笠森のシンデレラ

 

1010年ころの天皇後一条は、皇后がなくなったので新しい皇后を広く全国からさがすことにしました。というのは、前の皇后にそっくりよく似た人でなくてはならないと天皇が考えたからです。そこで上総介(次官)は、国中におふれをだして33人の少女を集めました。その中に恩茂里(おもり)という名の乙女がいました。

 

  上総介は、顔や姿が美しいことはもちろんだが、乙女として一人前の仕事ができなければお后にすすめることはしないという考えから、集まった乙女たちに早乙女のいでたちで田植えのコンテストをすることにしました。

 

  ならんだ乙女達を見ると、みんな若々しい、きりっとした姿で、頼もしい乙女達でしたが、どうしたわけか恩茂里だけが頭からびしょぬれです。

 

  おどろいた上総介がそのわけを尋ねたところ、恩茂里は今朝家を出るとき雨がふっていたので、笠もみのも着ていたのですが、ここへ来る途中道ばたの観音様が雨にぬれているのを見て、自分の笠とみのをお着せしたというのです。

 

  心優しき乙女かな、と感心してよく見れば、顔立ちは上品で、ものごしも優雅です。田植えコンテストの成績もすぐれていました。上総介はためらうこともなく恩茂里を都にすいせんすることにしました。

 

  この乙女を都へ送る役目は、長南庄の長南小次郎(ちょうなんこじろう)ら4人の若武者が命ぜられました。

 

  無事都に着いた恩茂里は、やがて天皇にお目にかかりました。ひと目見た天皇は、恩茂里がさきの皇后にあまりにもよく似て美しいので、驚き喜んでさっそくお后にして、二人は幸福に暮らしました。

 

  あるとき天皇が,恩茂里に「欲しいものを言ってごらん、かなえてあげる」といいました。恩茂里は考えていましたがやがて、生まれ故郷のあの観音様にお堂を作ってあげたいといいました。天皇はそのわけを聞き心を打たれてやがて立派なお堂を建ててあげました。これが千葉県長生郡長南町にある笠森観音堂です。この観音堂は大きな岩石の上に四方からやぐらを組んで、その上にお堂をきづいた珍しい建物で、現在たくさんの人々のお参りで毎日にぎやかです。   

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