【MT12・C3第8回個別】
(桜紫苑マスター)

●家族の絆
 ヌシへと近づいて、マーゲイ・マクウッドはその巨大な瞳を真っ直ぐに見た。
「ヌシさま、お礼を言わせてください」
「礼?」
 はいと頷いて、マークは心臓へと手を当て、騎士の礼をヌシへと捧げた。
「‥‥何故、私は礼を言われるのかね?」
「ヌシ様は、昔、父を救ってくださいました」
 ぱた。
 ゆらゆらと揺れていたヌシの尻尾が止まる。
「お前の父を救った?」
「はい。15年前、この森で父はあなたに命を救われました。覚えていらっしゃらないかもしれませんけれど、父は、レオンと言います。レオン・マクウッド」
 ヌシは目を細めた。
「‥‥あの男か」
「覚えていてくださったのですね。ありがとうございました。父は、ずっとヌシ様にお会い出来たなら、必ず礼を言って欲しいと言っておりました」
 ヌシの尻尾が再びゆらゆらと揺れ始める。
「‥‥いいや。救ったのは、私ではない。あの男‥‥お前の父の家族を想う心が救ったのだ」
 え? と怪訝な顔をしたマークに、ヌシはついて来いと起きあがった。

 野営地からさほど離れていない場所に、1本の木が立っていた。
 その木の前で、ヌシはマークを振り返る。
「‥‥この木の洞を、見てみるがいい」
 手を差し込み、マークは指先に触れた冷たい感触を掴んだ。
「‥‥これは‥‥」
 小さな水晶玉と、見間違う事のない父の矢尻。
「お前の父の家族を想う心が、その水晶玉を呼んだ。だが、家族の為の力は自分を救う力とはならなかった。‥‥その水晶玉の力を感じて、私はお前の父を見つけたわけだから、救ったと言えば救った事になるのだが」
 水晶玉と矢尻を、マークは握り締めた。
「ただ純粋に、自分の事よりも家族の為に祈った。その心が、お前の父を救ったのだ」

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