欧州における予防原則ワークショップの紹介 前編

紹介にあたって
2001年5月9-10日、欧州委員会主催のワークショップThe Application of the Precautionary Principle in the European Unionのシンポジウムが、ヘレンブルグ/シュツ ットガルトで開かれた。参加16ヶ国、参加者約100名。参加者リストによると、ドイツ 46、英国21、スイス6、オーストリア3、アメリカ3、チェコ3、デンマーク2、ベル ギー、スウェーデン、オランダ、フランス、ルクセンブルグ、スペイン、ハンガリー、イ タリ-、フィンランド各1、およびEC関係者4となっている。また、その分野は、ジャ ーナリスト、大学人(経済、法律、政治、科学)、各国政府関係者、研究者、環境NPO など多彩な顔ぶれである。会議後、ドイツ技術評価センターのKlinke氏、Losert氏およ びRenn氏によってまとめられた報告書はあらゆる分野からのアプローチがなされており、 専門性の高いものとなっている。内容は、1.はじめに、2.予備的なプロジェクト 「PRECAUPRI」の提案、2.1リスク評価における3つのチャレンジ、2.2予防評価 法の開発、2.3リスクマネイジメント:適切なアクションの選択、3.参加者からのコ メントと知見、3.1規制の展望、3.2法制化の展望、3.3工業界の展望、3.4環 境グループからの展望、4.建設的な提案、となっている。本号では、1.と2.を紹介 させていただく。

欧州連合(EU)における予防原則の適用について

1.はじめに
欧州の環境政策はEC条約172(2)条項1)に確定されているとおり、予防原則(the precautionary principle )を基本にすべきである、と欧州委員会はその政策文書(訳者 注:水情報20(6)、19-21を参照)の中で規定している。その欧州政策の中で、「予防 (precaution)」は、人あるいは環境に対して潜在的に害を引き起こすかもしれない有害 な物質が存在するが、有害な影響についての決定的な証拠が(まだ)入手出来ない状況に あっても、規制行為を採用することが出来る、と述べている。この数年来、伝統的なリス クに基づいたアプローチの提唱者たちと、予防に基づいた新しいアプローチの提唱者たち は、それぞれ彼らのアプローチの正当性を主張する激烈な議論をし始めている。リスクに 基づいたアプローチの提唱者たちは、「予防戦略は科学的な結果を無視し、独断的な政策 決定を導くことになる」、と主張する2)。予防的な(precautionary)アプローチの提唱 者たちは、「予防は物質あるいは活動の禁止を短絡的に意味するのではなく、更なる知見 と経験が蓄積されるまで、リスキーな活動あるいは技術を、緩やかに、一歩一歩着実に削 減させることを意味している」、と主張してきた3)。当然のこととして、環境グループ は予防的なアプローチの旗の下に集まってきた。一方でほとんどの工業界と商業界ではリ スクに基づいたアプローチを提唱している。今日まで、この問題が解決せず、この論争は 1998年WTO上訴判決と共に更に顕著になってきた。欧州共同体は、ホルモン処理され た輸入牛肉の制限を予防的なアプローチによって正当化できる十分な証拠を提供すること が出来なかった。
予防的なアプローチの適用は恒久的なことであり、政策決定と国際貿易の間の悪影響 がもたらされる可能性があるため、この議論における主張は、単に理論的か学術的かとい うだけではない。選択されたアプローチに従って、規制対策がかなり異なり、また、経済 競争力、公衆衛生のレベルおよび環境の質が具体化する。
具体的な予防的手段を達成するために、EUの政策文書は予防的なアプローチを適用す るためのクライテリア(基準)の明白な定義が必要である、としている。これらのクライ テリアは以下のとおりである。

・整合性と一貫性のあること
・差別のないこと
・特異性(随意ではなく)
・「脅威」とのつりあい
・便益考慮を含むこと
・実用的であること 
・欧州の法律に合致していること
・国際的な正当性があること

プロジェクト「PRECAUPRI*(訳注)」の仕事は、予防原則の意図に合致し、上に述 べたクライテリアを満たす条項を概念化し、組織化するための枠組みを開発することであ る。それゆえ、国際的な交渉および国際法の中で承認され、受け入れられるような、欧州 における一つの法制化された予防評価を、EUは必要としている。

