Oriental ABBAland

『クリスティーナ・フローン・ドゥベモーラ』レポート

 ストックホルム在住のReiko Fujita-Jespersenさんから,ミュージカル『クリスティーナ・フローン・ドゥベモーラ』(Kristina från Duvemåla)をご覧になった感想をお寄せいただきました。ご本人からOriental ABBAlandへの転載許可をいただきましたので,以下にご紹介したします。

 なお,『クリスティーナ・フローン・ドゥベモーラ』は,スウェーデンからアメリカへの移民をテーマにしたビルヘルム・モベリ(Vilhelm Moberg)の有名な小説を,ビョルンとベニーがミュージカル化したもの。1996年10月のプレミアから1999年6月の千秋楽まで,合わせて671回の公演が行われました。


 2月12日『Kristina fraan Duvemaala』のミュージカルの会場でベニーを発見!! ベニーは、チケット売場で並んでいるだれかと長話したり、とにかく終始にこにこしながらその辺にいる人たち(友だち?)と雑談してました。

 いつも感心するのが、スウェーデン人の態度です。私もよくストックホルムで有名人を見かけるのですが、スウェーデン人は決して振り返って見たり、近づいて話しかけたりしません。ベニーもまったく一般人と同じように私たちの周りをうろうろしてましたが、だれも振り向いてベニーを見る人はいませんでした。もちろん、私もそ知らぬふりをしました。これが日本だったら、ファンでもない人の握手攻めにあったり、断りもなく写真を撮られたりで、きっと不愉快な思いをされたでしょうね。

 さて、会場入口では、Duvemaala地方の民族衣装を着た係の人がチケットをもぎながら席の案内をしてました。私たちの席は真ん中のちょうどミュージックミキサーの上、最高にいい席でした。心配してたほど空席も目立ちませんでしたよ。

 ミュージカルが始まって驚いたのは、さっきまで目の前でチケットをもいでいたDuvemaalaコスチュームの係の人…だと思っていたお兄さんは、実はバックコーラスの出演者の1人で、Duvemaala住民といっしょに歌っているではないですか!! ちょっとおしゃれな演出ですね!?

 おもな出演者は、

Karl Oskar
Anders Ekborg
Kristina(Karl Oskarの妻)
Louise Raeder(Helen Sjoeholmじゃなくて残念!!)
Robert(Karl Oskarの弟)
書き落とし(でも、いちばん有名なPeter Joebackではありませんでした)
Ulrika(未婚の母)
Astrid Rang
Elin(Ulrikaの娘)
Ylva Nordin(Linda Ulvaeusじゃなくて残念!!)

 お話は、1800年代、南スウェーデンのSkaane地方から始まります。常に地主に虐げられ貧困にあえぐ農民Karl Oskarとその家族が、Kristinaの反対を押し切って自由と富を求めてアメリカに渡るというものです。スウェーデンでは、この『移民の書』は高校で必ず読まされる純文学で、日本の芥川龍之介といったところでしょうか…。

 『Kristina fraan Duvemaala』のホームページにもありましたが、スウェーデン人にとってこの原作はほとんど聖域に属する偉大な作品なので、特に詞を書いたビョルンは「恐れ多くも、Mobergの作品を僕なんかが詞にしていいのかな?」と、かなり神経を使ったようでした。でも、さすが! ビョルンとベニーはMobergの作品をよく把握しているのですね! 音楽&詞は文句なく壮大なテーマの中に自然に溶け合って、概して原作のイメージを崩すことなく仕上がっていたように見受けられました。その上、原作にはないB&Bのコミカルなオリジナルがあったり(=のみの歌、コミュニケーション・ミスの歌など)コンサートとしてたいへん満足でした。が、…。

 1000ページ近くもある原作をたったの4時間にまとめるのはちょっと無謀かな?と思ったところもなかったわけではありません。(これはビョルンのせいではないのですが)例えば、アメリカで土地を手にして得意顔のKarl Oskarに対して、アメリカ暮らしの長い猟師が「インディアンから土地を搾取しておいて、何が『買った』だ!」とやり合うところなど(Kristinaですらインディアンを野蛮人呼ばわり…。当時の白人はみんなこうです)、ほんとはとても深く考えるべき場面もほんのちょっと触ったくらい…。しかたないんですけど。

 それに、バックダンサー、ぜったいにミスだ! Cullberg ballet(日本にもよく来る、スウェーデン国立バレエ団)じゃないんだから、あのパジャマか囚人服みたいな服で抽象的な踊りをするのはやめてほしい、はっきり言って見苦しかったです。

 踊りだけではなく、舞台もかなりシンプルな装置であまりドラマチックな変化もなく、盛り上がりに欠けたと思いました。例えば、白地に茶色のしま模様が入ったビニールテープが天井からどどーんと大量にぶら下がってきていわく、“故郷に似た白樺の林”だそうで、、、。ちょっと、安上がりすぎじゃないかしらン?

 まあ、私は腰痛で4時間も座っているのが地獄のように苦痛だったのと、友だちはインフルエンザで39度の熱があったので、あまり楽しく見れなかったので、よい感想が持てなかったのかもしれません。もう一度健康体で見たいものです。

 ちなみに私の学校の先生はまったく逆の意見で、「4時間が、たったの30分に感じられ、すべてが感動だったわぁ。よくここまでシンプルで、しかもドラマチックにまとめたわねぇ〜!」だそうです。

 個人的には、Kristinaより、売女呼ばわりされた肝っ玉母さんのUlrikaのど迫力に感動しました。Kristinaもよかったですが、CDの方がちょっと上かな? 個人的にいちばん悲しかったところは、Kristinaが死ぬところではなく、「息子が迎えに来る!!」とそれだけを生きがいにアメリカに渡った年老いた女性が、何年も何年も息子に会えることなく(おそらく息子はすでに死んだものと思われる)、アメリカに上陸したときと同じ姿でとぼとぼ悲しそうにさまよっていたところです。(何だか私自身の親に見えちゃって…)

 舞台がハケた後、ベニーがまだその辺をウロウロしているのをしり目に(ほんとうは気になってしかたがなかったけど、、、)帰りのバスに乗ると、さっきのDuvemaala住民(出演者)も同じバスに乗っていました。でも、衣装はジーンズにコートというすっかり現代人に戻っていました。Kristinaと共に渡った私のアメリカへの旅も、そこで完全に終局を迎えました。


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original text written: 1999-03-06
last updated: 1999-08-20
by Reiko Fujita-Jespersen

page designed: 1999-08-26
last updated: 2003-10-19
by MURAKAMI Chifumi