『肩先までの数センチ』


二人が美術館を後に歩き出すと、もう北の丸公園は薄暗くなっていた。 

『私なんかじゃなくて、もっと別な人を誘えばよかったのに・・・』

「そんな人いませんよ・・・。っていうか、僕、今すごく好きな人がいるんだけど、その人には、

彼氏がいるらしいから・・・」

『えっ、私の知ってる人かな?ホントに付き合ってる人がいるのか、ちゃんと確かめて

みたの?!』

「いいえ、勇気が無くて・・・。」

『私でよければ相談にのっちゃうわよ!話してみてよ。』

「う〜ん。もちろん、皆でどこか行くときには、すごく仲良くしてるし、スムーズに話もできる

んです。たまに映画とかに誘うと、その人自然な感じで付き合ってくれるし・・・ 

でも、それが僕に対する好意だとは思えないんですよね。」

『でも、本当に嫌いな人だったら、二人で出かけたりしないんじゃないのかな?』

「そうなんですよね。だからあきらめ切れなくて・・・」

『もしかしたら、その人もケンジくんのことが好きで、そう言ってくれるのを待ってるん

じゃないのかな?思い切って告白してみたら?!』

「そうかなぁ〜。う〜〜〜〜〜ん・・・」

ケンジは大きく両腕を振り上げて身体を伸ばすと、その手を所在なさそうに、絵里奈の

肩先近くで止めた。

『どうしたの?』

驚いたような表情で絵里奈はケンジを見た。

「僕、どうも肩を抱くっていうのが、苦手なんですよね。なんだか気恥ずかしくて、いつも

肩から数センチ離れたところまでくると、手が止まっちゃうんです。」

『え〜〜っ?!どうして?そのまま自然に手を下ろせばいいだけじゃない。私で練習して

みたら?!』

絵里奈はケンジの右手を取って、自分の肩に乗せた。

ケンジは絵里奈の肩をぎゅっと抱くと言った。

「僕、思い切ってその人に告白することにします!絵里奈さん、彼氏がいるのは知って

いますが、好きになっちゃいましたっ!!」

・・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・

『ごめんなさい・・・。まさか私のことだとは思わなかったの。私、結婚を約束している人が

いるの。ケンジくんも知ってるでしょ?今年卒業して都庁に入った2つ先輩の都築さん・・・』

絵里奈は次の言葉を捜しているのか、うつむいて黙ってしまった。

でも、その目は輝き、唇には微笑みがうかんでいるのだった。

 

 

実はこのストーリーも、ある曲からインスピレーションをもらって書いてみました。

どの曲かわかるかな?!(笑)