2.予備的なプロジェクト「PRECAUPRI」の提案(CTA*、SPRU*、ETH*)
2.1リスク評価における3つのチャレンジ
予防の議論では、皆がそれぞれに何か違ったことを話している、という問題に直面し ている。そこには「予防」という言葉の定義が、欧州の法律でも、科学の中にも、一般に も受け入れられていないからである。我々の概念では、「我々が不確実性に直面した際に、 もし、潜在的なリスクまた/あるいはその存在の可能性を知ったとき、あいにく潜在的な ネガティブな影響が十分に知られている仮説がなく、まだ、最終的に有害な経験的証拠が ないとき、慎重でかつ堅実な対応の選択」として「予防」を定義する。慎重でかつ堅実な 選択とは、潜在的なリスクを評価するために実際の手続き上のステップを用いることによ って判断される。このような評価は具体的なリスクの特徴(内在する危険、分布のつなが り、社会動向の可能性)を判断することを目的とすべきであって、結果の可能性には焦点 を合わせない。予防的な手段は、代替品の開発から、その利用の封じ込めを越えて、 ALARA('as low as reasonably achievable'合理的に成し遂げられる限り低く)、 BACT('best available control technology'入手できる最高の規制技術で)、および技術的 な基準のような制度的な原則にまで広がりを見せている。予防には更に幅広い研究の努力 が必要とされるだろう。
包括的なリスクマネイジメント戦略は、それは社会におけるリスク問題の、複雑さ、 不確実性、そしてあいまいさの扱い方を特徴付ける3つの主なチャレンジに焦点を合わす べきである。

・ 因果関係における複雑さは、たとえば気候変動の場合(原因と結果の間に長い潜伏時 間があるため)、喫煙とアルコール(個別変動)の場合、既知の発がん物質、水中の 病原体などである。複雑さとは、潜在的で多様な候補物質とある有害影響の因果関係 を示す関連の特定化や定量化の難しさである。

・ 不確実性は、1)個別の標的間の変動値、2)測定と推定の誤差、3)真の統計学的 な関係、および4)システムの限界と無知、に関係している。一例として、難分解性 有機汚染物質(POPs)、内分泌かく乱化学物質(EDCs)、牛海綿状脳症(BSE)およ びクロイツフェルト・ヤコブ病等が挙げられる。不確実性とは、推定された因果の連 鎖についての陳述の中で、信頼性を低下させてしまうものである。

・ 結果の解釈におけるあいまいさは、たとえば、核エネルギー、弾道弾迎撃(ABM)シ ステム、非電離放射線の場合である。あいまいさは同一の観察あるいはデータ評価に 基づいた(合理的な)判断の変動幅を示す。リスク分析とリスクマネイジメント分野の 科学論争の多くは、方法論、測定法あるいは用量−作用関係における相違までは言及 してくれないが、あいまいさが人の健康、環境保護あるいは社会的な受け入れやすさ に対して何を意味するのか、という疑問には答えてくれる。

それゆえ、リスク評価における手続き上の我々の最初のステップは、我々がどのくら い多くの可能性や潜在的なダメージの情報をもっているか、という核心的な疑問に的を絞 ることである。もし我々が多くを知っているのなら、通常のリスクアセスメントは最初の 選択手段となるだろう。しかし、もし、我々がほとんど何も知らないで、可能性と結果の 両方の展望より不確実性が優先しているなら、予防評価法が必要とされる。この場合、 我々は、不確実性とあいまいさの局面を考慮して、潜在的リスクを分類する必要がある。 3つの主なリスク評価戦略(吹き積もった複雑さ、基礎にある不確実性および生み出され るあいまいさ)から始まって、我々は、この3つの戦略にあわせて、リスク評価の3つの タイプの対話に導く3つの手順を確認することが出来る。

まず第一に、複雑さの大きさを確かめるために、発生源と影響の間の因果関係が特定 されることと、インパクト、蓋然性および潜伏期間の影響の科学的な分析調査とが行なわ れる。このような場合に、複雑さを適切に削減させる科学的な認識基盤を開発することが 必要である。認識論的および現実的責任を遂行するために、認識論型の対話における科学 者と専門家の能力が要求される。

第二に、不確実性に対処するために、代替になるクライテリア、および過大な警告と過 小な警告の間のトレードオフ(脅威を判定し、不確実性とバランスさせること)が必要で ある。ここで、われわれはリスクのための費用を支払う人々と、削減のための費用を支払 う人々とのあいだの量的な評価を反映(熟慮?)する対話が必要である。このような反映 型の対話は、事実の説明、知見を明らかにすること、優先すべきものの価値の評価、およ び改善のための問題や提案の標準となる評価、に関係している。第三に、あいまいさの 次元を識別するために、トレードオフの価値と広範囲な知識が要求される。このチャレン ジはすべての利害関係者や影響を受ける市民らが参加する、参加型の対話を必要としてい る。既に政策決定が確立されている手順ばかりでなく、新しい手順、たとえば市民諮問委 員会や市民陪審員の設置が、あいまいさを処理する方法となり得る。

