【ダン君の過去(ミニ小説もどき)】
 ‥‥自分でも拙い文章だなと思いつつ。
 こういう過去を持つキャラクターだというのを伝えたくて書いてみました。

 ゴードン──盗賊団の頭で、俺の育ての親の名前だ。
「俺は義賊じゃ無ぇ」それが彼の口癖だった。
「腹黒い金持ちが気に入らねえだけよ。あいつらにただただ溜められてばっかじゃ、金もかわいそうだろう?だから俺達で有意義に使ってやんのさ」

 俺はロヴィアで育ったが、生まれもそこなのか、そもそも俺の両親がどこの人間なのかさえ知らない。物心ついた頃にはゴードンの側にいた。俺は小さい頃、自分の父親は彼なんだと信じてた。けれど彼とは髪の色も瞳の色も違うし、顔つきも全然違う。俺の髪は真っ黒で瞳は茶色だけれど、彼の髪は淡い栗色で瞳も青かった。ほどなく血の繋がりなどないと知ったが、それでも俺は彼を父親のように慕っていたし、彼も本当の息子のように俺を可愛がってくれた。もちろん俺にシーフとしての基礎を叩き込んでくれたのも彼だ。血が繋がってなかろうが何だろうが、俺にとって「親」と呼べるのは、このゴードンだけだった。

 それは俺が10才の頃のことだ。
 毎夜の酒盛りの後、アジトの男達はいつものように眠りの床についた。しかしそれはすぐに中断されることとなった。
 俺達の棲処に火が放たれ、それは見る間に燃え広がっていった。
 盗賊団討伐の傭兵達がアジトを襲撃したのだ。

「お前はこんな所でくたばっちゃいけねえ。お前には才能がある‥‥生き延びるんだ」
 俺は、昔彼が「いつかはこんな日がくるだろう」と言ってたのを思い出していた。
 盗賊団などゴロツキの集まりで、クズの集まりで‥‥世の中にない方がいいんだと言ってはばからない偽善者達の雇った討伐隊が、正義の名の元に殺戮を行う。本当に裁かれるべきなのは自分達の雇い主だと、分かっていながら報酬に目の眩んだ殺し屋達の群れだ。
「お前だけならここを抜け出せるだろう。さあ、とっとと行け!」
 自らも手に得物を持ち、断末魔の声と怒声の中へと駆け去っていくゴードンの後ろ姿。
 それが、俺が彼を見た最後だった。

 炎の獣に呑まれてゆくかつての我が家を背に、俺ができるのは一刻も早くそこを離れて、安全な場所に辿り着くことだけだった。人目につかない岩影でしばし休んで、俺は近くの町まで歩き始めた。東の空が少しずつ白み始めていて、だから余計に寒く感じられた。
 生まれて初めての強い絶望感と悲しみ、孤独。どうしようもないほど胸を締め付ける思いに耐えられたのは、ゴードンの「生き延びるんだ」という言葉に応えたかったからだ。
 今でも俺はこの言葉を守っている。それが俺にできる、彼への唯一の手向けだから。

 いくら親しい者を失って気落ちしていようとも、人は生きていく限り物を食べなければならない。
 最小限のものしか身につけず逃げてきた俺にとって、町の市場で売られている食べ物は手に入れることができなかった。背に腹は換えられず、近くの物陰から店員の目を盗んで手にしようとしたところで、その声は聞こえた。
「やめとけ。そこの店のは旨くないぜ」
 俺にしか聞こえなかったのか、周りを素早く見回しても誰も気付いた様子は無かった。
 驚いている俺に、
「上だ、上」
 その男は近くにある大きな木の枝の上にいた。
それが、エディオンとの出会いだ。

「腹減ってんのか。俺がもっといい所を教えてやるよ。ついて来な」 俺は素直に彼に従った。警戒しなかったわけではないが、何故か彼が悪い奴だとは思えなかったのだ。そしてそれは正解だった。その後、彼が「月道で未探検地域へ行く」と言うまでの7年間、俺は彼と一緒に旅をしていたのだから。

 エディオンはシーフとしての技能も持ち合わせてはいるが、本当は精霊使い(風使い)だ。ハーフエルフの彼は人間にもエルフ族にも忌み嫌われる存在で、だから自然と身を隠す術が備わったのかもしれない。とある出来事で行方知れずになった“知り合い”(と本人は言っていたが、どうやら想い女らしい)を探して、旅をしている。

 俺は彼にいろいろなことを教わった。中には‥‥まあ‥‥下世話なこともあったが。彼は自身の境遇におよそそぐわないと思えるほど陽気で調子が良く、お陰で俺は随分と救われる思いがしたものだった。今にして思えば、あれは彼なりの慰め方だったのかも知れない。
 あの月道の先で、今頃彼はどうしているだろう。
“知り合い”は見つかったのだろうか。それともこの世界のどこかで、まだ旅をしているのだろうか。


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