参議院外務委員会  昭和31年11月29日

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○梶原茂嘉君 次に私は歯舞、色丹についての引き渡しの関係についてただしたいのであります。
 これはこの共同宣言の規定では「平和条約が締結された後」という言葉が使ってあるのであります。共同宣言上の言葉でありまするから明確にしておくことが必要であろうと思います。私は条約上の用語等については全然しろうとでありますのでお教えもしていただきたい。
 最近一般にはこの第九号の平和条約締結の後という言葉は、いわゆる普通の場合の平和条約締結とともにとかいうのと違うのであって、締結した後これはまあいつになるかわからない。そのためにあるいは沖繩との関連において、そういう問題が解決されたときになるのではなかろうかというふうな見方も、これは杞憂ではありましょうけれども、一般にはあるようであります。そういうことは私はないであろうと思いますけれども、「後」という言葉の意味及び折衝の過程において、これがどういうふうに扱われたか、そういう点について一つお答えをいただきたいと思います。

○国務大臣(重光葵君) 条約局長からお答えした方がいいと思いますから……。

○政府委員(下田武三君) この平和条約締結の後と書いてある点でございまするが、これはロシヤ語のポスレーということでありますけれども、これは何も、後であるから五年先、十年先でもいいという意味では決してございません。これは交渉中の過程、経緯に見本しても明らかでございます。つまり、ソ連側自身が出て参りました歯舞、色丹の引き渡しの議定書というものがございます。それには、六ヵ月後に返還する、引き渡しをすると……、つまりその前にいろんな軍事上の施設その他を撤去する、あるいは役人や兵隊が引き揚げる期間がどうしても数ヵ月要るわけでございますから、平和条約発効と同時にということは物理的に不可能でございますから、それらの必要な手続きを済ました後ということに相なると思います。また、現に平和条約ができます前には、必ず受け渡しの手続きをきめる付属文書ができますから、その付属文書で数ヵ月後ということがはっきりきまることに相なるだろうと思います。

○梶原茂嘉君 次に、私は歯色、色丹それから国後、択捉のまあ性格といいますか、法的の性格をどういうふうに考えていいかの点について伺いたい。
 戦争継続中においてはもちろんこれは戦時占領であって、その面からの合法性といいますか、これが当然あるわけでありますが、この共同宣言が発効いたしますれば、戦争状態といものは終了する。戦争状態が終了した後における南千島の島々の性格でありますが、この島に関しては、依然戦争状態が継続しておって戦時占領の性質にあると、こういうふうに見るべきか、戦争状態が終了したのであるから、引き続いてソ連側がこれを占拠しておることは不当なんだ、不法なんだと見るのか、不法な占拠を引き続いてやっておるというふうに解釈すべきか。あるいはこの共同宣言の第九項によって平和条約締結の後に引き渡すということが明示されてあるのであるから、この九項があるために、不法な、不当な占拠というものが逆に合法化されるんだ、九項によってむしろこの占拠を継続しているんだと、こういうふうに解釈をしていいのか。それらの点についてどうわれわれは考えるのが正しいのか。その点について一つ。

○国務大臣(重光葵君) 第九項によって占領が合法化される意味を持っておらないということは、確かに私は申し上げなきゃならぬと思いますが、その法理関係は、特に条約局長から申し上げた方がよかろうと思います。

○政府委員(下田武三君) 従来は、これらの島々に対するソ連の占領は戦時占領でございましたことは仰せの通りでございまするが、しかし共同宣言が発効いたしますと、第一項の規定によりまして戦争状態は終了するわけでございますから、その後におきましては、もはや戦時占領でなくなるわけでございます。しからば戦争状態終了後、歯舞、色丹をソ連が引き続き占拠しておることが不法であるかと申しますと、これはこの第九項で、平和条約終了後に引き渡すと、現実の引き渡しが行われるということを日本が認めておるのでありまするから、一定の期限後に日本に返還されることを条件として、それまで事実上ソ連がそこを支配することを日本はまあ認めたわけでございまするから、ソ連の引き続き占拠することが不法なりとは、これまた言えない筋合いであると思います。
 それから国後、捉択等につきましては、これも日本はすぐ取り返すといろ主張をやめまして、継続審議で解決するという建前をとっております。従いまして、これにつきましても事実上ソ連が解決がつくまで押えてあるということを、日本は不問に付するという意味合いを持っておるのでありまするから、これもあながち不法占拠だということは言えません。要するに日本はあくまでも日本の領土だという建前を堅持しておりまして、実際上しばらくソ連による占拠を黙認するというのが現在の状態かと思います。

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