◆創作仏教説話◆ ナンダさん B

 これもナンダさんから聞いたお話です。

 むかしもむかし、気が遠くなるくらいはるかむかしのお話です。まだ、神さまが世界をお創りになっていたころのことです。

 えっ、どんな神さまかって? ごめんなさい、インドの神さまということだけで、名前までは聞きそびれてしまいました。

 その神さまがですね、まず、国土をお創りになり、ついで、そこに住む人間をお創りになったということです。

 はじめに創ったのは男だったそうです。でも、男ひとりだけではかわいそうだということで、神さまは女を創ろうとお考えになられました。

 ところが、神さま、創り始めて、はたとお困まりになったそうです。その女の人に、どのような要素、つまり素質を持たせようか、思案しかねたのです。

 そこで、神さま、「えいままよ」とばかりに、思いつくまま、あれもこれもと、いろいろな要素を加味して、苦心さんたんして女の人を創り上げました。

 その要素といったら、それはたいへんなものです。ここにメモしてきましたから、まあ、聞いてください。

 月の丸さ、蛇のうねり、木の枝のたわやかさ、草のそよぎ、葦のか弱さ、花のやさしさ、葉の軽さ、雲の涙、風の浮気、うさぎの臆病、孔雀の虚栄、柔らかな雀の胸毛、金剛石の硬さ、蜜の甘さ、虎の残酷、火の暖かさ、雪の冷徹、樫鳥(カスケ)の饒舌、鳩の鳴き声等々、そこは神さま、よいあんばいに混ぜこぜして上手にお創りになったということです。

 そして、男に、「お前ひとりではさびしかろう。これはお前とは違う女というものだ。やさしく大事にしろ」といって、お授けになったそうです。

 これまで、無味乾燥な中で暮らしてきた男にとって、それはそれはすばらしい授かりものでした。夢心地とは、まさにこのことかと思うほど、男は大喜びし、神さまに感謝しました。神さまも、苦労して創ったかいがあったと、その時、内心ホッとしたということです。

 ところが、ほどなくして、男は、女の人を連れて、神さまのところにやってきていったそうです。

 「神さま、せっかく賜りましたのですが、煩わしく、少々わたしには手に負いかねます。お返しします。」

 神さまは、少しムッとしましたが、男がそういうなら仕方なかろうと、引き取ることにしました。

 ところがです。またすぐ男はやってきていったそうです。

 「神さま、お返ししてからというもの、気が抜けたようで、何もする気が起きません。どうか、もう一度賜りとうございます。」

 神さまは、それはよかったと、快く連れて帰らせました。

 ところが、ほどなくして、また男は神さまのところに、女の人を返しに行きました。神さまは、苦笑いしながら、お引き取りになられたそうです。

 そして、そう、男は、女の人がいないと、なんとも切なくてやりきれないからと、またしても授けてほしいと願いにいったのです。

 それでことが収まったかというと、そうはいきません。こんなことが、何回となく続きまして、さすがのおうような神さまも、何度目かのときに、とうとう怒ってしまわれ、男を叱りつけました。それで、男は、ため息混じりに、ボソッといったそうです。

 「ああ、女の人はいても困るし、いなくてももっと困る。それにしても何と不可解なものであることか……」

 神さまは、聞こえなかった振りして、「お前ら、もう二度と来るな」といって、追い払ってしまわれたそうです。

 それで、その後ふたりはどうなったか、ナンダさんに聞いてみたのですが、知らないそうです。でも、ナンダさんがいうには、極楽に、人の顔をした美しい声で鳴く鳥がいるのだそうです。ギバギバとも、命命鳥(ミョウミョウチョウ)とも、共命鳥(グミョウチョウ)ともいうその鳥は、身体はひとつでありながら、頭と心はふたつという珍鳥だそうです。もし、この世にいたとしたら、不自由きわまりなく、とても生きていけそうもありませんが、それが極楽では、実に仲が良いとのことです。

 この共命鳥こそ、あのふたりではないかというのですが、あなたは、どう思われますか?

(2001/8)