Poems  山下由



最後の2.7km


そこには友人たちがいて
たくさんの生き物たちもいる
その笑い声と生命のざわめきが
失われようとしている
最後の2.7kmが閉じて

ここでペカップ(蛤)を掘って
ここで魚を待った
大昔からの海の贈り物と
優しい暮らしが失われようとしている
最後の2.7kmが閉じて

そこにはマンションが建つだろうな
素敵なショッピングセンターも
海などなかったかのように(漁民などいなかったかのように)
新しい生活が始まるよ
最後の2.7kmが閉じて

カニたちは巣穴の中で
永遠に来ない波を待つ
穴の底で乾いて
海を夢見て死んでいく
最後の2.7kmが閉じて

干拓地にはたくさんの白い貝殻
「未来」に支払われる莫大な生命
でも見えない聞こえないふりをしよう
あとほんの少しだ
たったの2.7km

夕焼けが失われ
海が作り出す大地もない
貝を掘る泥だらけのアジュマたちの姿も
私たちの世界は終わる
最後の2.7kmが閉じて

私たちの世界は終わる
後は着飾って気取って暮らしなさい
テレビドラマとパソコンを一日眺め
ゆっくりとあなたは死になさい
泥で汚れない場所で

あなたの海にあったものを
ショッピングセンターで買いなさい
「失われたもの」を買うために
「どこにもないもの」を探して
一生 会社で働きなさい

干拓地が乾いていくように
心は永遠に乾き
あなたは永遠に満足できない 
そんな消費社会の完成まで
あと2.7km

ケッパダ ケッパダ ケッパダヨ
ホアングンパダ セマングム


27 Oct 2005

*韓国のセマングム干拓の防潮堤の閉め切り工事が迫っている.今,わずか2.7kmの隙間が海の命を繋いでいる.この2.7kmの護岸・水門が完成すると,干潟の全ての生物が死に絶え,漁民が生活できなくなる.