2.2予防評価法の開発
ドイツ地球気候変動諮問委員会(WBGU)は、1998年の次報告書4)のなかで、複雑さ、 不確実性、およびあいまいさが存在する状況下でのリスク評価の問題に取り組んできた。 委員会は、リスクのクライテリア(社会科学分野からの専門家を含む)に関していくつかの 専門家の調査グループを組織化し、リスク認知研究から得た主な知見のメタ分析を行った。 議会はまた、英国、デンマーク、オランダ、およびスイスのような諸国における同様のア プローチの文献を調査した5)。以下のクライテリアは、審議と調査の長期間にわたる演 習の結果として選択された。

ダメージの大きさ(死亡、傷害、生産損失等のような自然で有害な影響);
発生の確率(個別あるいは連続的な損失関数の相対頻度の見積り);
不確かさ(異なる不確実性の構成要素に対する全体の物差し);
偏在は、潜在的なダメージの地理的な分散を定義する(世代内正義);
持続は、潜在的なダメージの時間的な拡散を定義する(世代間正義);
可逆性は、ダメージが発生する前に、その状態を復元できる可能性を示す(可能な復元
とは、たとえば、植林や水の浄化);
遅延効果は、初期の出来事と現実のダメージのインパクトとの間に長い潜伏期間があ
るという特性を示す。潜伏期間は、物理的、化学的、もしくは生物学的な特性であろう;
動向の可能性は、リスクの影響を負担に感じている個人やグループが、社会的な矛盾
や心理学的影響を引き起こしており、その個人や社会・文化のリスクとベネフィットとし
て理解される。それらはまた、リスクとベネフィットの配分の不公平性を既に認識してい
ることに起因するであろう;

最後のカテゴリーの「動向(Mobilization)」は、長い審議の過程を耐え抜いた唯一の 「社会的なクライテリア」であった。WBGU提案が多くの専門家やリスク管理者によっ て検討されて、議論された後で、プロジェクト・チームは、コンパクトな「動向指数」を 表明し、それを4つの主な要素に分割することを決めた。:
・不公平と不正義は、時間、空間、および社会的地位を越えて、リスクとベネフィットの 配分に関連して考えられる;
・心理学的ストレスと不安は、リスクとリスク発生源に関連して考えられる(精神測定の スケールで測定されたように);
・社会的な矛盾と社会動向の可能性(リスク規制官庁への政治的な、あるいは公的な圧力 の大きさ);
・非常に象徴的な大きな損失が、金融市場のような他の分野へと反響が及んだ時、あるい は管理官庁における信頼性の損失へ反響が及んだ時、予期されそうな波及効果6)。 同様の分割は、英国政府によっても提案された7)。この提案は、それぞれ2つの主た るクライテリアと3つの準クライテリアを含んでいる:

・「懸念」:恐れ、不案内、および、悪名
・「不満」:不公平さ、負担、および不信

正式なリスク評価プロセスに社会的なクライテリアを含めることは、まだ始まったば かりであり、将来更に多くの改善を必要とする。しかし、この評価プロセスがなければ、 これらの社会的なクライテリアは、あいまいさを扱うために、表面にはでにくい内在する 値となる。

リスク物質に対する我々の最初の評価は、我々がその物質の特性について既に何を知 っているのか、という疑問とともに始まる。ダメージの可能性と確率分布について十分な 証拠が集められているのならば、古典的なリスクアセスメントとリスクマネイジメントへ のアプローチが推奨される。全ての欧州の国々は、明白なリスクに対応したリスクマネイ ジメントを扱うための手続きと制度を確立してきた。予防的なアプローチは、リスクのこ のクラスに対しては必要ではない。

