Tails 山下由



The Story メキシコのミューズ



さて,花咲か爺さんとブラック・ミューズは,メキシコのハイランドのカフェで酒を飲んでいた.
「敵ーら! むにゃむにゃ,,,」
酸欠と睡眠不足と酒で,花咲か爺さんはウミウシのようにだらしなく,丸テーブルの上につんのめるのだった.
ミューズは,濃い眉毛の下の地球のエッチングのような黒い瞳を,カフェの外の犬に向けている.

 卑怯な奴はいないよ
 セニョリーダ
 町は曇っていても
 朝日は矢だ

 卑怯な奴はいないよ
 セニョリーダ

ポンチョを着た,太った口髭の男が歌っている.

ミューズは,パンプスの先端で花咲か爺さんの脛を蹴飛ばした.
「ぐがっ! むにゃ,むにゃ.ママ,パンは,お外に置いてね」
寝ぼけている.
しかも老人性痴呆症とも思えない,余裕のあるボケだ.
ミューズは陽気なメキシコ人の歌と,この爺さんにイライラして,さらに強く蹴っ飛ばした.
「ぐががっ! この度,宮崎二区から立候補した花咲努です.私が,この私が,多少なりとも当選した暁には,精神的な老人の医療費の全額免除!肉体的な若者のコンテスト!肉屋のように,,,むにゃむにゃを確約し,米屋からお米を買い,コンビニでは買わないことを誓います,,,1999年ニューギニア・オリンピック,卒業生総代,,,」
爺さんは一向に起きる気配がない.

ミューズがあきらめて外に出ると,大西洋と太平洋に夕日が沈もうとしていた.
やせたコヨーテが,ミューズのパンプスをなめにやって来た.

 それでいいよ
 セニョリーダ
 町は曇っていても
 朝日は矢だ

「大阪に行こうかな」
ミューズは退屈で,気が狂いそうだった.

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