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ウィリアムとヘミング


春が来たよ
散歩がしたいなあああ
なんかもぎたてのを食べながら
どっかを歩ていたい
でも今年は 
ウィリアムとヘミングがいない

自分の歳を数える
指が追いつかなくなる
都会では俺は
フクロウのおふくろみたいに静かだ
まあ
ウィリアムもヘミングもいないし

磁場が乱れている
括弧付きでしかしゃべれない
青い洞窟のミューズが
寝転んでるとこへ行きたい
だな
ウィリアムとヘミングがいない時は

レミングはどうだろう
海へ海へとつっ走る
時間 霊性 衝動 
どこにもいない自分であることである
そう言った
ウィリアムとヘミング


30 January 2006


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桃売りの男


神様がつくった世の中から
なにも奪わずに通り過ぎる
通り過ぎる 通り過ぎる
手の中には何もない

この世から何も盗まずに
自分だけを失う
道が乾いていくように
空へ逝ってしまった おまえ

森や海に話しかける
テントの中で眠るのさ
夢の夢の中で眠るのさ
ここが俺の故郷

海のそばでラジオが
いつまでも鳴り止まない
語り忘れた夢のように
針のない釣竿のように

愛を届けに来ましたが
君に会いに来ましたが
空だけが続いていた
桃売りの男

愛を届けに来ましたよ
君に会いに来ましたよ
愛しているよ
桃売りの男

桃売りの男

19 August 2005

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白いオタマジャクシ


かわいそうな この俺は
ピアノの上で死ぬかもしれない
アリバイを証明できない奴らが寄ってきて
土をかけてくれるだろう
かわいそうな俺と俺の犬

焼けそうな野原で自殺してるだろう
自分のあばら骨を焼いて食べながら
禿鷹も鼻をつまんで逃げるだろう
あとには言葉の灰だけだ
かわいそうな奴

一生かけて 君に会うんだな
それだけが愛だ
出会いなんだ
かわいそうな池の
白いオタマジャクシ

あとには言葉の灰だけだ
かわいそうな奴


1 October 2004

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かっこいい人のように


ただ息をしてるだけなのに
信じられないほど苦しくなって
海にいく
かっこいい人のように空を飛んで
昔は税金も払ったじゃないか
なんたる贅沢

一日中 辞書だけを読んでる
読んでも読んでもあきなくて
女房は出ていったようだった
かっこいい人のように電車に乗る時ゃ
切符を買ったりしたもんさ
なんたる贅沢

マルキストなんだ
あきらめちゃいないんだよ

毎日 山のように賞状が届く
退役軍人会でも有名な顔だ
心は日の丸より燃えてるぜ
かっこいいぜ かっこいい人のように
口をあけて眠ったもんだ
なんたる豪奢

人生をまとめようとしちゃいかんよ
「ここ掘れ ワンワン」と言われても
山に芝蝦を取りに行くべきなんだ
幻の道は果てしなく
あんたにしかない果物がある
かっこいい人に 俺にだまされるなよ 

マルキストなんだ
あきらめちゃいないんだよ
マルキストなんだ
あきらめちゃいないんだよ


12 December, 2003

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おいしい水


手のひらに花びらを浮かべて
桃色の空を眺める
僕と君がいて
おいしい水

山道をいくつも曲がって
泉に着いた
こんこんと涙が湧き出すのだ
おいしい水

おいしい水を僕らは飲んだ
それは世界にきれいな秘密があって
花園に蜜蜂がいた時代
海に水が滴っていく

故郷の冬山に風が吹いている
地層はみごもって
君を抱いている
生まれて初めて見るものも水


17 February, 2003

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ゴールデン・バレー


街角を曲がることもあるし
磁石を買うこともある
彼女の昆虫標本箱には
生きた伊勢海老が入ってる
宝石より偉そうに

懐かしいドーナツの
影を踏んで
キリンの首が並んでる町で
冷えた水玉を袋に入れて
遊んでる

俺は港の三角形の砂山
洞窟にも追いつけない退屈
船長がひとりで
恋をすればな
みんなの荷物も減るってもんだ

おお ゴールデン・バレー
今もスケベで
ギラギラ生きてるぜ

おお ゴールデン・バレー
今でもスケベで
ギラギラ生きてるぜ

むなしい奴等をぶんなぐって


29 January, 2003

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カスタネット・ジルバ


親父は新しいやつが好きで
クスリもとびきりの奴を飲む
コラーゲンたっぷりのコカインで
今日も御機嫌そのもの

ブーフーウーがジルバで
あのやばい腰の海峡を渡り
モロッコでは友達になれたが
諺は古かった

美しい僕の亀たち
砂浜に並んで
大国主命を待っている
それは月が辞典であるから

ウサギに嘘をつかせずに
岬を回りこむ
僕は本当に自分の心臓が好きなんだ
君の三代前の叔父さんより好きだ

だから浜辺で黒板でチョークで
お金も払わずに早口で泉でキスで
ハートのマークを書いている
かっるい! 愛ってなんて軽くて無重力で
地球で一番 ただなんだろう


29 January, 2003


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夜明けにインディアンの夢を見る


風が匂い
俺は正気の頭で
遠くを見ている
雨が来るのだってわかるぞ
夜明けにインディアンの夢を見る


3 February, 2002

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水の惑星


君の涙
僕の涙

君の子宮
暖かい夢を
いつも
ノックする

(僕は その庭の子供
水を蒔けばよかった)

僕らの未来の子供
地球の人のすべての笑顔

ああ
僕の子供たちは立つだろう
岬と溜息の風の中に

僕にはもう
(僕はもう、真っ白の白髪で)
歌を紡ぐことしかできない

他には
なにもできない

君の庭の木の蔦に登り僕は歌う

(ヒロヨシ、降りてきなさい)

