産業公害の現状


中国日本
SOx貴陽0.45mg/m3
北京0.14mg/m3
0.31mg/m3
(川崎の最悪期[昭和40年代前半]
NOx大連0.11mg/m3
北京0.10mg/m3
0.10mg/m3
(東京の最悪期[現在])
BOD太原市18mg/l49mg/l
(隅田川の最悪値[昭和30年代後半])
COD丹河1440mg/l18mg/l
(夢の島大橋付近の最悪期)
廃棄物産業廃棄物6.2億t/年
一般廃棄物1.5億t/年('92)
産業廃棄物4.0億t/年
一般廃棄物0.5億t/年(平成3)

中国の環境の実態

1980年代以降の急速な経済成長の結果、現在、中国は世界最大の産業公害国となっており、 中国の経済成長率の高さと人口、面積の大きさを考えた場合、中国の公害による地球全体の 環境に対する影響は極めて憂慮すべきものがある。

大気汚染については発電所等から排出される硫黄酸化物、煤塵、粉塵が主因となっている。

これに対して技術水準が低く、安価な集塵装置は普及しているが技術水準が高く、高価な排煙脱硫装置の普及率は極めて低い。

そのため硫黄酸化物は、我が国が過去に経験した代表的公害である川崎公害が最悪となった昭和40年代前半の水準を超える状況となっている都市もあるなど、住民への健康被害が深刻化しているほか 、酸性雨の影響も各地で顕在化しつつある。

また、窒素酸化物についても、現在の東京の水準を超える状況となっている都市が存在する。

水質汚濁については、化学工場、製鉄所、製紙工場などから排出されるアンモニア性窒素などが主因と なっている。

これに対して排水処理装置の普及率は低く、都市部の河川では我が国が過去に経験した代表的公害である隅田川公害が最悪となった昭和30年代後半の水準を超える状況となっている。

