脱 キ ッ ト へ の 道               (其の六)              「煮込みと冷却」  美味しいビールの為には、煮込みは大事な要素です。その要点をまとめ てみました。 1.煮込み (1)多めのお湯で煮込む  煮込む場合あまりに量が少ないと、密度が濃くなってしまいうまく行か ないと思います。特にウオートの粘度が高くなるため、焦げ付きの原因に なりやすいとも思います。できれば5リットル以上で煮込んで欲しいと思 います。また、殺菌などの面を考えれば全量を煮込むのが良いのですが、 手持ちの鍋の大きさにもよりますので、各人一番大きな鍋で奮闘しましょ う。私の場合は15リットルくらい煮込んでましたが、今後は全量を煮込 むつもりです。その理由はすごくけちな話なのです。  煮込み後のウオートを発酵容器に移す際、煮込で生まれる粕(TRUBとい う。なお発音はトゥルーブが近いと私は思う)を取り除くため当然全部を 移すことはできません。いくらかは損してしまいます。その場合、煮込み の量が多い方が損する割合が少ないのです。例えばTRUBを取り除く時点で 失ってしまうウオートが1Lで、ウオート中の糖分は2Kgだとして話を進 めましょう。  10Lで煮込んだ場合の喪失糖分:1÷10×2Kg=200g  20Lで煮込んだ場合の喪失糖分:1÷20×2Kg=100g どうです、100gも違います。こんなことを気にするのは私だけかも知 れませんが、これを意識しないと、気づかないうちに薄いビールができて しまう恐れがあります。もっともエキス主体の場合は煮込みで出来るTRUB は少ないでしょうから、あまり気にしなくてもかまいません。 (2)エキスは火を止めてから溶かす  まずエキスやシロップを使うとき、気をつけなければいけないのが焦が さないことです。これらは比重が重いので容易に鍋の底に沈んでしまいま す。そのため鍋を火にかけたままエキスを投入すると、底に面したエキス が焦げてしまいます。焦げ味のあるビールを飲みたい人はいませんよね(^^)  エキスを溶かすときは一度鍋の火を止めてから行ってください。そして 完全に溶かし終えたら再度火をつけます。日本ではあまり一般的では無い のですが、電気コンロを使っている方はもうひとつ注意してください。電 気コンロは、スイッチを切ってすぐには熱が下りないため、焦がしの原因 になります。そこでゴトクのようなものを鍋とコンロの間に挟んで使うこ とを、米国の本では推奨しています。 (3)最低1時間煮込む  煮込みは激しく、最低1時間行ってください。こうすると不要な蛋白質 が固まり、微細なフレイク状になって底に沈みます。これがTRUBです。こ れをホットブレイクといい、ウオートから不要な成分を取り除くのに重要 な働きをします。底に溜まったTRUBは鍋から発酵容器に移す際に取り除き ます。  またホップの苦みを充分に引き出すためにも、煮込みは必要です。苦み づけのホップは充分煮込まないと必要な科学反応が起こらず、その成分を 取り出せません。  ホールホップを使って煮込む場合は、ホップバッグというナイロン袋に 入れて煮込むと、取り除きとすすぎが簡単になります。このバッグは代わ りにナイロンストッキングで良いという話もあります。ペレットの場合は 目の粗い袋だと外に出てしまいます。不織紙を使っただし袋なんかに入れ ると外に出ませんが、結構膨らむ物なのでカスカスに入れないといけませ ん。私は最後に発酵容器に移す段階でホップカスを取り除いているので、 ペレットホップを直接鍋に投げこんでいます。 (4)フィニッシングホップは最後の10分ぐらい煮込む  フィニッシングのホップは苦みづけ用のホップとは違い、1時間も煮込 む必要はありません。香りが飛んでしまうからです。最後の10分ぐらい で投入すれば良いでしょう。ホップのフレーバーがもっと欲しい人は、火 を止める直前に放り込む人もいるようです。色々工夫してみましょう。 (5)アイリッシュモスも最後の10分  煮込みで用いるFinings(清澄化剤)に、アイリッシュモスがあります。 これも煮込みの最後10分に投入します。