脱 キ ッ ト へ の 道               (其の弐)           「まずはSteepingで穀類を使ってみよう」 1.基礎モルトと特殊穀類  穀類には基本的に2つに大別できると思います。ひとつは基礎モルトで す。これは発酵に必要な糖分のほとんどをまかなう為のモルトで、普通は Paleモルトなどと呼ばれています。これの解説はパーシャルマッシングの 時に詳しく行います。 もうひとつは特殊穀類(Special Grain)で、ビールに様々な個性を与える ために用います。市販のビールもこれらを使って個性を出している訳です。  我々がエキスの缶詰を使うということは、基礎モルトの部分を缶詰で代 用することになるわけですね。それに特殊穀類を色々付加して使えば、お 好みの風味をもったビールを造れることになるのです。ギネスのあのこお ばしいコーヒーの様な風味を得たければ、ロースト麦を少し使うとかすれ ば良いでしょう。では実際に、特殊穀類を使うにはどうすればいいのでしょ うか。  特殊穀類を使う場合、すべての穀類が糖化(mashing)を必要とするわけ ではありません。その製造工程ですでにほとんど糖化が済んでいたり(カ ラメルモルトの類)、高温で焙煎しているため糖化酵素自体が非活性になっ ている(ロースト麦、チョコレートモルト等)ものは、糖化を必要としま せん。これらはSteepingで使うことができます。Steepingというその言葉 どおり浸して使うわけです。お茶を想像していただければ良いと思います。  むろん特殊穀類にも糖化を必要とするもの(munchモルト等)があります。 これらの場合は糖化して使うことになりますので、いずれ述べるパーシャ ルマッシンなどで使うことになるでしょう。ただし糖化を必要とする特殊 穀類は、その個性が糖化を必要としない物に比べると弱いと思います。で すからエキス主体のビールで無理して使ってもその意味は薄いかも知れま せん。まず最初は糖化を必要としない特殊穀類を、Steepingで使うのが穀 類攻略への第一歩だと思います。 2.Steepingの実際  能書きはこれくらいにして、Steepingの方法を述べましょう。実に簡単、 お湯に穀類を入れ、67℃ぐらいで30分保つ。これだけです。  まず、中に入れる穀類は、あらかじめ棄てやすいように網状の袋(私は 台所の三角コーナー用に売っているゴミ袋から、使いやすそうなのを選ん でいます)に入れておいてもかまいませんし、煮込み用の鍋にあける時点 で、目の細かいザルかなにかで漉してもかまいません。あっと、書き忘れ てましたが穀類は破砕済みのものを使ってください。注文するとき "CRUSHED"と指定すればタダで破砕したのを送ってくれるはずです。自分で 砕く方は各人それぞれやりかたを工夫してください。もっともSteepingに 使う程度の量ならミキサーで粗く砕いてもかまわないでしょう。  使うお湯の量は1ポンドあたり1クオーター(220cc/100g)ぐらいが目 安です。そのお湯をあらかじめ10℃ほど高めの温度で沸かしておき、そこ に穀類を入れて(必然的にお湯の温度は下がります)ください。もし穀類 を入れても温度が高ければ少し水を加え、逆に温度が低ければ加熱して温 度をあわせます。  その後その温度を30分間保つわけですが、その方法としては、5分お きに加熱するとか、私のように大きな魔法瓶に放り込んでおくなどがあり ます。まあ、あまり神経質にならなくても良いと思います。ひとつだけ注 意すべきなのは、温度を上げすぎて煮出さないことです。煮出してしまう と、穀類の殻からえぐみなどが出てしまいます。  30分の保温が終わったらエキスの溶け込んだお湯を、煮込み用の鍋に あけます。このとき少しでもエキス分を多く取り出したい方は、穀類を7 7℃ぐらいのお湯ですすいでください。このとき欲張って、穀類の入った 袋を絞ったりはしないでください。不要な成分も絞り出されてしまいます。  あとは通常通りに煮込み用鍋のお湯の量を調整し、缶詰のエキスを溶か し、煮込んでホップを加え・・・、となります。  ここで述べたこの方法以外に「手造りビール事始め」に載っている方法 があります。具体的には「穀類を入れた鍋をゆっくりと加熱し、煮立つ直 前で止める」という方法なのですが、私がやったときは失敗してしまいま した。「沸騰の直前まで鍋を監視」というのは私の性格には合いませんで した。 3. 特殊穀類の使用量と解説  特殊穀類はどういう使い分けをすれば良いのでしょうか。むやみに使っ ても美味しいビールはできないでしょうから、使用量など各種レシピを参 考にしてみましょう。