廃棄物については、鉱業所などの残滓などが中心となっており、産業廃棄物の排出量が生活廃棄物の排出量を大きく上回っている。

産業廃棄物の再利用率は4割程度となっているが、大半がオープンダンピングされ、深刻な汚染が生じている。

中国
1.現状
a)大気汚染原因物質の硫黄酸化物、煤塵、粉塵の濃度が非常に高い、大都市、重工業地域で特に深刻
[硫黄酸化物] 漸増傾向(1991年1622万tから1994年1825万tへ)。SO2濃度は四日市公害の最悪期と比較して貴陽が1.8倍(0.45mg/m3)、重慶が同じ位(0.27mg/m3)で、健康被害深刻に。酸性雨の被害も顕在化。
[窒素酸化物]大連、北京でのNO2測定値(各々0.111mg/m3、0.0997mg/m3)は、東京都で汚染が一番ひどかった。1978年のレベル(0.08mg/m3)を上回る。
[その他の物質]SPMは北京、(0.2〜0.4mg/m3)、上海(0.2〜0.3mg/m3)とも大幅にWHOのガイドラインを上回った状態が続いている。
b)水質汚濁汚水排出量は漸増(1991年336億tから1994年365億tへ)。郷鎮企業を除く産業排水量は減少した。(同236億tから216億tへ)が、処理技術、有害物質規制に問題があり、 汚染物質排出量は減少せず。
[河川]北部、都市部の流域で進行。水銀濃度が高い所もある。太原市のBOD値(18mg/l)は1994年の綾瀬川と同レベルだが、丹羽河のCOD値(1436.8mg/l)は夢の島 大橋付近の汚染ピーク時の80倍近い。
[湖沼]代表的湖沼の2割以上に富栄養化の問題。水銀濃度が高い所もある。
[地下水]飲用水質基準に適合する原水は30%。北京、上海、天津などでは地盤沈下の問題があるがその規模は不明。
[沿岸地域]
[その他]
C)固形廃棄物
[産業廃棄物]1994年の発生量は6.2億t(固形廃棄物全体の80%)で、1990年以降横ばい。尾鉱(30%)、石灰岩(20%)、粉塵煤(16%)、冶金残渣(11%)。 大半はオープンダンピングや、オープンバーニング。毎年5000万tの投棄があり、うち40%は河川、湖、海への直接投棄。再利用率は上昇しているが、技術、 資金不足で無毒化処理率は低い。カドミ塩工業から出る年間10数万トンのカドミ塩は大部分が野積みで放置。
[都市廃棄物]同1.5億t(同19%)だが、年率約10%で増加。多量の石炭焼却残渣が含まれているのが特徴。
2.原因
a)大気汚染主因物質は硫黄酸化物、煤塵、粉塵。
主因産業火力発電所、製鉄所、石油化学工場など。
[硫黄酸化物]民生分野26%、工業分野74%(電力・蒸気51%、建築原材料等9%、化学8%、鉄鋼及び鉄鋼圧延加工6%)。SO2排出の90%は石炭の燃焼による。
[窒素酸化物]
[その他の物質]
b)水質汚濁最大原因は産業排水。主因物質はアンモニア性窒素、フェノール。
主因産業化学23%、鉄鋼及び鉄鋼圧延加工14%、製紙及び紙製品10%、電力・蒸気10%、食品・飲料・煙草8%等。
[河川]
[湖沼]
[地下水]
[沿岸地域]
c)固形廃棄物
[産業廃棄物]排出量の多い順に鉱業、電力・蒸気供給業、鉄鋼業、この3業種で産業廃棄物全体の約77%を占める。
都市廃棄物
3.健康被害・経済的被害
a)大気汚染
被害状況1949-79年、北京で発生。死亡原因の第2位を占めるガンの中でも大気汚染による肺ガンが最も多い。工場集積地で発生率が高い。
訴訟・賠償の状況不明
被害状況鉛容工場風下の住民に鉛中毒症状発生。大気中の鉛濃度は平均3.5μg/m3/日(国基準の7倍)。
訴訟・賠償の状況不明
b)水質汚濁
被害状況1983年、重慶で発生。重慶製糸工場と天原化学工場からの排水から塩酸気体が発生。付近で作業中の労働者12名が中毒。
訴訟・賠償の状況市環境保護局が2工場に対し、無過失責任による賠償金支払いを命じた。
被害状況1983年、場所は不明。アンモニアを含んだ工場排水により魚が大量死。
訴訟・賠償の状況工場は損害賠償。
被害状況1982年、桂林で発生。発電所による養魚池と水田への被害。
訴訟・賠償の状況桂林中級人民法院が発電所に対し31万元の賠償金支払を命じた。
被害状況吉林省、松花江で発生。水銀汚染で、水俣病に似た症状が発生している。
訴訟・賠償の状況不明
c)固形廃棄物廃棄物による汚染深刻。汚染による損害は年間約200億元。廃棄による損失及び有用な廃物資源の価値は推定約300億元。
1.環境関係法憲法('78)
環境保護法('89)
建設千節項目環境保護管理弁法('86)
a)大気汚染大気汚染防止法('78)
b)水質汚濁水汚染防止法('84)
c)固形廃棄物
産業廃棄物

行政組織国務院環境保護委員会:環境保護行政の中の最高権威。国務院副総理を主任として、国務院の部や他の委員会の部長・主任、副部長・副 主任など、主要国有企業の幹部等から構成されている。環境保護に関する施策の審議や各年の環境業務の報告、政策方針の検討を行う。
国家環境保護局:国務院の直属機関。環境保護に関する法律の執行、監督を行い、環境保護基準制定も行う。環境保護計画の制定と その執行の検査・催促する。国務院の各部門と各省、自治区、直轄市の保護行政を指導。
3)規制値
a)大気汚染
環境基準

二酸化硫黄
任何一次
24時間値
年日平均
0.15/0.50/0.70(1級/2級/3級)
0.05/0.15/0.25
0.02/0.06/0.10
二酸化窒素
任何一次
24時間値
0.10/0.15/0.30
0.05/0.10/0.15
一酸化炭素
任何一次
24時間値
10/10/20
4/4/6
オゾン
1時間値0.12/0.16/0.20
3)規制値
a)大気汚染
排出基準

SOx(gSO3/Nm3)0.26〜06
NOx(g/Nm3)
CO(g/Nm3)
鉛(g/Nm3)0.034〜0.047
水銀(mg/Nm3)0.01〜0.02
カドミウム(g/Nm3)
3)規制値
b)水質汚濁
環境基準

BOD(mg/l)4
SS(mg/l)
DO(mg/l)6
大腸菌群数(MPN/100ml)1000
COD(mg/l)15
全窒素(mg/l)1
全リン(mg/l)0.05〜0.1
3)規制値
b)水質汚濁
排出基準