量は1+1/2さじほどを私は 入れています。あまり長く煮ても意味は無いようです。鍋のウオートを発 酵容器に移すと、底にTRUBに包まれたトコロテンの様な塊がでてきます。 これが蛋白質などを吸着して固まったアイリッシュモスです。 (6)煮込みの間は蓋をしない  煮込み中に蓋をするのは止しましょう。本来飛んでしまって欲しい成分 (DMSというものらしい)が鍋に戻り良くないらしいです。下手をする と、煮トウモロコシの匂いが出てしまうと言われています。 2.冷却し発酵容器へ  この先は私自身の意見も固まっていません。本によってもやり方が違う し、設備によってもやり方が違ってます。極端な話  (1)雑菌の汚染を避けるため早く冷却する。  (2)発酵容器はきっちりと殺菌し、それに移す際は煮込みや冷却によって    生まれたオリはできるだけ取り除く。  (3)この間汚染に最新の注意を払う。 ということだけなのです。しかし、これを効率よく乏しい設備でやるのは 簡単ではありません。特にオリを取り除くというのが、簡単なようでいて 難しいと思います。 2.1 冷却の意味と実際  とりあえず冷却の方法から解説します。なぜ冷却を早くする必要がある かといいますと、温度が高いウオートは汚染の危険性が極めて高いからで す。雑菌の一番繁殖しやすい温度はビール酵母の適温より高めなのです。 ですから煮込みを終えたウオートはなるべく早く冷却してください。  また急速な冷却にはもうひとつの働きがあります。コールドブレイク( 冷却によって、さらに不要な成分が凝固沈殿する現象)が行われることで す。綺麗なビールを目指すならこれも大事になってきます。なお、ホット ブレイクで固まる成分が約7割、コールドブレイクで出来るTRUBが約3割 と言われています。  冷却にはウオートチラーを使うと効果的ですが、ペットボトルに水をい れ凍らせておき、これを入れて冷却するという方法もあります。この場合 はペットボトルの外面を、きちんと殺菌しておくことが大事です。また、 鍋が小さいときはたらいに流水を通し、それに鍋を浸けて冷ましても良い でしょう。要は早く安全に冷やせば良いわけで、各人の工夫次第です。 2.2 TRUBの取り除き方  まず最初に違いをはっきりさせないといけないのが、ここで言っている TRUBは、発酵後に堆積するイースト等の集まりであるオリ(SEDIMENT:セ ダメント)とは違うものだというです。日本語にすると両方オリになって しまい誤解を招くのですが、TRUBは先ほど述べたように不要な蛋白質やタ ンニンの凝固沈殿物で、そのまま発酵させると酵母の活性に役立つことも あるのですが、えぐみのある美味しくないビールの原因になります。  ですからできるだけ取り除くことを私はお勧めします。もっとも、コー ルドブレイクで出来るTRUBぐらいなら、無理に取り除かずともフレーバー にそれ程影響しないと言われています。最近ある人に「ホットもコールド ブレイクも全部取り除こうとするのは、神経質すぎると思うよ」と指摘を 受けました(^^; その方は、カウンターフロー型チラーを使っている都合 上(カウンターフロー型のチラーの場合、鍋の熱いウオートを冷やしなが ら直接発酵容器に移すため、コールドブレイクは取り除けない)、コール ドブレイクTRUBは取り除かずに発酵させているそうです。 (1) 静置による方法  つづいてオリを取り除いて発酵容器に移す方法ですが、静置しておく方 法が最初に考えられます。つまり重力に頼ってオリが沈むのを待ち、それ をオリ引きして取り除くわけです。私の場合冷却に40分以上かかってい ましたのでその間にオリがある程度沈みます。これを残して発酵容器に移 すのですが、これの欠点は「かさが減る」ということです。  もうひとつの方法はMillerの本などに出てくる方法なのですが、密閉式 の発酵容器に移し、イーストを加えます。そして8から12時間後に別の 発酵容器にオリ引きするわけです。これも効果的なのですが、同じように かさが減ってしまいます。  