そのような詳細な知識が入手可能ではなく、情報収集と解釈が非常に時間がかかるで あろうと予測されるか、もしくは、不確実性の明瞭なサインがあるかまたは無知ならば (無知はもちろん決して予測されることができないので、しばらくの間同様に情報が入手 可能ではないならば、人は、潜在的に冒険的パスウェイの異なる軌道を探して、各パスウ ェイと関係する程度の知識を調査することは可能である)、問題が発生する。この場合、 その物質の中に埋め込まれた潜在的な影響の大きさを確認するために、代替の物差しが必 要である。この目的のために、遍在、持続、可逆性、およびその他のクライテリアは、潜 在的なリスクを評価し、十分な規制対策を提案するために「良い尺度」を提供するかもし れない。したがって、研究チームは特別な「予防」フィルタ(各々の代替クライテリアの 基準点(ベンチマーク)を定義する)を開発することになろう。

第1のベンチマークは、対策が必要とされる「黄色のエリア」と、対策を講じない 「緑のエリア」の間の境界を表示する。
第2のベンチマークは、ノックアウト(びっくりするような)クライテリア「赤いエ リア」を提供する。万が一、この物質が並はずれた便益に関連していない限り、環境への 放出あるいはそれぞれの科学技術の履行は、許されない(詳細なリスク分析がその“無 罪”を証明するまでは)。
フィルタの第 2 のセットは、社会的なクライテリアとあいまいさの存在に関係する。 再び、研究チームは、いったん、そのリスク物質が環境に導入されれば、社会動向の程度 を測定するフィルタのセットを思いつく。それは、このフィルタがこのように信頼の構築 や公募の特定な施策が勧告される状況から、社会活動の提供を必要としない状況を区別す るような、緑と黄色の間の1つのベンチマークのみを含むであろうかどうか、についてま だ決定されない。「赤のエリア」は、人の健康と環境にいかなる重大な脅威も全く引き起 こさないかもしれないリスクが、社会的苦痛のために禁止されている可能性があることを、 本質的に意味するであろう。
最初の評価プロセス(スクリーニングのための演習の様な)は、主な利害関係者たちを含 む審議プロセスの中で行われる必要がある。それらのリスクはフィルターの2つのセット に従ってスクリーニングされる必要がある。スクリーニングのプロセスは、マルチ‐クラ イテリア・マッピングのような分析技術に基づいている必要があり、一方の広がりと均整、 また、もう一方の精度、柔軟性、透明性、の二つの間のバランスをとることが重要である。

2.3 リスクマネイジメント:適切なアクションの選択
いったん複数のリスクが分類されて、(複雑さ、不確実性、およびあいまいさのクライ テリアに関して)判定がなされると、あるリスクは適切なアクションを選択する必要があ る。それらのリスクが「緑のカテゴリー」に分類されるなら、アクションは必要とされな い。もし、「赤のカテゴリー」に分類されるならば、更に多くの知識を入手し、再評価が 始められるまで、禁止されるべきである。もし、リスク評価が「黄色のカテゴリー」に属 するなら、規制のアクションが要求され、すなわち、そのリスクはあるがままには受け入 れられないが、適切なアクションであるならば、受け入れられる状態することは可能であ る。あるアクショが3つのリスク戦略の一つに役立つにもかかわらず、その研究チームは、 適切なアクションの輪郭を描く手段として多様な方法を推奨している。リスク (複雑さ、 不確実性、またはそのあいまいさ、またはその組み合わせ) を伴う問題のタイプに応じて、 異なった対話のタイプが推薦される。

認識論型の対話
もし、ハザード現象が主として非常に高度な複雑さを特徴としているのであれば、た とえば、難分解性有機汚染物質の気候変動への影響のように、認識論型の対話が必要とさ れる。この対話では、現実的な知識、因果関係、経験的な立証、および不完全な科学的知 識が扱われる。その対話の目的は、その集団に受け入れられ、認識される知識基盤を生み 出すことである。そのような知識は、有能なリスクの専門家と科学者によって最も実行可 能な科学的リスクアセスメントに絶えず注ぎ込まれる。そのような対話の結果、既に実施 に移されているガイドラインの削減や緩和の可能性や、ダメージの可能性を主張すること になる。

反映型の対話
潜在的なハザードの兆候が、たとえば、BSEの場合ように、大きな不確実性と関連し ているのであれば、反映型の対話が必要である。反映型の対話はハザードアセスメントを 含んでいるため、認知基盤が達成されている。最初の評価の結果は、潜在的なハザードと 有害なパスウェイを理解するのを助けるかもしれない。それゆえ、その後、適切なデータ および異なる科学者の様々な論拠をまとめることが重要である。Funtowicz と Ravetz に よる `家系図計画(ペリグリースキームPedigree Scheme)'のような手続きは、現存する 知識を系統立てるために、役に立つであろう。

