訳語および用語の説明

「予防原則」と訳している元の英語は、「precautionary principle」のみである。

     precautionary principle」が用いられている条約などには、Third North Sea Conference 1990Bergen Declaration on Sustainable Development 1990Maastricht Treaty on the European Union 1994Helsinki Convention on the Protection and International of Transboundary Watercourses and International Lakes 1992がある。

     the principle of precautionary action」はUnited Nations Environmental Programme 1989PACOM Recommendation 1989Commonwealth of Massachusette House Bill No.3140 1997に、使われている。

「予防的アプローチ」「予防的方策」「予防的措置」「予防的対策」に当たる英語は以下のようにいくつかあり、それぞれの出典を示した。

     precautionary approach」はSecond North Sea Declaration 1987The Rio Declaration on Environment and Development 1992に用いられている。

     precautionary measures」はOzone Layer Protocol 1987Second World Climate Conference 1990Climate Change Conference 1992に使われている。

     precautionary action」はOECD Council Recommendation 1991にみられる。

さらに用語、「予防原則」と「未然防止(preventive action)」については、Maastricht Treaty on the European Unionでは以下のように使い分けている。

Community policy on the environment ・・・shall be based on the Precautionary Principle and on the principles that preventive actions should be taken, that environmental damage should as a priority be rectified at source and that the polluters should pay

つまり、「予防原則」および「未然防止対策の原則」、「環境被害は発生源で最優先に改められるべき原則」、さらに「汚染者負担の原則」に基づく、と述べられている。「予防原則」と「未然防止」は双方が指針の基礎として導入されることを明記している。

. この「未然防止」は、日本では1970年代に導入された化審法の目的に「この法律は、難分解性の性状を有し、かつ人の健康を損なうおそれがある化学物質による環境の汚染を防止するため、・・・」として用いられている。しかし、それは現在世界で議論されている「precaution」ではなく、「preventive action」の方である。こうした用語の定義や訳語の厳密さは大切ではあるが、本質は、「有害影響がある可能性が非常に高いにもかかわらず、科学的不確実性が存在し、因果関係が科学的に証明できない有害事象あるいは化学物質の存在に対して、時間を前倒しして、ルールにもとづいて規制し、被害を最小にする」ことなのである。ルールとは、EUが作成したような、「予防原則適用の指針」のことである。

経済産業省では、「未然防止」は1992年のサミットの「precautionary approach」と同義であると述べているようだが、それは上に述べたような理由から、30数年前から「1992年のサミットの予防的アプローチ」が「化審法でいう未然防止」として法律の中に含まれていたかのように、欺いてはいけない。「未然防止」は、20世紀の化学物質管理の方法であり、21世紀には当然、先進国では行われるべきである。それに加え本当の意味での「precaution」が必要であると、早期警告に対して手が打たれずに発生した公害や薬害が教訓として教えてくれている。私たちはそれを学習して賢くなり、生活の質の向上のために一歩前進しなくては、これまでの公害被害者に対して申し訳ないと思う。

 なお、20028月、ヨハネスブルグにおける国連環境開発サミットでは、EUが「precautionary principle」を盛り込むことを提案し、日米が反対した、と新聞は報道している。

 


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