お母さんだ

君の痛みを永遠に癒せたらいいのに


3 January 2002


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告白


天使が製材所で
日の光を浴びている
たくさんのカスタネットとピアノが
空気の線の上を流れてる

ウサギにも秘密にしているような野原の
風の深呼吸
おーおお お父さんが馬車でいく
鼻はまだ赤い

僕の故郷の写真の中に
花のように埋められた外套の
そのポケットの中で
いまも音楽子が踊ってる

朝 浜辺へ出ると
狼と女の子が遊んでいる
ボクラノセカイハ純デアル
ハナノナカニアル

北風は大きな羽毛
岩場では海鳥が雛をしっかりと抱いている
地球はきりきりと痛いように生きている
告白

告白です


3 January, 2002

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セイタカアワダチソウのスケッチ
(We are the stranger more than the earth people or that women)


まるっきり僕や
僕の友達が孤独で
僕に会いに来ないのは
君の仕業かも
セイタカアワダチソウの午後に
ママの絵を描こう

生まれたのも
死ぬのも偶然で
馬車のおかげで歩いてる
メジロパーマーや
ブライアンアダムスに
手を振って

ブーツの車輪の名前を知らない
故郷の町の名前を知らない

花散り 花咲く宵に
銀座で君と待ち合わせ
月見で一杯
花見で一杯
Yの「イエス」が言えない
そんな夜でも

歌詠いが今夜
へべれけの大陸と島で唄う
ヨルダン川の西岸に
首をつきつけられて
死ぬ時も 生まれる時も
ハレルヤ 

俺は憶えてる
故郷の町の名前を憶えてる

あー もいちど 目をつむって
あのこの 愛の泉で生まれ
名前をもらい
眠れたら
言葉が命令したものに
花束を還せたら

俺は憶えてる
故郷の島の名前を憶えてる


18 December 2001

*ずっと逢ってない友だちを夢で見た

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なくならない


痛む僕の心がアジアでは
野生の時間のシマウマを待っている
投げ出したハンドルの上で月が歌っている
誰も僕のことを知らないのに

兄弟の兄弟が
まだ夢である三つ子を連れて歩き
夜の公園で勇気のサバンナを吹いている
死ぬこともないし

ラーレイホー 新しい恋が
非常階段の途中で羽を休め
僕の涙は簡単だ
海の水と君の心で出来ている

ラブレターに僕は出会うし
朝に幅広い溜息を拾う
友達はどこかへ行ったが
金と銀はポケットに入ったままだ


1 December 2001

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自分になる以外の義務はない


聞いてごらん
鳥が鳴くのを
噴水の上を歩く
聖者の足音を

雨が降るのは
空が悲しいから
空は空のために
君のビロードの内側の玉になる

波は高く
私の舟は溺れそう
喉に書いた魚の絵が
鳥になって帰っていく時

そう 砂の誇り高い道で
駱駝は山の間に
金の鍵を落とし
絶対的な涙に従う

我々の道は広がった
空はとても近くなった
それでもヒナギクのように
私は静かに時間へ還る

I shall be…


January 28, 2001

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ほんの蟻の傾斜


傾斜ワルツは悪くない
火星のジャバで酔うよりも
速く竜宮へ行きたい
モスレムでゴーレムが血を吐いている
刑務所の丸い池の中

我らは助け
それぞれの天使が作った黄金の野原で
竜に乗り
話しかける
これはしかも血であるのだから

優しい夜の泉の
さまよう地方を
労働者がいく
この荷車に
愛を載せて


7 December 2000

*生物の多様性は善である。


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桃の花が咲いている


桃の花が咲いている
もう春なんだな
キリストの家の庭で
犬が吠えている

もう春なんだな
君の家の丘の近く
泉の中で僕は
眠る

ああ 桃の花が咲いている
引き裂かれた悲劇の天上に
天照の優しい御手が
匂っている

馨しい夜の
君のほとりで
僕は僕の船の影を
なぞる


7 September 2001

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黒い鏡


昔 猫のような女の子が
