フィラーの写真

カウンタプレッシャーボトルフィラーの制作と使用方法

(Counter Pressure Bottle Filler, How to make and use)

1.はじめに
樽でビールを飲むのは楽しいし楽ですが、ビンに比べて明らかな欠点がひとつあります。それは友人や知人に分けたり、パーティー等に持ってゆくのが樽のままだと困難だということです。そう、そのためには樽からビールをビンにつめ直さなくてはいけません。
樽の中のビールは既に炭酸が入っていますから、これを逃さずにビンに移すことができれば、新たにプライミングする必要はありません。しかし薄情なもので、タップからそのままビンにビールを移しても、大方の炭酸は飛んでいってしまいます。せっかく瓶詰めして友人のところへ持っていっても、こんなビールでは威張ることができません。
そんな問題を解決するための道具がカウンタプレッシャーボトルフィラーです。この装置を使うことによって、ある程度の炭酸量を保持したまま、樽からビンにビールを移すことができます。
2.原理・構造
カウンタ・プレッシャー・ボトル・フィラーの原理図
カウンタプレッシャとは訳せば逆圧となるのでしょうか。つまり圧力が同じ容器間では内容物は移動せず、圧力が違う場合は高い方から低い方へと流体が移動することを利用しています。
図を見てください。ゴム栓には二重パイプが通り、中のパイプがビンの底近くまであり、外のパイプは上部で終っています。中のパイプは上部で二つに分岐しており、それぞれがバルブを経由して炭酸ガスラインと、樽からのビールラインに繋がっています。また、外のパイプには、途中にバルブが設けてあります。
すべてのバルブを閉じ、炭酸ガスのバルブだけを開くとビンにガスが流入します。そしてそれがレギュレイタの圧力と同じになればガスの流入は止まります。同じ圧が樽の方にもかかっていますから、この状態では、圧力は平衡していることになります。続いてガスのバルブを閉じ、ビールのバルブを開けますが、圧力が平衡しているためビールは流れ込みません。そして外側のパイプのバルブを開くと、ビン内のガスが抜けるため、それによって減った圧力分だけビールがビンに流入します。そしてビン内のビールが増えて圧力が再度平衡すると、ビールの流入は止まります。
外パイプのバルブでガス抜きをするとき、ごくわずかずつ抜けば、きわめて静かに樽からビンへビールを移動できます。この間はガス圧がビン内に掛かっていますので、ビール中のガスが外に出てくるのも抑えられます。以上によってビールのガスを減らさずにビンに移し替えることが可能になります。

3.制作
3.1 材料
以下がこの記事で使った材料です。
(1) 1/4"−3方ニップル (1/4"FNPT-MNPT-FNPT) *         2個
(2) 1/4" MNPT-Barb 真鍮タケノコ                       3個
(3) 1/4" MNPT-Barb 真鍮タケノコ(90度曲がったもの)    1個
(4) 外径7φステンレスパイプ(真鍮でも可)            300mm
(5) 外径9.5φ(3/8")ステンレスパイプ(真鍮や銅でも可) 100mm
(6) 1/4" MNPT-FNPT 真鍮ボールバルブ                   2個
(7) 1/4" FNPT-FNPT ニードルバルブ *                   1個
         (フローコントロールバルブでも可)
(8) 配管用シールテープ
		
*NPT(National Pipe Thread)配管用標準のネジ規格。テーパネジになっている。
FNPTはメネジ、MNPTはオネジ。
PT以外にPFというのがあるが、これはストレートネジで、今回は使わない。

*ボールバルブでは微調整が効かないため、微細なガス抜きが必要なこの用途には向きません。そこでニードルバルブやフローコントロールバルブ、スピードコントロールバルブ等を使います。

3.2 組み立て 組み立て図1
(1)方ニップルのオスネジ内に7φステンレスパイプを5mmほど差込み、半田付けする。ステンレスを半田付けするにはステンレス用のフラックスが必要。半田ごてでは無理なので、ガスライタのガスを使うような簡易型のガスバーナで火が小さいものを使用すると良い。また使用する半田は配管用の鉛無し半田を使用すること。
組み立て図2
(2)1/4"の真鍮タケノコを加工してアダプタを作り、その中に9.5φのステンレスパイプを通し半田付けする。(図を参照)

