脱 キ ッ ト へ の 道               (其の参)             「ホップについて」 1.使用量の算出方法  ホップをどれぐらい加えれば良いかというのは、わかっているようでわ かっていない話です。ホップはロット毎に苦みが違うということは知って ましたでしょうか。普通ちゃんとした輸入ホップには Alpha Acid % (ア ルファ酸度)が記載されています。これは苦み成分をどのぐらい含んでい るかの指標値で、高いほど苦くなります。  ホップを加える量は、この値を元に計算します。ですから、これが記載 されていないホップは使う量を求めることができません。私が山から天然 ホップを採って来たときに、一番な悩んだのはこの点でした。また国内で 栽培されているホップを手にいれても同じ問題がおこります。それこそ適 当な量で使うしかないのですが、これを計る方法は無いものでしょうか? 誰か知りませんか。  米国の Home Brewing で一般的な計算方法に、 AAUとか HBUと呼ばれる もがあります。 AAUは Alpha Acid Unitで Millar の本に、 HBUは Homebrew Bitterness Unit で Papazian の本に出てきます。名前は違い ますが同じものです。  1AAUとは、5ガロン仕込んだときにアルファ酸量1%のホップを1オ ンス使った苦みです。言い変えればアルファ酸度=そのホップの AAUとな ります。買ったホップの Alpha Acid の記載が 3.5だったなら、そのホッ プを1オンス入れると 3.5AAUの苦みになるわけです。  いままでの説明は仕込量が5ガロンの場合の量ですから、当然実際の仕 込みの量に応じて調整(仕込量÷18.9を掛ける)しなければなりません。 またホップの量の単位(オンス)をグラムに換算するには、1オンスあた り28gですから、それを掛ける必要があります。以上で AAUでホップの量 を求める公式が出ます。以下はその式です。 ホップの量(oz)=必要AAU÷ホップのAAU(Alpha Acid %)×仕込量÷18.9 ホップの量(g.)=必要AAU÷ホップのAAU(Alpha Acid %)×仕込量×1.5  さて、これで式は出ましたが、もうひとつ問題があります。どのぐらい 入れるかを求めるには、苦みの必要量がわからねばなりません。つまり、 上記の式で「必要AAU」が無いと答えがでないということです。キリンの AAUがどのくらいかなんて誰も知りませんよね。私に言えるのは、とにか く普通は5から15 AAU程度の苦みだというぐらいで、後は調整次第という ことぐらいです。他人のレシピを是非参考にしましょう。  なお、軽いビールは苦みを感じやすく、重いビールは苦みが感じにくく なりますので、その点も考える必要があります。一番いいのは、自分が好 きなホップを決めて、それを使い続けて経験を積むことかも知れません。 1-1. 計算例  みなさんの大好きなヨントリー生が10 AAUだとします。それをコピーし たいと考えホップを買いました。買ったホップはチェコ産のSaazです。 Alpha Acid : 2.5% と書いています。ずいぶんと低い値です。ということ は逆に、多く使わないと苦くならないということです。計算してみましょ う。  望む苦み:10 AAU  使うホップ:Saaz(2.5% Alpha Acid)  仕込み量:10リットル  ホップの量(g) = 10(AAU)÷2.5×10×1.5 = 60g となりました。60gこのSaazを加えればいいということになります。しか しSaazの様なAromaticとかNobleと称されるホップは高いので、60gで結 構な出費になります。もったいないので何とかしたいと思います。 探してみたところ、在庫にTarohatiという怪しげなホップがありました。 一応 Alpha Acid : 15% と書いています。これを苦みの半分に使ってみま しょう。  望む苦み:10 AAUで2種のホップで半々(5 AAU)ずつまかなう  使うホップ:Saaz(2.5% Alpha Acid)  使うホップ:Tarohati(15% Alpha Acid)  仕込み量:10リットル  Saazの量は、 5(AAU) ÷ 2.5×10×1.5 = 30g Tarohatiの量は、 5(AAU) ÷ 15 ×10×1.5 = 5g となりました。すごいですね、たった5gでSaazの30gに相当します。じ ゃあ Tarohati を10g使えばそれで良いかというと、たしかに苦みは合い ます。しかし、高Alpha Acidのホップは概して香りなどは良くないので、 普通フィニッシングには使いません。