明日の風

会員の職場紹介                 VOL..15

 

田中 満枝 さん

つばさ社会福祉士事務所

 

 すごい人がいるから会っておくといい、と知り合いの口から田中さんの名前を聞いたのは、もう5年も前のことでした。その後もうわさを耳にしたり書かれたものを拝読したりはしたものの歳月が流れ、今回ようやくお会いすることができました。

田中さんの顔

プロフィール

大学卒業後、入間市役所に就職。障害者担当や生活保護担当のケースワーカー、社会福祉協議会への出向など、14年間勤める。

その後身体障害者療護施設「大樹の里」に設立から関わり、副施設長を経て施設長となる。

平成10年8月、「生活ホームつばさ」を自宅敷地内に立ち上げ、入間市からの委託を受ける。

昨年「大樹の里」を退職、「つばさ社会福祉士事務所」の運営を始める。

現在はこれらに加え、短大等の講師、ヘルパー研修の開催、デイケア施設の非常勤施設長などの仕事をこなすかたわら、社会福祉士会の活動にも積極的に関わっている。


 
つぱさ社会福祉士事務所では在宅の方の生活を支援するために相談業務や送迎サービスなどを行っています。

隣には6人の障害者の方と管理人が暮らしている生活ホームがあります。全室バス、トイレ付きのワンルームです。

「あまり軌道に乗っているとはいえないので、参考になるかどうか。」と念を押されたのですが、それでもあえて話を聞きたかったのは、田中さんはどんな毎日を送っているのか、そしてなぜこういう働き方、暮らし方を選ぶようになったのか、知りたかったからです。

野川さんがリフターに乗っているところ

事務所にもなっている自宅。

障害のあるご主人がベッドからトイレ、お風呂まで移勒できるように天井にレールが敷かれています。

 

夫との出会い

夫とは、入間市役所時代に知り合いました。

彼は筋萎縮症という疾患を持っていますが、当時はまだ歩ける状態で、自分の疾患についてよく知らずにいました。

あるとき、3ヶ月ほど姿を見かけないと思っていたら障害者手帳の申請が出たのでびっくりしました。検査入院でベッドに寝かされていたそうで、車椅子が必要になっていました。

障害者福祉に携わっていた私は、彼の疾患について彼自身より早い段階で気がついていました。事前に入院のことを知っていたら、と思うと悔やまれます。

その後、障害者運動などで一緒に活動するようになり、親しくなって結婚しました。

組織の中で

行政では決められたサービスを決められた手順で行うのが仕事です。ところが私は、障害者福祉に携わる中で次第に問題意識を強め、仕事以外でも活動するようになりました。

しかし、職場では歓迎されない活動です。上司からは「寝た子を起こすな」とまで言われました。

また、「大卒の女はいらない」という時代でもありました。結婚して子供を持ち、障害を持つ夫がいる中で働くには、すさまじい日常をこなさなければなりませんでした。

積み重なっていく怒りに、逆に発奮しました。少しずつですが、新しい取り組みも形にすることができました。

はじめに取り組んだのは、補装具を購入する際の自己負担費の補助制度をつくることでした。

下肢障害の人で、本人は所得がないのですが、家族の収入があるために義足を作る際全額自己負担になってしまう人がいました。この人は必要であるにもかかわらず、義足をあきらめてしまっていました。

何とかできないだろうか。本人負担をなくすため市が独自の事業として全額負担してはどうだろうか。このアイデアが案外すんなりと受け入れられ、やがて他の市町村でも真似してもらえるようになりました。

私にはそんなに大きなことはできません。

でも、何かできることがあるはずです。

何ができて何ができないのか、自分を見つめる中からやるべきことは見つかってきます。

こうして道なき道を切り拓き、次に続く誰かがたどれるように道筋をつけることが自分の役割のように思います。

振り返れば、一歩一歩何かを残してきたという自信になっています。

「大樹の里」

夫と私が関わっていた障害者運動の中から、施設を作ろうという動きが現われ、昭和60年、身体障害者療護施設「大樹の里」が作られることになりました。このとき、理事長が施設を運営できる人材を探していたのを機に、市役所を退職する決意をしました。

制度のなかった在宅の障害者のための入浴サービスを送迎つきではじめたり、同一法人で知的障害者の更生施設を立ち上げたりと、試行錯誤を重ねながら14年間をすごしました。

平成10年、夫の強い希望を受けて、生活ホームを作ることになりました。

ちょうど「大樹の里」は組織が大きくなりすぎて動きづらいと感じていたところだったので、思い切って退職し、生活ホームを基盤にすることにしました。

これから

権利擁護の問題に強い関心があります。

介護保険制度の導入に伴い、これまで以上に自己決定が大切にされなければなりません。

ところが、今の高齢者は自己主張に慣れた時代の人たちではありません。

契約を交わす前の段階に、注意すべき問題があると思うのです。これを声にしていく手伝いがしたいと考えています。

また、別の場面では、知的な障害があることや言語に困難があったり痴呆があったりということのために発言力の弱い人たちに対して、家族の声をより多く聞いてしまいがちです。

こうした時、本人の希望がどこにあるのかを常に考え、耳を傾けられる人でありたいと思います。それが、社会福祉士としての役割でもあるでしょう。

のんぴりとゆったりと話される口調とは裏腹に、これまでぶつかってきたさまざまな壁について、たった今起きた出来事のように憤っている。そしてその怒りを確実にエネルギーに変えている方でした。

私にはとても伝えきれません。ぜひ直接会って、話してみてください。

(取材 広報委員 野川kiyoko-n@ta2.so-net.ne.jp)