第 2 のステップにおいて、異なるタイプの不確実性に関する情報は、審議の場に集め られて、提供されなければならない。影響をうける利害関係者と公衆の利益団体の代表は、 疑問となっている問題について確認して、審議の場に招待され、情報を提供される必要が ある。審議の目的は、あまりにも過小な予防措置と過大な予防措置の間の正しいバランス を見出すことである。この質問に対する科学的な解答はなく、それらの利害が予測できな いため、本当に経済的なバランスの手続きでさえ限られている。この対話は、将来、どの くらいの不確実性を人が嫌がらずに受け入れられるか、という疑問に、答えてくれる。そ のリスクは潜在的なベネフィットの価値があるのか? 為政者達、主たる利害関係者グル ープの代表および科学者達はこのタイプの対話に参加すべきである。

政治的な、あるいは経済的なアドバイスをしている委員会(それは政治的オプションを 提案したり評価したりする)もまた、このコア‐グループをアドバイスするために、設立 される。グループの主な仕事は、不確実なリスクを扱う必要のある施策を設計することで あろう。費用‐便益分析、または、技術的な基準のような複雑さを解決するための通常の マネイジメント戦略は、完全ではないであろう。なぜなら、ここの目的は不確実性の状況 下で慎重に対策を行うことにあるからである。慎重にアクションすることは、予期しない 衝撃に柔軟に対応する弾力的な施策を設計することを意図している8)。
弾力なアプローチに合致するであろうマネイジメントツールは、空間的および時間的 な封じ込め(暴露を可逆的にするために)、定期的なモニタリング、機能的な代替手段の開 発、および多様で柔軟な9)投資を含んでいる。ALARA原則(理論的に成就できるぐらい 低く)、BACT ( 最も良い利用可能なコントロール技術で)、または、技術水準のような規 定の戦略も、この管理計画に合致する要素でもある10)。反映型の対話のための主な道具 は、政策立案、調停、仲裁、および多様な価値のありようを交渉する場である、「円卓」 なのである。

参加型の対話

潜在的なハザードの兆候もまた、非常に大きなあいまいさによって、喚起されるなら ば、参加型の対話が必要とされる。この対話は、リスクをバランスさせるプロセス(反映 型の対話)と同様に、科学的リスクアセスメント(認識論型の対話)が含まれる。更に、基 本的な価値と規準が影響を受けるため、参加型の対話はリスクのトレード・オフ分析と幅 広い審議を必要とする。参加型の対話は、影響を受ける人々の利害と価値観に矛盾しない 解決方法を探すための手段として、また、かれらの間の衝突を解決するための手段として かなり有効である。
公平性および環境上の正義の問題、将来の科学技術の発展に関するビジョン、また、 望ましいライフスタイルに関する社会の変化やコミュニティライフに関する好みは、これ らの討論において主要な役割を果たす。そして、既に確立されている法律上の意思決定の 手続きだけでなく、市民諮問委員会や市民陪審のような新しい手続きもまた、このカテゴ リーに属する。この対話は、主観的なクライテリアの重み付け、および結果の解釈を包ん でいる。