僕に言った
「ほら 旅はここにあるのよ」
それからは血の涙の出るような天国
今夜もノックする

それから少年のような猫が
囁いた
「風はね えっとね」
結論なんかいらない
茶色い土が欲しい

屋敷の廊下の黒い鏡の前で
時間は髪の毛を梳かし
僕に会いに来た
でも詩人たちは
海岸に弁当箱を忘れたのだ

黒い皮膚に映る顔
何万年も磨き続けた鏡の中を
兎が走る
僕は鉛筆ではなく
声が欲しい


28 July 2001

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シジミの味噌汁が必要だ


みんなが花園でしゃべっている
俺も噴水の近くへ行って歌いたい
降り積もる泥を払いのけて
人とわかる形に戻りたい
シジミの味噌汁が必要だ

考え考え得る迷路に
家々がひしめく
人生の最初の曙に
体を送り返せ
おいしいコロッケが必要だ

この車はもう走れない
草の生えるままにして
からっぽの手を持って
歩き出さねば
ただの水が飲めるところまで

ただ水の飲めるところまで


July 6, 2001

*Cold Iron Boundのようだ

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それでみんな僕の友達 (B. C. USSR)


科学や教科書を投げ
あてずっぽうにしゃべった
シャークスキンの恋人はコロンブス湾まで来た
歯を得たぜ
みんな僕の友達

ロシアムーンが出てるので
背中に登って歌った
僕のトムは恋するカタログ
でタガログ語を話す
みんな僕の友達

月と月を歩いていける
でも太陽にいつ着くのやら
僕は恋するカタログ
アロハなシャツを着て
みんな僕の友達

このいい子ぶりっこが
いつまで続くやら
破裂する種が雪を見る
Miss. トルネード
みんな僕の友達

靴下が破れて
顔がのぞく
笑顔の故郷へ
今日帰る


13 May 2001

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ウロハゼをさがす


外は三月で
恋人と恋人が歩いている
僕らのボレロはすぐ近くにあって
馬に乗っていくさ

赤いギターが
雨に濡れている
思い出の町では いまも
風がカタコト鳴っている

アイス・スケート・リンクの上を
太陽は歩き
僕らに確かに怒る時間をくれる
川が音楽で満ち溢れていた時

淋しい茶色い熊が
むこうを向いてすわっている
なんにでも恋をして
歩いて来たのです


25 February 2001

*これも八坂川のこと

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寂しさの花


我々は寂しさの花であって
うまく歩くことができない
話しかけることができず
路傍で痩せ細っていく

私は淋しさの花であって
越えるべき谷を知らない
スープの匂いと夜が
どこまでもついてくる

僕はさびしさの花であって
夢に見た女の子だった
蝉の鳴く午後に
アイスクリームのくじもはずれて

我々が寂しさの花だった時
山頂では岩が涙を流し壊れ
風に攫われ
花粉になるのを僕は見た

ケルンが杖に話しかけ
海では爆発する太陽を
僕は見た


28 March 2001

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螺旋


夕焼けが倒れて
僕が森の木になり
そして土に還る日にも
君の愛に包まれている
僕は

海辺を歩き
けがをした地球にさわり
体温は確かめる
遠くの君の愛に包まれている
僕は

野原のはずれの小屋で
暮らしていた
地球を皆で回していた
影が血を流し
叫んでいる時にも

鳥が羽へ帰るように
道は歌い
僕がいまも持っている愛は
君の愛に包まれている


24 March 2001

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イルカがほめる


青い王朝の朝
手をつなぎ
割れている聖杯を見る
海が零れ落ちている床を
イルカがほめる

もう一度
魂の村へ還ると
皇女が網を手入れし
記憶を地球から遠ざける
イルカが微笑むので

私たちのダイヤが
車で運ばれ
遠い未来の煙突の近くで
虹になっている
もう一度燃えて

ここに息の塔は立ち
息子たちの青い眼は
砂漠から赤を運び
スカーフの中の風を
手に乗せる

イルカがいるから
大工は家を建て
肘をしまった
海の宝石である星よ
もうひとりの星よ


December 7, 2000


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