脱 キ ッ ト へ の 道               (其の壱)           「キット缶でより美味しく」 1.はじめに  欧米の自家醸造先進国では、味や技術を向上させるのに不可欠なのは、 地域の自家醸造クラブへの参加することだという意見があります。つまり 独り寂しく醸造を行っていては、いかに自家醸造先進国といえども情報不 足で、技術と味の向上には限界があるということです。私は幸いにもパソ コン通信のNifty-Serve上という、自家醸造の意見交換が出来る場を持っ います。  今までこのパソコン通信を経由して様々な意見を聞き、自分でも発言し てきたおかげで、醸造経験が1年と少ししか無い私でも、ずいぶんとうま いビールを造れるようになりました。もっとも、ある場所では激賞された ビールが、別の人に「ジキニン」の様だと言われたこともありますから、 自分が思っているほど美味しくはないのかも知れません。それにしても、 ジキニンとは、どういう味なのでしょうか。  そしてパソコン通信のあるメンバの方から「キット以外のビールの作り 方が知りたい。興味はあるがノウハウが全くない。おまけに日本語の本も 無い。だれかパソコン通信上で解説してくれないか」という要望が出まし た。元来お調子者の私はすぐこの話にのり「それじゃ私が解説しよう」と 言ってはじめたのがこの記事の元になっています。そして「せっかくだか らWWWにも載せたほうが良い」との意見も出ましたので、こうして記事をま とめたわけです。  記事の内容としましては、エキスのみではなく穀類を使った醸造という ことまで話しは進みます。確かにキットだけだとバリエーションが少なく、 キットの殻を破りたい方の参考に少しはなると思います。手始めに(其の 壱)は脱キットということを解説します。キットの味の向上策として読ん でください。 2.キット缶でよりコクのあるビールを  キット缶ビールの欠点として、コクの不足があります。残念ながら、砂 糖を多量に加えるレシピでは、そうなるのが当たり前かもしれません。キッ トは普通砂糖を加えることが前提になっています。そして、砂糖を使った 場合アルコールは増えますがコクは増えません。なぜならば砂糖は発酵に よって炭酸ガスとアルコールにほとんどが化けてしまうからです。コクは 麦芽に含まれる多様な成分の織りなすもので、砂糖からは得られません。 それどころか砂糖の使いすぎは、薄っぺらなサイダー様の味を生むと言わ れています。自分のビールがなんとなく水っぽく、舌に絡む少し酸味を帯 びた炭酸の刺激があるようなら、それはおそらく砂糖の使いすぎです。  それを解決するにはモルトエキスをもっと使う必要があります。しかし コクがありすぎても困ることもあります。コクを減らす目的で砂糖を使う なら、糖分の二割までと言われています。そしてモルトエキスを多く使っ た仕込ですぐ思い浮かぶのが、次の方法です。 (1)キット缶を少ない総量で仕込む (2)キット缶を2缶使う  いずれも共通の問題があります。キットは指示通りの仕込みで苦みなど がちょうどよくなるようにできています。それを上記の方法で仕込むと、 どうしても苦くなりやすいのです。そこで次の方法がでてきます。 (3)キット1缶+ホップなしのエキスで仕込む  ホップなしのエキスとは、モルトエキスとして売られている物で、国内 の品だと製菓材料のモルト(たとえば三共モルト等)しかないでしょう。 個人輸入をするのであれば、ドライでもエキスでも買えます。またザ・セ ラー・ジャパンでも購入出来ます。以下はレシピの例なのですが、私が机 上で考えただけのものなので、うまいかは保証できません。 名前:Advanced Wonder Larger 総量18リットル  1 can Wonder Lager kit  (1.7kg)  1 can Alexander's Kicker pale malt extract (0.6kg)  0.5 oz.(14g) ハラタウホップ エキスとキット缶を湯にとかし、60分ボイル  煮込みの最後の10分間にホップを投入 O.G.(初期比重)推定:1035 F.G.(最終比重)推定:1007  推定アルコール度数:3.5%  アルコール度がもっと高いほうがよければ、Kicker缶をもう一缶追加し ましょう。5%を近くになると思います。Kicker缶の代わりに三共モルト エキスなどを使っても良いですが、色は濃くなってしまいます。またドラ イモルトをお持ちでしたら、キットの説明にある砂糖の代わりに使ってみ てください。ドライモルトエキスは砂糖に比して1割ほど多く使えば良い でしょう。  なおこのレシピではフィニシッングのホップを使っています。煮込み時 間が長いとキット中のホップの香りは飛んでしまうので、ぜひ入れてくだ さい。もちろん使うホップは新鮮なものが良いのです。 3.イーストを変えてみる  正直な話、キットの付属イーストには?な物もあるようです。特にラー ガーイーストは中身はラーガーみたいなエイルイーストというのもあるよ うです。イーストをリキッドタイプや信頼性のあるドライイーストに変更 してみるのが味の向上に貢献します。イーストはビールの母です。これ次 第で子供の個性は決まってしまいます。良いイーストをつかいましょう。  私が初めてリキッドタイプのイーストを買い、それを使ってなにが違う と思ったかといいますと、それは出来上がりのビールの香りです。とても 良くなったと思っています。また熟成期間が短くてもそれなりに飲める (飲めるまでの期間が短くて済む)とも思っています。  またドライイーストを使う場合でも、使う前に35℃前後のお湯にイース トを溶いて、しばらく置いて活性化してから使ってください。なおイース トの扱いについては、別の号でさらに説明したいと考えています。 4.ワートを急速に冷ます  煮込んだワートはなるだけ速くイーストをいれれる温度まで下げる必要 があります。今の時期(冬)なら問題は少ないのかも知れませんが、温度 を速く下げないとその間に味をまずくするバクテリアなどが繁殖してしま います。酸っぱいビールを造りたくなければ、できるだけ速くさましまし ょう。氷を使ってはいけません。冷蔵庫というのは家庭で一番雑菌の居る 場所なのです。鍋ごと流水に浸すとか、チラーを使うとかも考えられます。 また、ペットボトルに水を入れて凍らせ、それを使って冷やす方法もあり ます。もちろん、冷凍庫から取り出したペットボトルは、使う前に充分滅 菌しておいてください。 5.発酵前のワートにはできるだけ空気を含ませる  酵母の健全な発酵には、発酵前のワート中に空気が充分含まれている必 要があります。これをしていないと発酵が遅かったり、途中で発酵が止ま る(スタック・ファーメンテーション)ことになったりします。また種々 の変な味の原因にもなります。  先ほど温度が高いとバクテリア等による汚染が怖いとの話をしました。 しかしいくらウオートの温度が低くても、発酵していない状態では汚染の 危険性が高いのにはかわりありません。発酵の開始を速くして、少しでも 汚染の危険性を減らすためにも、できるだけ多くの空気を含ませるように してください。私の場合は、ウオートに水を追加するときに先を絞ったホ ースを使い、勢い良く水を加えることで空気を取り込んでいます。  これらの点に注意すれば、キット缶でもそれなりの味にはなると思いま す。そしてこれにさらに個性を加えたいと思うなら、グレインを使いまし ょう。                 工藤弥 claw@cat.email.ne.jp