なぜ予防原則に夢中なのか 大竹 千代子

 私が「予防原則」に出会ったのは、1998年の秋、欧州にツアーで出かけた時です。
 このツアーはいわゆる「環境ホルモン」の情報収集と調査をかねていました。 もちろん、フィヨルド観光がセットになっていて、かねてからの夢も実現したかったので、応募しました。
 尋ねた国と機関は、デンマークの環境庁(EPA)、コペンハーゲン大学、スウェーデンの化学品監視機構(KEMI)、廃棄物処理施設、 ノルウェーの環境水産研究所(SFT)、英国のMAFF、ZENECAの環境研究所などです。

 まず、デンマークのEPAで、行政の人からノニルフェノールとそのエトキシレートの規制の話を聞きました。既に、 ノニルフェノールについては、1995年までに、家庭用洗剤には使用しないこと、2000年までに工業用洗浄剤には使用しないことなどが、 オスロパリ会議(OSPAR)で決定しているということでした。そして、その当時、デンマークでノニルフェノール類がもっと大量に使用されているのは、 洗浄剤ではなく、農薬である、という話をし、「今後、行政、企業、市民が話し合いを持ち、『予防原則に基づき』、 農薬中のノニルフェノールを削減していく必要があります」と説明してくれたのです。

 また、スウェーデンに行きますと、KEMIの研究者が「スウェーデンでは、この問題(内分泌かく乱物質問題)については、 数年前から対応しているので、今回は大騒ぎにはなっていません。今後『予防原則に基づき』、 行政と企業と市民が協力して対応を採っていく予定です」と話してくれました。
そこで、「日本では『予防原則』という言葉はほとんど聞かれません。企業が協力して、 そうした物質を削減するということは考えられません。どうすればいいのですか」と聞きますと、 「日本もUNCEDのアジェンダ21に調印したのだから、『予防原則』を取り入れなくてはいけません」と諭されました。

一方で、可塑剤や臭素化難燃剤のEUによるリスクアセスメント結果などを知るにつけ、 不確実性の問題がリスクマネージメントの決定に大きく影響していることが分かりました。

そうしたことから、私は、欧州など海外の『予防原則』の情報をできるだけ日本に紹介して、この重要性を知ってもらいたいと強く思いました。
そして、リスクが高いと考えられる集団に対して、科学的な不確実性が存在するという理由でマネイジメントが行われない日本の現状を、 少しでも良くしたいと考えたのです。

以上、私が『予防原則』に夢中になっている理由の一端をご紹介しました。


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