そのためにも外国の本を読むことをお勧めします。 レシピぐらいでしたら、外国語でもすぐに理解できます。それでも今すぐ に使ってみたいという短気な方は、とりあえずクリスタルモルトを買って、 Steepingして淡色系のキットに加えて使ってみましょう。量は200gも あれば良いでしょう。ロースト麦のかわりに麦茶を使うという手もありま す。  参考までに、米国で市販されている各穀類の特性を以下に記します。私 がよく買っているBrewCraftersのカタログの内容を訳したものです。訳に は自信ありません。まちがっていたらご指摘ください。ちなみにnnnLと 書いてあるのは色の濃さの指標です。また、あくまでもBrewCraftersの商 品での説明ですから、他店のものとは色の濃さや品揃えに違いはあると思 います。 3.1 アメリカン ・Black Patent Malt 474L (Black Malt) 市販中最濃色の麦芽。ビールと泡の色を黒くする。スタウトやポーター  に。コーヒー風の焙煎風味を与える。 ・Caramel Malt (Crystal) 20L わずかにカラメル色がつく、非発酵性の糖分を含むため、甘みやコクを  与え、口当たり良くする。 ・Caramel Malt (Crystal) 60L 多くのレシピでクリスタルモルトと称されているモルト。濃い目のカラ  メル色 がつく、非発酵性の糖分を含むため、甘みやコクを与え、口当  たりをよくする。 ・Caramel Malt (Crystal) 90L  深いカラメル色がつく、非発酵性の糖分を含むため、甘みやコクを与え、  口当たりをよくする ・Caramel Malt (Crystal) 120L  リッチな少し焙煎味のあるカラメル風味。深赤色。非発酵性の糖分を含  むため、甘みやコクを与え、口あたりをよくする。 ・Roasted Barley 335L 深く炒った麦(麦芽ではない)。泡とビール双方の色を独特に変える。  ドライな焙煎風味。スタウトに使う。 ・Special Roast 50L Victoryモルトより深炒り。赤褐色と炒り麦芽風味を与える。 ・Victory Malt 25L 明るい焙煎麦芽、少しトースト風味を与える。 ・Vienna Malt 3.7L 糖化必要。豊かな麦芽味を与える。オクトーバーフェストやMarzensビ  アーに。 3.2 英国モルト ・Light Crystal Malt 50L 琥珀色。カラメルキャンディー(caramel toffee)の様な風味を与え、コクを増す ・Dark Crystal Malt 90L  ルビー色とリッチで豊富なコクをビールに与え、甘みとカラメル風味も  付加。スコッチエールに最適。 ・Chocolate Malt 400L ポーターやブラウンエールにナッツ風味や、焙煎風味を加える 3.3 ドイツモルト ・Wiener(Vienna) Marzen,ViennaそしてOctoverfestの様なモルト風味豊かなビールでは  100%使われている。糖化が必要。 ・Munchener(Munich) Maibockの豊かなモルトテイストを、色を濃くしすぎずに与える。Bock  やDunkelに。糖化が必要。 3.4 ベルギーモルト ・Aromatic 17-21L Munchより濃い。豊かで少し焙煎味をもつ麦芽風味を与える。糖化要。 ・Biscuit 23-26L 軽く焙煎した麦芽。軽い焙煎風味。要糖化 ・Caravienne(Crystal) 19-23L 豊かで少し焙煎味をもつアロマ。コクの増加と泡持ちに効果 ・Caramunich(Crystal) 53-60L 赤銅色。甘み、コク、泡持ちを与える。 ・Specitl B (Crystal) 75-150L 濃い色のクリスタルモルト。強いカラメルのキャラクタ。 4.参考レシピ  私が以前三共モルトと穀類でブラウンエイルを造ったときのレシピを載せ ておきます。 「三共モルトブラウンエイル」−総量19L  三共モルトエキスB2  2Kg  クリスタルモルト    240g  チョコレートモルト   120g  黒砂糖         300g  Kent Golding Hops Pellet 42g (30分ボイル) O.G. 1045 F.G. 未測定  Wyeast #1007 German Ale Yeast (もしくは Dry Ale yeast) 穀類は2リットル65℃のお湯に40分浸し、その後75℃のお湯2リッ トルで穀類をすすぎ、殻についたエキスを取り出します。                 工藤弥 claw@cat.email.ne.jp