正式なタイトルと著作権は以下のとおりである。
The Application of the Precautionary Principle in the European Union
Synopsis of the Workshop on "The Application of the Precautionary Principle" 
in Herrenberg/Stuttgart on May 9 and 10, 2001
Andreas Klinke, Christine Losert and Ortwin Renn*
September 2001
Center of Technology Assessment in Baden-Wuerttemberg
Industriestr. 5 D - 70565 Stuttgart Germany
Phone:	+49-(0)711-9063-0Fax:	+49-(0)711-9063-299 
http://www.ta-akademie.de
*このシンポジウムにはLiz Fisher, Andy Stirling および Ulrich Muller-Herold.からの資
料が含まれている
引用資料
1)European Commission: The Applicability of the Precautionary Principle. 
Communication Paper COM (2000) 1 (European Commission, Brussels, February 2000).
2)F. B. Cross, "Paradoxical Perils of the Precautionary Principle, Washington and Lee 
Law Review, 53, (1996), 851-925.
3)P.G. Bennet, "Applying the Precautionary Principle: A Conceptual Framework, " in: 
M.P. Cottam; D.W. Harvey; R.P. Paper and J. Tait (eds.): Foresight and Precaution. 
Volume 1. (A.A. Balkema, Rotterdam and Brookfield, 2000), 223-227.
4)WBGU (German Advisory Council on Global Change) (2000). World in Transition. 
Strategies for Managing Global Environmental Risks. Annual Report 1998. Berlin et al.: 
Springer. Cf. also A. Klinke and O. Renn, Prometheus Unbound. Challenges of Risk 
Evaluation, Risk Classification, and Risk Management. Working Paper No. 153 of the 
Center of Technology Assessment (Center of Technology Assessment, Stuttgart, 1999).
5)Cf.: Piechowski, M. (1994). Risikobewertung in der Schweiz. Neue Entwicklungen 
und Erkenntnisse. Unpublished paper; Beroggi, G.E.G., Abbas, T.C., Stoop, J.A. and Aebi, 
M. (1997). Risk Assessment in the Netherlands. Working paper no. 91 of the Center of 
Technology Assessment. Stuttgart: Center of Technology Assessment; Hattis, D. and 
Minkowitz, W.S. (1997). Risk Evaluation: Legal Requirements, Conceptual Foundations, 
and Practical Experiences in the United States. Working paper no. 93 of the Center of 
Technology Assessment. Stuttgart: Center of Technology Assessment; Hauptmanns, U. 
(1997). Risk Assessment in the Federal Republic of Germany. Working paper no. 94 of the 
Center of Technology Assessment. Stuttgart: Center of Technology Assessment; Lofstedt, 
R.E. (1997). Risk Evaluation in the United Kingdom: Legal Requirements, Conceptual 
Foundations, and Practical Experiences with Special Emphasis on Energy Systems. 
Working paper no. 92 of the Center of Technology Assessment. Stuttgart: Center of 
Technology Assessment; Petringa, N. (1997). Risk Regulation: Legal Requirements, 
Conceptual Foundations and Practical Experiences in Italy. Case Study of the Italian 
Energy Sector. Working paper no. 90 of the Center of Technology Assessment. Stuttgart: 
Center of Technology Assessment; Poumadere, M. and Mays, C. (1997). Energy Risk 
Regulation in France. Working paper no. 89 of the Center of Technology Assessment. 
Stuttgart: Center of Technology Assessment.
6)These spill-over effects have been the main target of the theory of social 
amplification of risk. This theory was developed by a research team at Clark University 
in the late 1980s. Cf.: Kasperson, R.E., Renn, O., Slovic, P., Brown, H.S., Emel, J., 
Goble, R., Kasperson, J.X. and Ratick, S. (1988). The social amplification of risk: a 
conceptual framework. Risk Analysis 8, 177-187; Renn, O., Burns, W., Kasperson, R.E., 
Kasperson, J.X. and Slovic, P. (1992). The social amplification of risk: theoretical 
foundations and empirical application. Social Issues 48, No. 4, Special Issue: Public 
Responses to Environmental Hazards, 137-160.
7)Environment Agency (1998). Strategic Risk Assessment. Further Developments and 
Trials. R&D Report E70. London: Environment Agency; Pollard, S.J.T., Duarte Davidson, 
R., Yearsley, R., Twigger-Ross, C., Fisher, J., Willows, R. and Irwin, J. (January 2000). 
A Strategic Approach to the Consideration of 'Environmental Harm'. Bristol: The 
Environment Agency; Kemp, R. V. and Crawford, M. B. (August 2000). Galson Sciences: 
Strategic Risk Assessment Phase 2: Development of Environmental Harm Framework. 
Oakham: Galson.
8)A. Stirling, A., "Risk at a Turning Point?" Journal of Risk Research, Vol. 1, No. 2 
(1998), 97-109 and WBGU (2000), 289ff.
9)D. Collingridge, "Resilience, Flexibility, and Diversity in Managing the Risks of 
Technologies," in: C. Hood and D.K.C. Jones (eds.): Accident and Design. Contemporary 
Debates in Risk Management (UCL-Press: London 1996), pp. 40-45; A. Klinke. and O. 
Renn, "Precautionary Principle and Discursive Strategies: Classifying and Managing 
Risks," Journal of Risk Research, Vol. 4, No. 2, (2001), 159-173
10)WBGU (2000), 217-218.
:*訳者注
PRECAUPRI::Regulatory Strategies and Reseach Needs for  European policy on the 
application of the Precautionary Principle:予防原則の適用に関する欧州政策のための規
制戦力と研究のニーズ
CTA: Center of Technology Assessment ドイツ技術評価センター
SPRU:Science and Technology Policy Research:英国科学技術政策研究所
WBGU:Wissenschaftlicher Beirat der Bundest Globale Umweltveranderun:ドイツ地球気
候変動諮問委員会                     (文責 大竹)

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