(3)7φステンレスパイプを付けていない方の三方ニップルに、上記パイプをねじ込む。

(4)三方ニップルと9.5φのパイプの中を通過するように7φのパイプを差し込み、オスネジを一方のメネジにねじ込む。

(5)上部の三方ニップルの両端にボールバルブを取り付け、双方のボールバルブの 端にタケノコを付ける。

(6)下部の三方ニップルのオスネジにニードルバルブをねじ込み、ニードルバルブの片端に90度タケノコを取り付ける。このタケノコにはビニールホースを付けて、ガスとともに出てくるビールをきれいに排出できるようにする。

(7)9.5φのパイプにゴム栓を付ける。

(8)瓶詰め予定のビンの中で、一番短いビンに合わせて7φのパイプを切断する。長いビンに瓶詰めするときは、パイプの先に適当な長さに切ったビニールチューブを付けて使う。

組み立て図(全体)
4.使用方法

まず第一にしないといけないのは、樽のビールとビンを冷やすことです。ビールは氷点、ビンは凍るくらいに冷やしてください。ビールが暖かいと、いかにこのフィラーを使っても炭酸が逃げてしまいます。またビンもしかりです。

続いて、原理・構造の章の図の様にラインをつなぎます。タケノコに差したホースは皆クランプでかしめてください。その後樽と同じ圧力にレギュレイタを調整してください。フィラーのバルブはすべて閉めておきます。

ビンにフィラーを通し、ゴム栓をきっちりはめます。次にフィラーのガスラインのバルブを開きます。ビンにガスが流れ込み、しばらくするとそれが停止します。そうなったらニードルバルブをゆっくり開いて、中の空気やガスを追い出します。そのまま10秒ほど保ってください。これでビン内の空気が炭酸ガスと入れ替わります。空気抜きが終ったらニードルバルブを閉じ、ガスをビンに溜めてビン内の圧を樽の圧と平衡させます。ガス圧が平衡したらガスラインのバルブを閉じ、ビールラインのバルブを開けます。ビン内の圧は平衡しているため、ビールはビンに入りません。その後ニードルバルブを少し開き、ビールを少しずつビンに移します。この時急ぐとたくさんの泡がでて、炭酸が抜けてしまいます。最低でも1分/本はかけてください。ビールがゴム栓のほんの少し下まで達したら、ニードルバルブを閉じ、ビールラインのバルブも閉じます。続いてニードルバルブをごくわずか開放し、ビンの上部のガスを抜きます。ガスが抜けたらフィラーを抜き、速やかに蓋をしてください。

4月5日にこのフィラーを試用しました。その結果ですが殆どガスの損失無く瓶詰めが可能です。ニードルバルブの性能が良いためか、ガスの抜け具合を微妙に調整できて非常に楽でした。ニードルバルブの性能がチラー自体の性能に大きく関与する様ですので、自作する場合は良いバルブを使いましょう。

冷たいビールが通るためフィラーも冷たくなりますので、ゴム手袋などをして作業した方が良いでしょう。また万が一のビンの破裂の備えて、防護眼鏡などをしてください。それと力を抜いた拍子にガス圧でボトルからチラーが外れることがありました。そういう時は天井をモップがけするはめになるかも知れません。

5.参考資料他
本記事の作成にあたり、以下の記事を参考にしました。

Marty Tippin さんの Marty's Counter-Pressure Bottle Filler は、市販の部品を用いて、売っている物と遜色の無いフィラーを作成しています。

Ken Schwartz さんの Poor Man's Real Counterpressure Bottler は、タイヤバルブとピクニックフォーセットを使用した、安価なで性能の良いフィラーの作成記事です。

また、市販のフィラーを買うのであれば、Zymurgy Vol.18 No.3 (Fall 1995) での評価記事が参考になります。なお、この記事中のFOXXの製品は、Zymurgyの評価を受けて後、改訂があった様です。

6.あとがき
この記事のフィラーの制作には4−5千円は必要かも知れません。道具類を含めるともっとでしょう。鉛無し半田だけで数千円は必要です。市販のフィラーが$50程度で買えることを考えると、非常に意味の薄いことかも知れません。しかし私としてはこのフィラーの見栄えと性能に、醸造道具制作オタクとして非常に満足しております。
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