カドミウム0.1
シアン
鉛及びその化合物1
六価クロム化合物0.5
砒素及びその化合物0.5
水銀及びその化合物0.05
アルキル水銀化合物N/D
PCB
BOD30〜300
COD100〜500
SS70〜400
0.5〜2
亜鉛2〜5
4)実効性
担保方策
(1)許認可

a)大気汚染汚染物質排出工場:―汚染物質の排出、処理施設、汚染物質の種類、数量、濃度の報告義務あり
―汚染物排出許可証制度:環境保護局が、上記の申告に従い審査をし、許可証を発行。
―汚染発生企業に対して期限を設定。
b)水質汚濁大気汚染に準ずる
c)固形廃棄物越境移動について審査、許可を実施
原子力発電汚染物排出の許可証の制度あり
(2)罰則行政罰、民事罰、刑事罰に区別。適用は事例の条件によって異なる
―行政罰:警告、罰金について規定。検査非協力、虚偽の申告が処罰対象。公害防止装置を接地していない場合、工場施設の使用禁止、 生産中止
―民事責任:無過失責任制度。汚染者の過失の有無に関係なく危険を排除し、直接損害を与えた組織及び個人に対し賠償責任を負う。
―刑事責任:公私の財産への重大な損失、人身の死傷が要件となり、直接の責任者のみが訴追の対象
汚染物質排出費:対象:廃水、廃棄、固形廃棄物、騒音、放射線廃棄物など5種73項目。基準を超えて汚染物質を排出する場合、その種類 、量によって料金を支払う。支払額は二酸化硫黄の場合0.2元/kg。
―排汚費は、生産コストに計上可能
a)大気汚染汚染発生企業で期限を過ぎても超過排出するものに関して罰金、操業停止、閉鎖を命じる。
b)水質汚濁大気汚染に同じ
c)固形廃棄物
5.インセンティブ付与策公害汚染防止の特別融資制度(無償・有償)
汚染対策特別基金
廃棄、廃水、廃棄物を総合利用する産品の利潤は5年間無税
環境保全投資資金の借入金について、所得税の課税対象から排除
環境保全投資に対してゼロ税率
注:任何一次はいかなる一回の測定値も越えてはならない数値。採取時間は物質により異なるが不明。
ppmからmg/m3への変換は以下の式によった。
SO2:mg/m2m * 22.4/64=ppm, NO2:mg/m2m * 22.4/46=ppm, CO:mg/m2m * 22.4/28=ppm, O3:mg/m2m * 22.4/48=ppm
中国の数値は左から1級/2級/3級。
1級:自然保護区、名称、旧跡などの区域に適用
2級:住宅地域、商業、交通・住宅混合区域などに適用される。
3級:大気汚染度が比較的高い都市及び小都市、鉱業区域または都市交通の中枢、幹線道路に面する区域に適用される。
注:排出基準は産業の種類(発生源)、排出手法(煙突の高さなど)、工場の設置時期などで異なる。
注:数値の抽出は第V種(主に集中的住生活飲用水のための水源地がある第2級保護区、一般的な魚類保護区及び水泳区に適用する)
注:N/Dは検出してはいけないことを示す。

中国における環境対策機器(発電用電気集塵機)の普及率

中国では10万kw以上の発電所には集塵装置が義務付けられている。 火力発電所ボイラー内、53.5%が電気集塵機を設置している。(94年) 集塵率99%と効率のよい電気集塵機が普及しており、94年の6MW以上の石炭火力発電所の平均集塵効率は95.17%となっている。 なお、排煙脱硫装置については、商業ベースは四川省洛黄発電所(360MW*2基)に日本製の設備が設置されているとの 情報があるのみ。 (参考) 電力網内6MW以上の石炭火力発電所の煤塵処理状況

19901991199219931994単位
火力発電設備容量76011837209082698811108275MW
年発電用石炭2388726168281623062433131万t
煤塵排出量363364385377398万t
平均集塵効率94.2194.7494.8295.0695.17
(出展)中国電力工業部資料より
中国における排汚費と環境対策費用の比較(硫黄酸化物)

[排汚費]
二酸化硫黄排出量1kがあたり0.2元(3円)

[環境対策費用(試算)]
<仮定>
  排煙脱硫装置
          価格:11000円/KW(日本の50%の水準)、耐用年数:10年
          ランニングコスト:設備価格の30%/年、金利負担:7%/年
  中国の石炭特性  硫黄含有率:3%、発熱量:6000kcal/kg
  中国の熱効率    24%