これは私の経験なのですが、初めてオールグレインで仕込んだとき、オ リの除去がうまく行かず、発酵容器の底に4センチほどのオリが積もりま した。それをオリ引きせずにそのまま発酵させたところ、そのオリが舞い 上がりかなりの期間沈みませんでした。最終的には、ある程度発酵が治まっ た段階(それでもまだオリが浮かんでいた)で別の容器にオリ引きし(こ の段階でビールの4割を失った)、さらに2週間程おいておいてやっと澄 ますことができました。ただし、ビールは損しましたがそのおかげでオリ 引きの利点も知りました。これらのオリ引きによって、ビン内のオリが劇 的に減ったのです。ビンの底のオリがほとんど無いのには自分でも驚きま した。 (2) フィルター方式  フィルターといっても設備は不要です。ホールホップを使っている場合 使える方法なのです。ホールホップをザルですくうかホップバッグをその ままザルに載せればこれがフィルターになります。あとはザルを大きな漏 斗に入れ、ウオートをこのフィルターで濾すのです。ホップの花びらがオ リを受けとめ、発酵容器に移るオリを減らしてくれます。なお、この方法 はホールホップを使っていないとできませんし、ホップにある程度のウオー トを吸われてしまいます。じゃあさらにこれをスパージングしようと思う かも知れませんが、せっかく引っかかったオリを、再度スパージングで回 収することになりかねません。止めた方が良いと思います。 (3) 遠心分離による方式  まず遠心分離器を買ってください。ウソです。簡単に言えばウオートを 10秒ほど勢い良くかつ泡立てないように回して渦巻きを起こし、10分 ほど置いておくとオリが鍋の底の中心に集まります。疑う人はお茶の葉を お湯の入ったカップに入れてかき回してみてください。葉っぱは見事に中 央に集まります。さて、そしてその集まったカスを避けて発酵容器にウオー トを移せば良いわけですね。  ただしこの方式を解説しているPapazianの本では、熱いウオートでこれ を行ってオリを取り除き、回収したウオートを再度少し煮て滅菌し、それ から冷まして発酵容器に移すべしと書いてます。面倒ですよね。なぜ冷え たウオートでこれをやっちゃいけないかは明確に読みとれなかったのです が、おそらく「汚染の危険を避ける為」だけが理由のようです。冷めたあ となら汚染の危険性はだいぶ減っているし、コールドブレイクのオリも取 り除けるから、冷えた時点でこれをやった方が良いと私は思いますが、実 際にこれをしたことは無いので何とも言えません。 3.発酵容器に移してピッチング 一部しか煮込まない人は、発酵容器にあらかじめ水を張っておき、そこ に冷ましたウオートを移してください。水が入っているから熱いのを直接 入れたほうが、冷めるしかえって良いと思うかも知れませんが、これをや ると熱いウオートが空気と触れるため、酸化をまねいてしまいます。  ウオートを発酵容器に移して量が足りなかったら水を足しましょう。た だし、オリを取り除く段階でかなりのエキスを失った方は、そのまま水を 足すと薄いビールになるかも知れません。適当に調整してください。 さて、とりあえずウオートを発酵容器に入れました。あとはウオートを 泡立て空気を含ませます。ここで充分に空気(記憶によれば、酵母の発酵 開始には窒素がかなり必要らしい)をウオートに含ませると、発酵の開始 がかなり早くなるようです。Carboy使用者は栓をして容器ごと振って泡立 てます(Papazian推奨)。バケツ等口の広い容器の使用者は、かき回して 泡立ててもかまいません。水槽のポンプで空気を送る方もいるようです。 もしくは私のように、ウオートを容器に移すときに高い位置から注いで、 泡立てながら入れて行くというのも考えられます。お好きなようにしてく ださい。もちろん泡立てるのに使うものは、全て殺菌しておいてください。  あとはイーストを入れます。そして静かな冷暗所に置いてください。マッ シング含むレシピだと、ここまでで5・6時間経過しています。が、最後 にもうひとふんばり必要です。あと片づけが待っているのです。(--;                 工藤弥 claw@cat.email.ne.jp