苦みづけに使うのが妥当だと思いま  ここでフィニッシングという言葉が出ましたが、フィニッシングホップ は最後の5から15分で煮込みます。なぜかというと、長く煮込むと香りな どは飛んでしまい、苦みだけが残ってしまうからです。その反対に煮込み 時間が短いと、苦みはあまり出ずに香りがのこります。苦みがでにくいの ですから、フィニッシングに用いるホップの量は単純に計算できません。 AAUで計算する場合は抽出できる苦みを半分と考え、倍量にして仕込みま す。このあたりがかなり適当ではありますが、自家醸造用ということで割 り切ってください。  望む苦み:10 AAUで2種のホップでまかなう。 4 AAU : Tarohati (15% Alpha Acid) 60min. 煮込み 3 AAU : Tarohati (15% Alpha Acid) 45min. 煮込み 3 AAU : Saaz   (2.5% Alpha Acid) 15min. 煮込み  仕込み量:10リットル       ホップは60分、45分、最後の15分(フィニッシング)の三段       階で加え、それぞれ4、3、3 (AAU)の苦みとしたい。       最初の2段階は Tarohati、フィニッシングのみ Saaz とす       る  1回目の Tarohatiの量は、4(AAU) ÷ 15 ×10×1.5 = 4g  2回目の Tarohatiの量は、3(AAU) ÷ 15 ×10×1.5 = 3g  フィニッシングのSaazの量は、3(AAU)÷ 2.5×10×1.5 = × 2 = 18g  というふうになります。これがわかってくると、違うホップを使っても 毎回ほぼ同じ苦さのビールを造ることができるようになります。 なお以上のようにグラム単位の計量が必要になりますので、細かな秤が 必要になります。私はg単位ではかれるベーキング用の秤を買いました。 しかし値段も結構張りました(3500円ほどでした)。 2.ホップの形態とその違い (1) Whole Hops (ホールホップ)  生の花の形のまま流通しているもので、当然一番新鮮なのかなとは思い ます。ただし私は使ったことが無いので寸評できません。かさばるので保 存スペースを必要とします。またスポンジみたいな具合にウオートを吸う のでスパージングは必須でしょう。Flowerと言う場合もあるようです。 (2) Pellet Hops (ペレットホップ)  砕いたのを兎の糞くらいに固めている(pelletize)したものです。かさ ばらないので保存がしやすい。外が固まっているので内部の酸化が少ない。 後はブレンドしやすいなどの利点があります。ただし細かい粒の集まりな のでザルで濾すとかはできないため、鍋の底に溜まってしまいます。後で オリ引きなどで取り除く必要があります。私はこれを使っています。先日 山形産のホップを使ったビールを飲んだのですが、そのホップが新しかっ たせいか、とても香りが素晴らしく、 Whole Hops も良い物が手に入れば 使ってみたいと思ってます。 なおペレットの場合破砕されているため苦みの抽出がホールに比して良 いため、計算値の85〜90%の量で使用するのが一般的なようです。 (3) その他 NBで売ってる今川焼きみたいな形のホップは、プラグと呼ばれるもので す。商品名にHopletとか書いてあってややこしいのですが、ペレットホッ プではありません。あの形にホールホップを圧縮したものらしいです。 プラグタイプのホップを売っている店自体は少ないようです。 3.ホップの購入と保存  ホップは新鮮でなければなりません。ですから保存には気を使ってくだ さい。買ってきたホップは冷凍庫に保存するのをお勧めします。私の部屋 の冷蔵庫の冷凍庫はホップしか入っていません。しかし、ベルギーの一部 ビールにはわざと茶色になってしまった古いホップを使うのがあります。 そういうのを目指す方はそれなりに対処しましょう。購入については、一 度にいっぱい買ってしまうと、大量に使うものでもないだけに、私のよう にずーっと同じものを使い続けねばならなくなります。ですから季節毎に 消費できる分を計画し、それに基づいて購入するのが良いかも知れません。 ザ・セラー・ジャパンやNBジャパンなどでも購入できますが、軽いので個 人輸入でも送料もそれほどかかりません。穀類より輸入しやすいと思いま すので、挑戦してみてはいかがでしょうか。 4.ホップの銘柄別特性  ホップの銘柄別特性は醸造関係の雑誌や、Homw Brew Shops のカタログ 等にも掲載されています。また、AHAの無料インフォメーション等から得る ことも出来ます。是非入手して参考にしてみてください。ちなみに Tarohati は幻の商品で、その特性は謎です。                 工藤弥 claw@cat.email.ne.jp