<試算結果>
  二酸化硫黄排出量1kgあたり  約16円(排汚費の約5倍)
  *一元=15円で試算。
中国環境産業の現状

単位数従業員数(万人)生産額(億元):(円換算額)日本の環境装置生産実績(93年度)
水汚染処理設備138623.8238.22(496億円)6167億円
大気汚染処理設備137121.4745.27(588億円)3090億円
固形廃棄物処理設備1002.92.38(31億円)5654億円
騒音振動制御設備4089.286.20(81億円)106億円
(出展)中国の環境産業  中国環境情報広報(96年)(データは93年)(1元=13円)
      日本の環境装置生産額  (社)日本産業機械工業会調べ
円借款―中国に対する環境協力
79年度以降の3次17年にわたる対中国円借款の中で、環境分野に対するものは計4件571億円となっている。 しかしながら、その全ては、上下水道整備案件である。第4次円借款前3年(96〜98年度)においては、環境 円借款が重点分野に位置づけられており、計15件879億円が予定されている。この中には柳州酸性雨対策事 業などの産業公害保全案件が含まれている。
対中国円借款 分野別供与総括表(単位:億円)
ラウンド第1次(79〜84) 第2次(84〜89)第3次(90〜95)合計 第4次前3年(96〜98)
分野件数供与額件数 供与額件数供与額供与額 件数供与額
交通
鉄道313003931579296 192324480229390116
港湾27072131260236 5509624761533016
都市交通


1401 11572197122805
道路





22393239123657
航空





34886488344749
エネルギー 水力1102859163 63681496911002
火力





411071411077276114
揚水





113021301


ガス


115031 5712071



通信


1350 625096859532515
環境 上水道


22815 12643545363897
下水道


1260


260


環境改善










94909
農業 灌漑





1115111513108620
化学肥料





610631310636



多目的ダム



1118 2

118121072
地域開発





369896984


商品借款1130039





13007


その他


2738141 20339416


合計 73309
175400
418100
16809
405800
注1:第1次は実行ベース、第2,3次は交換公文ベース。第4次は総枠決定時の概算見積もり(但し予備費文を含まず。
従って合計は5800億円にならない)
注2:四捨五入の関係で合計が一致しないことがある。
注3:「輸出基地開発計画(88年度、700億円)」は、ラウンド制の枠外で実施されたが、
本表では第2次に合わせ集計した。
環境案件 (第4次円借款前3年供与予定)
案件名 供与額 概要
柳州酸性雨対策 105.4億円 SO2対策として、主要排出源である火力発電所に脱硫装置を設置する
本渓大気汚染対策事業 102.8億円 本渓市の環境改善のため、廃棄処理、廃水処理などの設備を設置する
蘭州都市総合環境改善 77.4億円 蘭州市の環境改善のため、都市ガス供給事業、熱供給事業、下水処理事業、上水道事業を行う
呼和浩特・包頭大気汚染対策 150.0億円 熱集中供給、都市ガスパイプラインなどの設置
瀋陽大気汚染対策 50.0億円 熱、電気集中供給
河南淮河汚染総合処理 1.1億円 工場排水処理等
黒龍江省松花江都市汚染処理 0.1億円 工場排水処理等
湖南浙江流域汚染対策 2.2億円 下水、排水処理等
吉林松花江都市汚染処理 1.4億円 工場排水処理等
その他6件(上水道案件) 389.2億円
合計 879.6億円
中国政府の環境問題への取り組み
1995年3月の全国人民代表大会で承認された第9次5ヶ年計画(1996〜2000年)において、以下のとおり言及されている。
2000年に環境汚染と生態系破壊の激化傾向が基本的に抑制され、一部都市と地区の環境が質的に改善されるように目指す。
工業汚染の規制を強化し、末端での対策を主とすることにより、生産の全過程での抑制に徐々に転換する。
酸性雨規制区、二酸化硫黄規制区の汚染対策を重点的に実施する。
国土の生態系環境を保護し、生態系農業を大いに発展させる。
土壌流亡地区の総合対策と森林植生の回復、発展を加速し、農地汚染と水質汚染を規制する。
円借款における今後の課題
1、経済インフラ整備案件と比べて、経済開発に直接、目に見える形で貢献しないため、途上国からの要請が出難い。
2、環境分野の中でも上下水道整備案件などが中心となっており、脱硫、脱硝装置設置などの産業公害案件は極めて限られている。
3、日本→途上国政府の形で円借款が供与される場合にも、実際に途上国の機関が融資する際の金利が高いため、 借入のインセンティブが働きにくい。