人によるものの割合が二.五%であったのに対し、平成十四年では四.二%に増えています。しかも、これは、検挙された件数であって、来日外国人の場合、検挙率は日本人に比べて低いと考えられますので、実数はもっと多いと思われます。

 実際、ここ数年、当方の地区でも、外国人による強盗が何件か起きておりますが、未だ検挙されておりません。それと、多発する凶悪テロ事件、明らかに犯罪と思われる戦争行為・行動が、リアルタイムで報道されてくるのを、茶の間のテレビで見ている我々…。やはり、どこか異常であります。

 以上、日本の劣悪化傾向にある犯罪状況を知った上で、それぞれが、問題意識を持って、考えていかなくてはならないでしょう。

 そこで、話はかわりますが、私どもの近所に、ノラ猫の親子がいます。隣の学生マンションの生ゴミが、曜日かまわず放置してありますので、食べ物には不自由していない様子です。しかも、猫好きな人がいて、エサを時々あげているようです。

 当然ながら、子どもを産んで増えますし、置き土産である糞害に、憤慨(フンガイ)するところとなります。その矛先は、猫はもちろん、マンションの住人、そして、そのオーナー、さらには、エサをあげている猫好きの人へと、怒りはどんどん広がっていくわけです。

 ところが、いつも伺う猫好きの花屋さんに、糞害に困っている話をしたところ、「猫のトイレをおごってあげやぁ」との返事だったと、家内が聞いてきました。なるほど、猫好きな人は、見る視点が違います。これまで、寄せ付けまい、追い払おうとばかり考えていた自分が、少々恥ずかしく思えてきました。

 ノラ猫は、好きこのんでノラ猫をしているわけではありません。意地悪するつもりで糞をしていくわけではありません。彼らは、自分たちの生きる権利を主張しているにすぎないのです。そう思うようになったら、臭い糞の後片づけも、そう嫌でなくなってきたから不思議です。

 これは、人間関係も同じなんでしょうね。殺人のような凶悪犯罪のすべてが、恨みから起こるわけではありませんが、視点を変えるだけで、この恨みから解放されるものです。「人の悪きは、我が悪きなり」のことわざを、みんなが噛みしめることが出来るようになれば、犯罪は、随分と減ると思えるのですが……。

 ノラの土産は、私たちの良心を奮起(フンキ)させるものかも?

(2004/9/18)